血塗れ修道女は刑を執行する
ムスカリウサギ
#01
幕前 わたしたちは修道女ですから
☆
「――
そう、
わたしはゆっくりと、彼女の胸に突き刺さっていた『
バッ、と言う音と共に世界に広がっていく赤色。
それは
その赤色越しから映る景色は。
ああ。
ああ、なんて。
なんて
血に伏した少女の身体からは赤色が溢れ出し、その下に広がる
ひゅぅひゅぅと鳴り響いていた
後には
何も映さない
見開かれたままの
天を仰ぎ、一人、自戒の祈りを切りました。
それらが終わったら。
わたしはひとつ息を吐いて、手にしていた『
赤い
『それ』は
「お疲れ様、ミレン」
そして、落ち着いた(それでいて少し弾んだような)
「はい」
わたしはそう、一言応えて。
「ありがとうございました、マリー」改めて、くるりと向きを変え、声の主……マリーに視線を移します。「毎回、面倒な事をお任せしてしまって、申し訳ありません」
言葉と同じく、感謝を込めて、笑顔で。
彼女のフォローには、いつも助けられてばかりです。
「それはお互い様。逆にあたしは、直接的な荒事には向いてないから、適材適所という事よね」
惜しむらくは、彼女の本質とはまるで正反対なところでしょうか。
あとは言葉とは裏腹に、もっと褒め称えて良いのですよ、と瞳が雄弁に語っていることも追加ですね。
……はて、そうしますと、聖母のような慈愛とは何か、という別の疑問が……。はい、やめましょう、この自問。切り替えようと目を閉じ、まばたき。
……ッ!
目を開くと、そこにはマリーの顔。
それこそ、キスを交わせるほどの距離に。
「全部、
先程より
少しドキッとしましたが、マリーの瞳には怒気はありません。どちらかと言えば、
「すみません、正直は美徳の教えが染み付いているもので」
だからそんな風に、すました顔で返せばほら。
「……ったく。神の教えってのは、万能ね」
「それはもう。万能たるお方の教えですから」
すぐ笑い話に変わって、はい、お
マリーはふわりと舞うように距離を取ると、動いたせいか少し乱れてしまったその
そんな些細な仕草に女性としての美しさを感じ、一瞬見惚れてしまいます。そしてわたしの視線に気づいたマリーは、くすっと笑い、その形の良い唇を開くのです。
「ま、終わったのならさ。
……それで口にするのが、この内容です。
「西王国ジョーク、やめて下さい」
生まれがそうであるためか、マリーはこういう下世話な表現を好んで使うように思います。
そんなジョークでも。
「ごめんごめん、あんたにはわかんないわよね」
「残念ながら、わたしには一生わからないと思います」
少し
清貧、純潔、服従。そう――。
「わたしたちは、修道女ですから」
わたしはじっとマリーを見据えます。
そんなわたしを見て。彼女はほんの少し、考える素振りを見せたかと思えば、ニヤリと笑って言うのです。
「はいはい、そーね。あたしみたいな、跳ねっ返りとは違うもんね」
あ。
「いえ、そういうつもりじゃ……」
今の言い方はダメです。間違えました。
どうしましょう……そう考えていると。
「ま、それはいいから」
ぎゅっと。右手に温もりを感じてふと見れば、マリーがわたしの手を握っています。そして
「早く、帰りましょう」
……
きっと今のわたしは、とても複雑な表情を浮かべているのでしょう。……自分では分かりませんが、そんなわたしを見つめるマリーのニヤニヤとした表情を見れば、一目瞭然と言いますか。
わたし……ミレンは、まだまだ子供なのでしょう。
悔しいですが、今はマリーの優しさに甘えさせてもらいます。
「……はい。ありがとうございます、マリー」
「ん、素直でよろしい!」
芝居がかったやり取りをして。
そうしたら、二人、吹き出すように笑い合って。
錆色の世界から抜け出すように、速やかにこの場を離れるのでした。
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