1-12
そこはオールドウォール通りから30分ほど離れた、下水道の一画。
その扉には〝排水管分岐調整室〟と書かれてあった。
ジェフ・マクレガー警部はゼインに銃口を向けたまま言う。
「開けろ」
ゼインは腰のポケットから鍵をとりだす。そしてそれをドアノブの鍵穴に差し込み、開錠する。
ゼインは鍵を抜き取り、ドアノブを回そうとした。が、ドアノブはなかなか回らないようだ。 ジェフは、ゼインが何度もがちゃがちゃとドアノブを回転させようとする姿を見ていた。
「くそ! 回らねぇ!」
ゼインは、なおもドアノブとの格闘を続ける。
「どうなってるんだよ!? このクソったれのドアノブが!」
と、そこでようやくドアノブは回転したようだった。
ゼインはゆっくりとドアを開いた。
ジェフは言う。
「お前が先に入れ」
ゼインは言われた通り、すごすごと〝排水管分岐調整室〟の中に入っていく。
ジェフも中に入る。
ジェフは素早く〝排水管分岐調整室〟内を見回す。
その部屋は、すでにいくつかのランタンが灯っており、部屋全体が十分に傍観できる明るさがあった。
〝排水管分岐調整室〟は広くはあるが、部屋中に巨大な排水管が垂直に備えられており、実際よりも閉塞感があった。
そして……凄まじい光景が、ジェフの目を襲った。
入口の右手に、ビリヤード台程度の大きさのテーブルがある。そのテーブルの上にのっているもの……。人体だった。ただの人体ではない。切断された人間の体……。
首から上はない。四肢は完全に切り落とされている。胴も何等分かに分断されている。内臓は抜き取られていた。ほとんどの部位が、骨と肉に分離されている。まるで、精肉工場の食肉のように……。
ジェフは吐きそうになった。だが、自分に〝恐怖に押しつぶされるな!〟と言い聞かせ、なんとか逆流しようとする食べ物を押さえつけた。
その時だった。
排水管の脇から、がしゃりと散弾銃のフォアエンドを前後させる音がきこえ、すぐに男の粗野な声が響き渡った。
「銃を捨てろ! ポリ公! 撃つぞ!」
しまった……排水管の陰に敵が隠れていたのか……。
ジェフは、少しでも逆らえば即座に撃たれると思った。彼は一切の抵抗を見せずにウィルソンCQBを、安全装置を掛けてから床に捨てた。
男は言う。
「よし、いい子だ」
ジェフは、排水管のほうに、ゆっくりと顔を向ける。
2人の男がいる。先ほど警告してきた散弾銃の男。そしてもう一人の男はこちらにリヴォルバーの銃口を向けている。
リヴォルバーの男が、欠けた歯を剝き出しにしながら言った。
「さっき、ゼインが〝くそ! 回らねぇ〟っていってドアノブをなんども回したろう? あれはな、〝危険がせまっているから警戒しろ〟って合図だったのさ」
散弾銃の男が言う。
「ゼイン、ポリ公が捨てたその銃を持ってこっちにこい」
ゼインは言われた通り、床に落ちたウィルソンCQBを手に取って、排水管へ向かった。
ジェフは3人の男の方へ体を向け、怒りと侮蔑がこもった低い声で言う。
「こういうことだな。お前たちは商売用の肉を手に入れるために、肉の多い大男たちを襲った。殺害した人間をここで解体してから〝ネズミの肉だ〟と言って子供たちに売らせた」
リヴォルバーの男が言う。
「ご明察だな」
ジェフは聞く。
「何人だ? この非道な商売のために、いままで何人殺した?」
リヴォルバーの男は下卑た笑い声を上げながら言った。
「何人? そりゃもう数えきれないほどさ! ははは」
そのとき、ゼインが男2人に言った。
「おい、このポリ公の銃を見てみろよ。ライトやら、珍しいサイトやらがついてる。こいつはすげー銃だぜ! いいもん手に入れたな!」
男たち3人の視線が、ゼインが持つウィルソンCQBに向けられた。
ジェフにとっては、その一瞬の油断で十分だった。
その一連の動作は、1秒程度の時間内で行われた。
ジェフは稲妻のような速さでシャツをめくりあげ、ジーンズに差し込まれていたナイトホークT4を抜き取り、マニュアルセフティを解除し、3ポンド(約1.36キログラム)に調整された引き金を引き、3人の男の胸に次々とフェデラル製210グレイン・ハイドラショック・ディープ.45ACPをぶち込んだ。
床に倒れた3人の男はぴくぴくと痙攣していた。45口径のハイドラショックで内臓を無残に破壊されたいま、反撃することは不可能だろうとジェフは判断し、とどめを刺すことはしなかった。
ジェフは男たちのもとへ行き、散弾銃やリヴォルバーを遠くへ蹴飛ばした。そして自分のウィルソンCQBを拾いあげる。
ジェフは林のような排水管の群れの中を、慎重に見て回る。
エイミーはいた。
少女は手足をロープで縛られ、口枷を噛まされていた。
ジェフは少女エイミーにかけよる。デューティーベルトからエマーソンのナイフを取り出し、少女を拘束するロープを切り裂く。そして、口枷をはずしてやった。
エイミーは泣きながらジェフに抱きついた。
「ああ、エイミー、可哀そうに。もう大丈夫。もう大丈夫だよ」
エイミーはジェフをより強く抱きしめ、泣きじゃくりながら言う。
「あの男たち、わたしを太らせて商品にしてから売りさばくって言ってたの。とても怖かった」
ジェフはエイミーの頭をなでる。
「もう大丈夫。もう大丈夫」
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