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朝の配電室。ジェフ・マクレガー警部は食欲が無かったが、1日の職務をこなすには、栄養はとっておかなければならない。その朝は大豆のペーストを食べることにした。テーブルの上に小型コンロを置く。コンロの上にフライパンを乗せる。そのときだった。
扉が強く叩かれた。なんども、なんども、狂ったように叩かれる。
「ちょっと待って!」
ジェフは素早くウィルソンCQBとナイトホークT4を装備する。
扉を開ける。酒造工員アベルの妻、テレサが立っていた。
ジェフは、テレサの困惑と悲しみが入りじまった顔をみて、これはただ事ではないなとさとった。
「どうしたんだ? テレサ」
「エイミーが、2日前から帰ってこないんです」
ジェフの胸のなかで、嫌な予感が漂った。
テレサはつづける。
「あの子、わたしのiPhoneをこっそり持っていきました。どういうことかお分りでしょう?」
こういうことだ。酒造工員アベルの娘エイミーは、愛しい父親を探しに行った。父親の写真が入っているiPhoneを持って行った。おそらく下水道ノースプール地区の人々に、この写真の男を見なかった? と聞いて回った。
そして……。
ここからが、想像したくない部分だった。
おそらく酒造工員アベルは、何者かに斧で襲われただろう。いや、そう考えて間違いない。
エイミーがその犯人に父アベルの写真を見せたなら、幼いその娘はどうなる? 〝そんな奴はしらない〟で済めばいい。だが、現にエイミーは戻ってきていない……。
ジェフは眉間にしわを寄せて言う。
「これはまずい。一刻も早くエイミーをみつけないと」
テレサは取り乱しはじめた。彼女は顔をくしゃくしゃにして叫ぶように言う。
「お願い、警部! あの子を助けて!」
ジェフは焦る頭で考える。まず、どこから捜査すればいい!?
ノースプールの居住区か? 下水道B4区か?
どこへ行ったらいい!?
そのときだった。
医師マクダウェルが、ジェフのもとに走ってきた。
医師は息を切らしながら言った。
「ベンの意識が戻った。今ならしっかりと話せるぞ」
ベッドで仰向けになる大男ベンの顔色は、まだ青白かったが、目つきははっきりとしていて、夢うつつな状態でないことは分かった。
ジェフはベッドの横にある椅子に座っていた。
ベンはジェフに言う。
「おれは下水道A2区で修理屋をやってる。昨日はネジの買い出しのためにシヴィックセンター駅に向かった。突然、背後から斧で襲われた。背中を切られたおれは、振り返った。やつの顔は見えたが、知らない男だった。おれは護身用にもってるスラッパーを腰から引き抜いて、やつの顔を思いっきり叩いた。男は悲鳴をあげてから、立ち去って行った。おれは助けを求めるために、ここまで歩いてきた。そして、見ての通りだ。」
ジェフは聞く。
「襲われた場所は?」
「ノースプール地区のオールドウォール通りだ」
また、オールドウォール通り……。
……オールドウォール通りで襲われる大男たち……オールドウォール通りで襲われる大男たち……。
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