一 家柄2

 その日の夕食前。セロイド家の長い机のある食卓で、プルトの母ルーが話し出した。


「プルト、ナーリャ家のお嬢さん、ヒルドを覚えている」


 まるで世間話をするかのように話しかける。しかしプルトはムスッとしていた。トーラの一件でプルトは度々両親と喧嘩し、仲が悪いのだ。


「まあ覚えてはいるよ。パーティーにもいたしね」


 ナーリャ家とプルトのセロイド家は縁が深い。ここ最近ナーリャ家は衰退していると聞くが、それでも毎年一回はセロイド家との交流パーティーがある。ヒルドとは今年のパーティーで会っていた。物静かで大人しい印象がある。


「じゃあ十八になったのも知っている。二週間前にね。お前の名前で花を贈っといたよ」


 今度はヒルドか・・・・・・。プルトは頭を抱えた。今年になってからやたらとお見合いの話をしてくる。もちろんそれはプルトが二十歳になったからだが、言わずともトーラのことを諦めてもらうためだとわかっている。プルトは机を叩いて反発した。


「余計なことをしないでくれ。僕のフィアンセはトーラだ。彼女しかいない」

「私はただ礼儀として贈っただけよ。ナーリャ家とは縁が深いですからね」

「なら、僕の名前で贈る必要はないはずだ」

「ナーリャ家の事だが」


 父ホープが威圧的な語調で割り込んでくる。


「最近、衰退の勢いが著しいのは知っているな」

「ああ、知ってるよ。それがどうしたって言うんだ」


 プルトは視線を合わせずにそう言った。


「だがナーリャ家の当主ユメルと私は親しい友人だ。何とかして助けたい。お前もユメルには色々世話になっているしな」


 プルトは確かにユメルには色々世話になっていた。プルトは若い頃。特に好奇心旺盛で、剣術、体術、乗馬、と色々な事に取り組んでいた。そしてその師はいつもユメルだったのだ。第二のお父さんと言って良い存在だった。

 ユメルは若い頃東洋で武術を学んで持ち帰り、大成した人物だ。東洋・西洋と色々な武術を知っているだけでなく、様々な知識もあり、プルトは色々学ばせてもらった。そう言えばその時は決まってヒルドもいたなと思い出す。基本的には同年代の長男カーキと武芸に勤しんでいたが、ヒルドとも鍛練を積んだ記憶がある。


「ああ、何とかしてあげたいよ」


「そうだ。私も何とかしてあげたい」


 ホープはそこで敢えて話を区切った。微妙な間が生まれる。プルトにはその間の意味するところがわかっていた。


「話が終わったなら食事をしたいな」


 プルトはそう言った。


「明日、ヒルドとのお見合いの席を開く。ユメルを助けてやってくれ」

ホープは短くそう言った。プルトは顔を真っ赤にして立ち上がる。するとルーが付け加えるようにこう言った。


「それと、あなたの言っているトーラさんでしたっけ。あの方の家は引っ越してもらいました。立派な家をプレゼントしたら、親御さんも喜んでくれましたよ。もう二度とあなたとトーラさんが会う事はないって。これで気兼ねなくお見合い出来るわね」


 プルトはそれを聞くと真っ赤だった顔を更に紅潮させて、耳の方まで赤く染め上げて、勢いよく振り返る。


「それでも人の子か。愛する二人を切り裂いて、何が楽しいんだ。この人でなしめ」


 そしてそのまま玄関へ向かった。


「どちらへ」


 入り口でセバスが待機していた。


「街へ降りる」


 プルトは短くそう言うと、勢いよく扉を開く。


「お供します」


 セバスは足早に歩くプルトに付いて行く。いつもなら連れて行くのだが、昼の事がある。プルトは一人で馬に乗った。


「一人で良い」


 そう言って深い闇に吸い込まれていった。

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