第4章 金森蓮夜
第13話 金森蓮夜(A1パート)スーパーハッカー
据えられている量子コンピュータで警察の捜査を支援するのだが、完璧に扱えるオペレーターがまだ手に入っていない。
玲香は
「神村さん、量子コンピュータを操るオペレーターがまだ決まっていないのですが、父とつてがあるスーパーハッカーと話はついているのでしょうか」
窓際に置かれたテーブルの脇に対面で並べられているソファに座っている神村が、ミルクティーをカップで飲んでいた。玲香の言葉に飲む手を止めてカップをソーサーの上においた。
「すでに連絡はしております。彼にも仕事がありますから、片付いたら連絡を寄越すとのことで話がまとまっております」
返事をくれるだけで本決まりとなるのだろうか。玲香の判断は関係ないとでも言わんばかりに。
「玲香様、
どうやら不安げな表情を読まれたのだろう。仕事中ではないのでつい感情が顔に出たらしい。
「金森さんという方の経歴をわかる範囲で教えていただきたいのですが」
「気になりますか。さすが刑事ですね。素性のわからない者は信用できないと」
「というより刑事が雇うからには、守秘義務をきちんと守れる人でないと警察の信頼も得られませんよね」
「確かに」
そういうと神村は黒いバッグを開いて、中からファイルを取り出した。
「私たちが雇おうとしている金森
玲香は手渡されたファイルを開いた。顔は可もなく不可もなく、バランスがとれていて温厚さを感じさせる。
「最終学歴は高卒ですか。勉強はそれほどできなかったのでしょうか」
「いえ、彼は貧家の出です。高校の授業料無償化が始まる前だったので、進学は高校が限界だったようです。実際彼の高校の成績をご覧いただければ、地頭のよいことがわかると思いますが」
ページをめくると高校の成績が記されていた。確かに最高評価を受けている科目が多い。いちばん低い体育と音楽でも平均以上はとれている。
「もしもなんですが、彼と契約するときのオプションとして大学受験をサポートするというのはどうでしょうか」
「最終学歴で人を判断してはなりません。彼はすでに世界一のハッカーです。今さら大学へ通っても得るものは少ないでしょう。類まれなシステム制圧能力を活かすのが雇うわれわれの義務です」
そういうものか。玲香は資産家の父とのふたり暮らしが長かったが、家計に余裕があったので進路は選び放題だった。
それで高校時代の盗難事件を捜査しに来た刑事を見て、警察大学校を目指したのだ。もし金森が警察大学校へ通ったら、どれほどの才能になっていたのか。見てみたいと思わせた。
「この〝世界ハッカーコンテスト優勝〟というのはどれほどのものなのでしょうか」
「世界各国の予選を通過した十六名のハッカーによる、システム防衛と反撃・撃退能力を競います。そうして優勝したのが金森くんなのです」
「だから世界一のハッカーというわけですか」
「それだけで世界一というわけではありません。お父様の経営していた不動産業のサーバーに対してサイバー攻撃が発生したとき、あっという間に敵へ逆にウイルスを送り込み、攻撃者の端末を遠隔操作してお父様のサーバーにかけられた暗号化を解除した実績があります。それが縁で知己を得たそうです」
「本当なんですか、それ。侵入してきた敵を逆にたどるのは難しいと聞いたことがあるのですが」
「たいていの攻撃者はサーバーを数多く迂回させることで追跡を断念させるのですが、金森くんは面倒くさがらずこつこつとひとつずつサーバーをたどっていったそうです。その意味でも、この量子コンピュータを任せるのにふさわしい逸材だと存じますが」
いったいどれほどの根気強さがあるのだろうか。高卒でこれだけのハッキング能力を有するだけでも驚異的なのだが。まさに世界最高の量子コンピュータを任せるに足る人材といえるだろう。
話し合いをしているとき、神村のスマートフォンが鳴った。
「はい、神村です。ああ、君ですか。どうですか、うちのシステムは。とらえどころがないと思うのですが。まあ相手にしているのか量子コンピュータだと聞いてもまだチャレンジしますか」
話の内容から察するに、相手は金森蓮夜のようだ。
「そうですか。やはり君でも量子コンピュータには太刀打ちできませんか。まあまだ試作機ではあるのですが、それでもスーパーコンピュータすら軽く凌駕する性能ですからね。ですが、君の才能で本領を発揮させられると信じているのですが。それではわれわれに力を貸していただけますか」
神村の動きが止まった。どうやら金森も息を詰めているようだ。
「そうですか。それではこれからのあなたの雇い主となる地井玲香さんと替わります」
耳に当てていたスマートフォンを神村が差し出している。玲香はそれを受け取ると、会話を引き継いだ。
「初めまして、私は地井玲香と申します。父の地井
(第4章A2パートへ続きます)
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