第15話 入学試験を受けてみた

「手紙は毎日書くんだぞ!? あと、淋しくなったらすぐに帰っていいからな! 学園の方には、パパが話しておく! ああ、それと荷物は——」


 それからの一年は、とても早かった。

 特になにか大きな出来事があったわけではないが、魔法と剣、そしてたまにあった忍術の鍛錬時間を増やしたためだ。

 ぶっちゃけ十分な強さは手に入っていたが、ここまで来たら強さに対する執着というか、被虐趣味マゾ的な意味ではないが、鍛錬への愛着が湧いてしまったのだ。


 原作でのゼフィリアンの立場上不安は残るが、今では、当初の目標をかなり上回る能力を手に入れた。


 まあ、おかげで他のことが疎かになり、ルシアナからの手紙は勢いを増したらしいが⋯⋯それは知らん。


 学園で絡まれても、泣かせれば解決だろ。


 そんなわけで、俺は万全を期し学園を迎えようとしていた。


「はい。定期的に」

「ああ! それと、王都は治安が悪いから、気を付けるんだぞ!」


 馬車が発車する。

 ゼノルベドは、ずっとなにかを叫んでいる。

 もう一分経ち、素の常人なら叫んでいることすらわからないほどの距離が開いているが、いつまで叫んでいるつもりだ。


 付き人的な役割を果たす者を一人連れて行けと言われ選んだモモはボーっとしていて、相変わらず残念極まる。

 今更だが、こいつサナエがいなかったらサボるんじゃないか?

 やはり、サナエを選ぶべきだったのでは?


 まあ、別にいいか。

 もしそうなら新しいのを雇えばいい。


 ⋯⋯いや、早速ちょうど役に立ちそうなことがあるじゃないか。


 思ったよりも揺れたため、俺はモモを椅子代わりに、一週間掛けて学園のある王都へと向かった。



 }{



「これより第一次入学試験を始めます」


 ここの入試は、2つに分かれている。

 一つ、第一次、筆記。

 二つ、第二次、実技。


 一次二次と言ってもただ分類しているだけで、検定のような特殊なルールはなく、非常にシンプルなものだ。


 今は、筆記の時間だ。

 問題用紙と解答用紙が配られる。

 ここだけは現代的だ。


「始め!」


 合図とともに、覚えたことを整理しながら問題用紙を開ける。


(⋯⋯なんだこれ?)


 ここの筆記試験は、デュエラシアには珍しく世界的に見ても難関である、と、原作では述べられていた。

 実際に、学園関係者が公表している入試の範囲も非常に広く、その上さらに深く出る、とも発表されている。

 だが、そこに載っている問題は——


(——簡単過ぎる)


 広く深く、ではない。

 というか、広く浅く、ですらない。

 概要がちょろっと出るくらいだ。

 ⋯⋯おかしい。


 まさか、権力者には簡単な問題が配られる?

 いや、前から受験者を伝う配り方だ、俺の目の前の生徒が男爵——モブ、原作の端っこに一瞬映る——であるため、その線は薄い。


 ということは、この簡単過ぎて舐めてるとしか言いようのない問題が、学園の謳う『広く深い問題』ということか?


 試しに、隣の受験生の様子を見る。


「((⁠・⁠_⁠・⁠;;;)ダラダラ チラッチラッ ビクッ ヒュヒュ~)」


 俺と目が合い、慌てて白々しい口笛(音無し)を吹く、モブとしてすら登場しないぽっちゃり。


 心を読むと、こいつは、問題がわからなくて焦っているらしい。


 ⋯⋯まあ。

 識字率も低い時代だし、そんなもんだろう。

 そういうことだろう。


(せっかく覚えた知識はお蔵入りか⋯⋯)


「チッ」


 まあいい。

 それより、問題を解くか。


(⋯⋯?)


 だが、三問目にして、早速おかしな問題を発見した。


『問二 (一)

 球体の表面積を求める公式はまだ見つかっていないが、大凡の表面積を求める公式はある。その公式を述べよ』


 もしかしてこの世界の人類って、相当頭悪いんじゃないか?

 もしかしたら、今まで本当は獣人たちといい勝負だったのかもしれない。


 これは、モモ有能説が誕生してしまった。


(暇だし、公式を教えてやるか)


 全ての問題を解き終わったが、時間は全体の四半も使っておらず暇なため、問題の間違っている箇所や未発見な公式を書いてやる。

 これが、ゼフィリアン流の慈悲か。

 極めて衝動的かつ直感的に行動した結果である。


 推しの隠された一面を知れて感動だ。


「やめ! 回収しますので、そのままお待ち下さい」



 }{


「これから実技を始める! 位置につけ!」


 叫んだのは、カリナの姉だ。

 サリナというらしい。

 瓜二つだが、違う点を挙げるとしたら、髪色と目か。

 昔の格ゲーの同キャラ対戦を思わせる色違いで、銀色の髪、そして、カリナとは違いキリッとした目には知性を感じる。


 カリナの目もキリッとしていて形も色も同じなのだが、なんというか、サリナの目には文字に起こしづらい知的さが垣間見えるのだ。

 カリナに垣間見えるのはアホさなので、そこだけは対照的に見える。


「今回の試験では、接近戦闘と魔法技術の二項目で評価を行う! 例年に比べ少ない観点からの試験だ、すぐに終わる分許されるミスは少ない! 心して挑め!」


 他の教師に案内され、まずは魔法の方へ案内される。

 2つのブロックに分けて試験を行うらしい。

 こういったところも比較的知的だ。


「では、1028番からどうぞ」

「はいっ!」


 さっき筆記試験で見た先生が呼び、生徒が出てくる。

 ちなみに、番号は適当につけられるらしい。

 なんでも、理事長の趣味だとか。


 測定の方式は、よくある的あてだ。

 ダーツの的のように色分けがされた的があり、威力や熱などを測定する魔法と当たった場所を記録する魔法が付与されているため、そこに打ち込むことで、精度と強さといった技術を測定する仕組み。

 フロンティーヌが自分の発明だと力説していた。


 1028番号が打ち込む。

 込められた魔力は受験生としては多く、速度もあるが、的の端に当たった。


「c+!」

「くっそ⋯⋯」


 うまくいかずに悪態をつく1028番号。

 よく見たら、さっきの口笛(音無し)ではないか。


「次、1156番!」

「はい」


 次は、蜜柑色の髪の美少女⋯⋯ルシアナっ。

 やつか。


 見た目だけは成長したようだ。

 そう、見た目だけは。

 送ってくる手紙は相変わらずやばいタイプのドルオタのファンレターだ。

 『私たちは結ばれる』だの、『照れる///』だの、愛に目がくらんだ、自分よがりで客観性という概念を忘れたかのような怪文。

 もっとも、なぜルシアナが俺にそのような手紙を送るのかは不明だが⋯⋯油断はできない。


 そんなことを考えていると、ルシアナの詠唱が終わる。


「―――《光丿監獄レーザー》!!」


 ルシアナが放ったのは、魔法第七階位に位置するもので、光を束に閉じ込めそのエネルギーを物体を切断するまでに集めるという技だ。

 一点を貫くという意味では最強格に準ずる、かなり強い魔法。

 今の時点でこれを使えるのは驚いた。


「おお!」「さすが王女様!」「素晴らしい⋯⋯っ」「ふむ、今年は王女様が主席と見た」「この年にしてあの段階とは⋯⋯!」


「A+!」

「ふふ」


ーゾクッ


 体の芯から、怖気が這い上がってくる。

 ルシアナが、こちらを見た気がした。

 その目は、澄んでいるようだが、よく見ると、ネチャッとした濁りが集まり隙間がなくなっているだけだ。

 恐ろしい。


 頼む、別のクラスになってくれ⋯⋯!


「1099番」

「B!」

「4443番」

「D-!」

「9999」

 ⋯⋯⋯。


 そして、俺の番が来る。


「0000番」


「おい、あれ⋯⋯」「ああ、あの悪逆っていう」「しっ、聞こえるだろう?」「なんて目だ⋯⋯」「絶対に三桁はってるぞ!」


 聞こえてるんだよ、間抜けども。

 まあいい、ここで格の違いを見せつけてやろう。


 後ろでニヤついているルシアナにもだ!

 苛つくので必ずわからせる。


「的に得意な魔法を撃ってください」


 本気の魔法は使わんが、的を壊すくらいならいいだろう。

 俺のとっておきの独自オリジナルの魔法――


「――《自尊心壊滅的崩壊わからせ》」


 このために編み出した。

 さあ、震えろ、間抜けな有象無象ども!!


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