第14話 魔眼を入手してみた
「おい、どうなっているんだ……」
司令塔と大部分の構成員を殺し、機関の組織として機能を奪った。それで、鬱憤の大部分は晴れた。
完璧な作戦だった。
幹部は、処理が難しいため、デュエラシアの特殊部隊をけしかけ、片付けさせた。
これも、穴のない見事な解決方法だった。
援軍を防ぐため、フィルョーグゼ率いる最強戦力を見張りに使った。やつらのメイン戦力は支部にある。
これも、安全を考慮すれば、なくてはならなかった。
では、なにがいけなかったのか。
それは、フィルョーグゼに複雑な命令を出しすぎたことだ。
命令の内容はこう。
『誰も通すな。あと、誰かに正体は暴かれるな』
だ。
(……なにがいけなかったというのだ!)
なぜこれができない?
単純な二つの命令。
いくら犬獣人でも、できると思った。
犬は、動物の中では賢いからな。
しかも、フィルョーグゼは、律儀に、メモまで取っていた。
契約書の力も、もっと働くと思っていた。
腐っても、悪魔の契約だ。
効力は、強すぎるくらいじゃないと困る。
だが、蓋を開けてみれば、フィルョーグゼたちはこの二つの命令を読解できないし、悪魔の契約は本人の認識を尊重する良心的過ぎるもので、フィルョーグゼが読解できないせいで全く遂行されない。
最悪だ。
あとでなにかキツい仕事をくれてやらなければ。
「はぁ」
「どうしたんですか?」
モモが反応する。
「なんでもない」
モモにも、あの作戦は知らせていない。
準備は手伝わせたが、説明はしていないのだ。
まあ、説明したところで理解できないだろうし、できたとしても、三歩歩いた時点で頭から抜け落ちているだろうが。
「そうですか。あ、ゼフィ様、ありましたよ! あれですよね!?」
今は、”魔眼の試練”というものを受けるべく、洞窟を探している。
本来なら、中盤に突入する前くらいのところで手に入れる”試練”シリーズの報酬を入手するためだ。
原則一人ひとつまで入手できるもので、種類は七つ、力、魔力、光、勇者、闇、魔、そして、今ターゲットとしている魔眼だ。
大半が地雷で、例えば力を手に入れたら、体が膨張し魔族認定され、闇や魔を選べば精神が乗っ取られ、など。
魔眼は、名前からは想像できないだろうが、人間でも少ないリスク——試練自体が危険なため、ノーリスクとはいかない——で入手できる数少ない試練系の報酬だ。
「よくやった、モモ」
「えへへ……」
頭を撫でると、嬉しそうにすり寄ってくる。
それもほどほどにして、洞窟の前まで来る。
高さ三メートルほど、横幅二メートルほど。
人間以外にも対応している証拠だ。
中は真っ暗でなにも見えないが、中に足を踏み入れると、うっすらと見えるようになってくる。
ここは、いわゆるダンジョンというもので、トラップや特殊な魔物を退けて最深部まで到達すると、報酬が支払われる。
しかも、お優しいことに、ただついてきただけの付き人にまで、それは適応される。だから、ついでにモモの強化もできるのだ。
日々好感度を上げ、裏切らないように調教しているので、モモの戦力増加はありがたい。
学園まであと一年というこのタイミングを選んだのは、好感度とプラスされる戦力のバランスを考えた結果というのもある。
ここ魔眼は、試練の中でもそれなりに難度の高い方だが、トラップや魔物の配置は当然覚えているので、トントン拍子に進んでいく。
「うわぁ、こんなところがあったんですね」
魔物たちのカラフルな返り血に、照明の光が反射し、幻想的な雰囲気を醸し出す。
そして、それを綺麗な自然現象とでも解釈したのか、モモが、そう感嘆の声を上げる。
滑稽だ。
そうしていると、試練の最後のボスが登場する。
「あれは……
モモがぎょっとする。
今対峙しているボスはイビルアイ、成人男性ほども直系がある、球体の目玉の化け物だ。
「避けろ!」
「わっ?」
目玉が、後ろにある肉を伸ばし、どこからか取り出した瞼を目に被せ———見開く。
俺とモモがいた場所を、極太の水色の光線が通り過ぎ、壁に先の見えないほど深い穴を空ける。
「え、え?」
モモが混乱する。
足手まといだ。
だが、それでも連れてきたのには理由がある。
「また来るぞっ!」
再び、穴。
今度は床に落とし罠ができた。
その理由というのは——
目玉が、再び目を瞑る。
「《ダーク》」
そして、闇に光線が吸い込まれる。
——この目玉の弱点が、闇属性だからだ。
「おぉー!」
モモが興奮に声を上げる。
俺が、闇から目玉の撃った光線を取り出し、撃ち返したからだろう。
目玉は、それを慌てて新たな光線で相殺し、防ぐ。
この目玉は、原作ではある意味最強のボスとして君臨していた。
まず、挑戦者が初見で引っ掛かるのは、全ての魔法を無効化するバリアだ。
光線のインターバルは非常に短いため、接近しずらく、魔法で倒そうとする。
だが、そのバリアは、デバフ含め全ての魔法を無効化するため、それに阻まれる。
次に、挑戦者は、接近しようとする。
魔法が通じないなら物理だ、と。
ところが、それも間違いだ。
目玉の使用魔法は光線と転移(バリアは環境)。
シンプルだが、物理攻撃を完全に封じるには十分だ。
攻撃力自体は高いものの、避けることはできる。しかし、攻撃が通らず絶対に殺せない。
だから、ある意味最強。
そんな目玉だが、一つだけ倒す方法がある。
それは、光線を跳ね返すことだ。
もともと、魔眼は終盤用の能力なため、攻略には、同じく終盤で手に入る”魔返しの鏡”という秘宝が必要不可欠となっている。
それ以外では、どうあがいても勝てない。
通常は。
つまり、例外がある。
そう、それが、闇魔法だ。
実は、あの光線は、光属性に見せかけた闇属性の魔法なのだ。
闇魔法では例外的な、魔力消費量の少ないコスパ重視の魔法。しかし、ゆえに、より大きな闇属性の魔力には吸収される。
闇属性が弱点、とは、こういうことだ。
光の勇者である主人公にはできない、俺だけのやり方。
吸収し分解した魔力も、俺の操作能力にかかれば再構築は容易。
魔力の性質上、多少ブレはするが、それでも十分だ。
そして、あくまで目玉を取り巻く環境であるバリアは、従来は目玉のオリジナル魔法である光線を素通りさせる。
「《
オリジナルと少し違い、暗い赤だが、それでもバリアは通り抜ける上に、威力も申し分ない。
魔力をいっぱい込めたため、目玉は跡形もなく吹き飛んだ。
「さすがゼフィ様! 天才! 最強!」
モモは、相変わらず三下方面へと成長中だ。
これでは、原作のゼフィリアンの取り巻きよりもひどい。
そろそろ、性格も矯正すべきだろうか?
俺がわりと真剣に悩んでいると、目の前に石のタブレットが現れる。遺跡の祭壇に、パネルが付いたようなアンバランスなものだ。
「え、ゼフィ様、目ん玉が出てきました! 石に!」
そこには、三つの魔眼の候補が浮かんでいる。
1.智慧の魔眼
2.停止の魔眼
3.魅了の魔眼
智慧の魔眼は、よくある鑑定のことだ。
他は、名前の通り。
パッとしない選択肢である。
普通はもっといい選択肢が出るんだが、どうやら運がなかったようだ。
停止は、一見有用そうだが消費魔力が多過ぎて発動しても意味がなく、魅了は魔眼がなくてもできて、智慧は原作知識の前には無価値。
例の”余白”に使うのは、風情がないので却下。
しょうがない、あれを使うか。
「チェンジで」
ネタのように見えて、実は切実な隠しコマンドだ。
発案者はこれについて、
趣味のためにこんなものを追加するなんて、と、当時盲目的な崇拝者だった俺はかなりキレたが、まさか、それに助けられる日が来るとは思わなかった。
1.常闇の魔眼
2.遠見の魔眼
3.心読の魔眼
心読の魔眼?
聞いたことがない。
魔眼も網羅していたつもりだったが……。
俺の記憶が正しければ、この魔眼は十万分の一未満の確率で出る、とんでもなくレアなものだ。
他の常闇と遠見はよくあるゴミだったが、今度は途轍もなく運が良かったのではないか?
俺は、迷わず心読の魔眼を選ぶ。
「くっ!?」
すると、目に、焼けるような痛みが走る。
痛いとは知っていたが、思ったよりも痛い。
「ぜ、ゼフィ様!? 大丈夫ですか!?」
やがて、痛みが治まる。
「おお、これはっ」
モモの頭の上に、文字が浮かぶ。
これが、モモの思考なのか……?
『………』
あ、いや、まあ、対象が悪かった。
おそらく、なにかを考えていればわかるのだろう。
発動をやめる。
魔力の消費はないが、精神的にとても疲れる。
昔、引きこもりすぎて鬱病になりかけたことがあったが、それを薄めた感じだ。
多用はできなそうだな。
とはいえ、刹那的には類を見ないくらい有能だ。
特に、戦闘でも役立ちそうなところがいい。
低確率さに見合った性能で安心した。
モモには、予知の魔眼を選ばせた。
リアルタイムで、現在と未来の二つの情報を処理するのは大変なため、使い手を選ぶ魔眼ではあるが、幸い、モモは戦闘では急に賢くなる。
さっきも、咄嗟に光線からかばいはしたが、自力でも避けることもできたはずだ。
だから、モモなら、予知の魔眼を使い熟せるだろう。
俺の外出は、散歩という名目——フロンティーヌが監視役なので、彼女だけは事実を知っているが——なため、そろそろ
モモに少し魔眼の確認と黙秘の約束をさせたあと、俺は家に帰った。
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