第13話 壊滅させてみた
今更ですが、この作品は”文字サイズ小”が推奨です!
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「俺にそっちのケはない」
色々と面倒ではあるが、まずはここをはっきりさせなければならない。
最重要項目だ。
「……? おう。勝負だ!」
しかし、ああはいったものの、ここでこそフィルョーグゼを使うべきだった。
大男を観察する。
髪はない。髭も。
ギザに胸毛を見せびらかしており、身分は低そうだが、身長が高い上に筋肉は人間のものとは思えないほど膨らんでいて、オーガ顔負けの体格。
間違いない。
こいつは、リュウゼという名前の、元剣聖だ。
腕っぷしは強かったものの、喧嘩っ早く好戦的過ぎる性格ゆえに解雇され、路頭に迷っているところを司令塔に勧誘された。
戦力だけなら、正真正銘この機関のトップだ。
戦うのは避ける必要がある。
魔法で俺の幻を置いて去ろうとするが……。
「ちょ待てよ、どこ行く? 勝負だ!」
やはり、見破られる。
膂力と防御の極振りのようなスペックのこいつならば、魔法の幻を素で見破れるはずがないので、なんらかの魔道具を持たされているのだろう。
とすると、他の弱点である洗脳系も通用しないと考えるべきか。
面倒臭さが増す。
こいつの唯一マシなところは、司令塔の”能力”が効かないため戦法が単純なところだ。あと馬鹿なところ。
この状況でも、俺が子供なのを見て油断している。
そこを、意表を突くような魔法で狙い、隙を作るしかない。
「《
貫通力のみを高めた闇魔弾を一発撃つ。
いくら脳筋キャラのこいつでも、当たれば手くらいは穿てるはずだ。
「うぉっ、ぶね。へへ、やる気になったか?」
「だーくばれっと」
……当たれば、の話だが。
今度は、闇焉絶虚を放つ。
『だーくばれっと』と聞こえたからといって、別のものが飛んでこないわけではないのだ。
「のをっ!? さっきと違うじゃねぇか!」
二発重ねて撃ったため、避け切れないと見て一撃目をぶん殴ったリュウゼに二撃目が直撃する。
結果は——
「っってぇ、なぁ……っ」
——生きていた。
「チッ」
思わぬ誤算だ。
防御力が高過ぎて、あまり効いていない。
予想では、風穴くらいは通っていいるはずだったが、リュウゼの負傷は、右腕が上がらなくなる程度にとどまっている。
同じ剣聖とはいえ、カリナの言うことなど当てにすべきではなかった……!
「いいぜぇ、こっちも本気だ——【
ドラキュラだかドラゴンだがわからない、いい加減な言葉。
それを待っていた!
「俺は約束があるんだ」
「あ、おい! まてっ逃げんな!」
否、戦略的撤退である。
こいつの変身時間を利用した作戦だ。
つまり、これが俺にとっての勝利。
うまく引っ掛かってよかった。
こいつが馬鹿だったからだ。
こいつが馬鹿でよかった。
「着いた」
思ったより手子摺り、神経を削ったが、その疲れも吹っ飛ぶ快報が来る。
——司令塔のいる部屋の前についた。
壁の扉も硬すぎて破れないが、ロックを解除する方法なら知っている。
暗証番号を入力し、入室する。
「っ! な、なぜ番号がわかった!? ちくしょう、まだ来ないのか!?」
さっそくお見えになった司令塔が、不愉快に喚き散らかす。
いっそ清いほどの無個性さと無能さだ。
だのに、苛立ちだけは無限に沸くものだから不思議だ。
最近わかったが、俺は無能も嫌いみたいだ。
こういう無能は、余計に苛立つ。
「黙れ」
たまたま能力に恵まれたくらいで調子に乗っているだけ。
それだけだというのに、俺に、腹の底から燃え上がるような激しい憤怒を覚えさせる。
こうしている時は、最も転生したことにより生まれた二面性を感じる。
無能に対するどうしようもない憤りを感じる反面、それをどこか冷静に俯瞰し、まるで傍観の極致で気取っているかのような自分も見つかる。
複雑さの裏の、そのチグハグな二面性は凄まじく不快だが———同時に実感をくれる。
もう、俺はただのプレイヤーではないという実感を。
頭がスッと冷やされていくような心地よさ。
感覚が研ぎ澄まされる。
「二十……三十はいるな。なんだ、手際がいいじゃないか」
「なっ……っ! なぜそれをっ」
それにより、魔法を使わずとも、音や些細な空気の揺れから、位置を把握できる。
空間が自分のものであるかのような感覚に、全能感を覚する。
ゼフィリアンとしての強烈な支配欲が満たされ、静かな部分がそれを再び俯瞰し、さらに感覚の研磨も進む。
鋭く、繊細に、精密に。
目の前にいる男の血液の流れすら、手に取るようにわかる。
だから、ここを刺してやれば……。
「コフ——」
息の根が止まる。
操られていたやつらが、足をついた場所から広がっていく音の波。
それが、一気に斑になる。
統率が崩れた。
あとは、一方的な虐殺だった。
時間になり、途中で切り上げる。
幹部と他数名の生き残りを残し、フィルョーグゼたちを回収してから、俺は帝都を去った。
}{
「これは……」
俺、ヨグルは元傭兵だ。
だが、今は『ファングバの聖域』っつう、デュエラシア君主国の特殊な団に入ってる。
国家機密レベルで秘匿された国家組織だ。
その経歴上、俺は、そこそこ世界の裏側や人間の闇に詳しい。
自分の密かな強みとして、そう自負していた。
だが、そんな俺でも……こんな惨事は、見たことねぇ。
「なに、これ……」
部下も、声を漏らす。
こいつぁ、普段、冷静な女郎だが、それでも、思わず漏らしちまったようだ。
無理もねぇ。
老人もガキも関係なく、全員無残に殺されてやがる。
原形をとどめている者はいない。
残るのは、皺皺な手足や、ぶち撒けられた、まだ未発達な内臓だ。
頭なんて、執拗に一つ残らずミンチにされてやがるようだ。髪の毛の混じる肉塊が、そこら中に落ちている。
指定された宿屋の地下も、方向は違えど同じようなものだった。
後ろから撃たれ、動けなくされたようで、苦しんで死んだ野郎や、未だに苦しみ続けている野郎。
残党と思われる野郎も、ひどく怯えてやがる。
いくら敵とはいえ、鳥肌が立つね……。
「お、ちょうどいい。おいお前ら、白いガキを——っぶね!? ぁんだ、お前もやるのか!?」
つっても、残党は一匹残らず殺すがな。
苦しんでた野郎も、怯えてた野郎も、すでに殺してある。
「あんたはここで死ぬ。そこに隠れてる二人もだ」
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