第12話 尾行してみた

すみません、更新忘れてました_(._.)_

関係ないとは思うんですけど、冷凍庫にあった買った1年前の馬刺しを刺身で食ったら、40度の熱が出てしまって……。


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「……いた」


 静かにそう零す。

 俺は今、帝都のスラム街のあるボロ家から、敵の様子を伺っていた。

 敵というのは、もちろん、あの苛つく極秘機関の暗殺者のことだ。


「やはりあそこか」


 やつは、あくまで自然を装いながら、周りをキョロキョロと見て、やがて落ち着くと、廃れた宿屋に入る。

 しめたぞ。


 俺は、それを見届けると、魔法を使う。


「《感知エルケンヌング》」


 無属性の魔法だ。

 熱感知や動体感知などを組み合わせられる、極めて使い勝手の良い魔法だが、欠点があるとすれば、魔力消費が激しいことか。


 そうして、暗殺者が、尾行に備えて待ち伏せていないか確認した。


 待ち伏せはなかった。

 元宿屋に入る。


「あれか」


 一見、なんの変哲もない、普通の宿屋だ。

 だが、感知には隠し扉の存在がはっきりと引っかかっている。


 柱の、一際深く抉れている部分を、指で強めに突く。


ーガコ


 すると、隣の壁がなくなり、地下へと続く階段が現れる。

 先が見えないほど長い階段だが、暗殺者の姿はすでにない。

 なぜなら、これもまたフェイクだからだ。

 クソ帝国とはいえ、仮にも国が用意したんだ。こんな幼稚でちんけで不用心な隠し方をするわけがない。


 階段の天井にある小さな突起を引っ張る。


 すると、今度は、音もなく階段の一部が横に引っ込む。

 露出した廊下に降りると、暗殺者の後ろ姿が見える。が、完全に油断しきっているようで、こちらに気付く素振そぶりはない。


「ゕひゅっ」


 闇魔法第一階位に位置する魔法、闇魔弾ダークバレットを三発撃つ。

 一発目で暗殺者の声帯を脊椎ごと打ち抜き、二発目で脳幹――脳と脊髄をつなぐ部分、ないと体が動かなくなる――を破壊し、三発目で心臓を貫いた。


 この世界の人間は異常に頑丈なので、生きている可能性もなきにはあらずだが、いずれにせよ、こうすれば動けまい。そのうち死ぬ。


 暗殺者を殺したので、もう居場所は突き止められている。

 そのため、俺は急ぎ、感知で調べた見張りが少ないルートを駆ける。


「ゖひゅっ」

「ひゅっひゅっ」

「ぅひゅっひゅっ」


 見張りは、さっきと同じように三発ずつ闇魔弾を撃ち、殺す。


 こいつらには、一人司令塔がいて、その司令塔が、全てを”能力アビリティ”という特殊な力を使い、で管理している。

 だから、司令塔を殺せば、こいつらの動きには統率がなくなり、壊滅させるのは容易になる。

 そのため、俺の向かい先はその司令塔の場所だ。


「……チっ」


 だが、幹部に追いつかれてしまった。

 しかも、二人。

 高度な連携が可能な今、撃破の難度は跳ね上がる。


(面倒だ)


 一年ほど前の拷問癖の暗殺者は、準幹部級だ。

 そう考えると、たしかに今なら幹部は倒せそうに思える。

 しかし、そう都合よくは進まない。

 幹部と聞いて思い浮かぶのは、四天王や四強といった四人の構成だ。この機関も、いまは合計四人の幹部しかいない。

 だが、この機関の場合、定員というわけではない。

 強さが足りないからだ。

 拷問癖の暗殺者は、一般よりは強いが、幹部には劣るという位置づけだった。

 準幹部の基準は、複数人で連携してデュエラシアの一般近衛騎士一人――この世界では、よく戦力をそれに特化したデュエラシアで例える――を倒せるかどうかだ。

 一方で幹部のは、近衛騎士団長複数人を相手に圧倒できるかどうか。

 文字通り格が違う。


「《影転移》」


 ここは、逃げよう。

 否、戦略的撤退だ。


 が、どうやら俺は、幹部にもモテるらしい。


「お? 来たか、待ってたぜ! 勝負だ!」


 戦略的撤退をした先には、大剣を持った筋肉隆々の男がいた。

 しかも、これまた面倒なことに、転移阻害の秘宝アーティファクトまで用意している。ご丁寧なことだ。

 その戦闘への執着は、フィルョーグゼを思わせる。


 邪魔な幹部も熱血な脳筋も、もううんざりだ!




 }{




 ベストフェラ獣国の一つの州を率いるヷーウルフ族族長にして、ベストフェラ獣国を束ねる(笑)代表たちの一人、フィルョーグゼ・ヷーヨルドグゼヴ・ウルヴジェクセフョ・パワーヴァイオレンス……(ry は、ゼフィリアンの頼み通り帝都のスラム街の監視をしていた。


 彼に頼まれた事項はたった一つ、

 『誰も通すな。あと、誰かに正体は暴かれるな』

だけ。


(……なんだ? いや、待て。これは……二つ目の命令が隠れているのではないか?)


 『暴かれるな』。

 この部分が、やけに引っ掛かる。

 なにか重大なものを見逃したような気分。


 頼まれたことは覚えている。

 メモも取った。

 だから、じっくり見返せる。


 その時のやりとりを思い出す。


 ……。

 ………。

 ……………。


 思い出せない。

 忘れてしまった。

 たしか『証拠を残すな』のようなことも言われたような……。

 

(これもメモに取っておけばよかった)


 しかし、すぐにどうでもいいと思い直す。

 彼の頭には、そんなものは残らない。

 もっと優先すべき重要なことがあるのだ。


——『誰も通すな』


 ゼフィリアンの頼み。

 ヷーウルフ族は、なにがあっても約束を反故にしたりはしないのだ。


「うわあああ!!」

「誰か助けてくれぇぇ!!」


 スラム街に、住人の悲鳴が響き渡る。

 彼は、ゼフィリアンの頼みを遵守するべく、それのみを念頭に置き、遂行に専念する。


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ベスト フェラ じゅう こく

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