第9話 いいことを思いついてみた

「ゴフッ……」


 腹を貫かれ、血の塊を吐く。

 ——暗殺者が。


 勝負を制したのは、俺だった。


 既のことで、俺の魔法が早く発動し、暗殺者の腹を、抉るように消し飛ばしたのだ。暗殺者の暗器は、俺には一歩届かなかった。


「なん、で……どうや……って……」


 暗殺者は、放っておいても死ぬだろう。

 情報は、抜き取れそうにない。放置だ。

 ルシアナを見に行こう。

 馬車まで行って、その中をのぞき込む。


「ルア」


 まずった。

 昔の癖で、そう呼んでしまった。

 まあ、どうせ意識はないんだしいっか。


「……り、あ……?」


 ……いや、思いっきり意識あったわ。

 まあ、どうせすぐ忘れるだろう。

 意識朦朧としてるだろうし。

 ……そうだよな?

 今、二度にわたり、盛大にフラグを立てた気がしなくもないが、いや、気の所為だよな?


「り、あ……」


 ほらな、もう寝た。

 きっと、殴られ疲れていたんだ。

 ふと、近衛騎士の死体に目をやる。

 上に向けられた腹には、広くて深い亀裂が入っている。

 一方で、その隣に寝ている暗殺者の得物は、小さな、持ち運びやすさを重視したような暗器だ。どう見ても、傷の形と合わない。

 傷は、近衛騎士のロングソードによるものだろう。


「裏切りがあったか」


 そう考えると、合点がいく。

 近衛騎士は、にやられるほど、ひ弱はない。

 そもそも、デュエラシア王国は、高い戦闘能力を至高と崇めるような国家だ。

 あの暗殺者のリーダーでさえ、一般的な近衛騎士には劣る。


 本来は。


 だが、逆に、近衛騎士が負けた。ということは、なにか事情があるはずだ。


「……これか」


 思った通り、腹を切られた近衛騎士の懐から、任務中に所持するものとしては相応しくないものが出てくる。

 秘宝アーティファクトだ。

 それも、一定範囲内の生物から、条件付きで、

魔力を吸い出すというもの。

 秘宝は等級分けされている。一番下のものでも、小国などでは国宝として重宝されるほどだ。凄まじい価値を持つ。だが、これは、その中でもかなり上の方だろう。

 小国の国宝どころか、これ一つで、その小国が買える。

 条件付きとはいえ、魔力を吸い出すというのは、それほど強力な権能だ。

 こんな木っ端な部隊でも、近衛騎士を全滅させられたのは、一重にその道具のおかげだろう。


 謎は解けたし、王女に仕込みもしといた。

 こいつらは、当然潰すとして、ばれない内に早く帰ろう。




 }{




「そうだ、獣を従えよう」


 正確には、獣人。

 その着想は、唐突に訪れた。

 否、正確には、今まで認識していなかっただけで、ようやく認識できるようになった、と言うべきか。モモを見ていて、思いついた。どうして気付かなかったのか。灯台下ぐらしというやつだ。


 こいつ、実は族長の娘だったわ。


 そこからは、急速にプランが組み上がっていった。

 それで、あの着想を得たわけだ。

 モモは、よく懐いている。それに、森で、魔物に襲われていたのを助けたという事実もある。たしか、族長の娘はたくさんいて、一人くらいの命では、獣人全体を、信用できる駒にするにはいたらない。


 だが、モモは少し事情が違ってくる。


 この世界には、”祝福”というのもがある。”祝福”は、神以上の存在から受ける加護だ。獣人や人間、魔族などの人型の種族には、神がいる。主人公である”光の勇者”はいろいろな神から祝福を受けていたが、原則、祝福は自分の種族の神からしかもらえない。モモは、『獣神の加護』に属する祝福を持っている。

 それが、『事情』だ。

 つまり、モモは、神を寵愛をその身に受けた、貴重な娘ということだ。


「急にどうしたんですか?」

「モモ、お前の故郷に行く。しばらくの間、予定は全てキャンセルしろ」

「えぇっ!? でも、ここ一週間はお茶会が……さすがに、そう連続は……」

「二度言わせる気か?」

「……はい、予定は全部キャンセルします」


 獣人の国は、ここから南の方角にある。

 馬車で移動すれば、何十日も掛かることになるが、闇魔法の影転移を使えば、一瞬で着く。

 影転移は、印をつけた場所にしか転移できない。だが、それは、時間が解決する。どういうことかというと、影転移で、例えば十キロほど離れた場所に印を付けたとする。すると、次は、そこからさらに十キロの場所に付けられる。そうして、少しずつ進めば、獣人の国に行けるだろう。

 そういうことだ。

 幸い、ゼフィリアンが座学を全てなくしたおかげで——ちなみに、そのなくなった分はすでに頭に入れてある——俺の自由時間は、とても長い。

 二年半という期限には、間に合うだろう。


 さて、破滅を防ぐ策を講じることもできた。

 今日は、どんな風にフロンティーヌを虐めてやろうか?




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以前練習用に書いた短編を置いておきました!

よかったら、そちらもどうぞ(_ _)


(⁠ノ⁠`⁠Д⁠´⁠)⁠ノ⁠彡 ⁠┻⁠URL┻


https://kakuyomu.jp/works/16818093089484243777/episodes/16818093089484389882

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