第5話:300円のイヤリング。
「大福、今度の定休日、在庫処分しようと思ってるんだけど店をオープン
するから、おまえ出てくれないか?」
ジャンクショップの店長から仕事を頼まれた大福。
「あ〜・・・いやいや、じいちゃんが亡くなる予定なんで、ちょうど今度の
休みの日葬式になると思うんです・・・で、実家に帰るんで悪いですけど
店番は無理です」
「そうか・・・じゃ〜しょうがないな・・・って?」
「おまえ、じいちゃんが亡くなる予定ってなんだよ?」
「予定は予定です・・・とにかく無理ですから・・・」
(店番なんかやってられるかっつう〜の)
「僕はウィッカちゃんに会いに行かなくちゃいけないんだから・・・そっちの
ほうが最優先事項だよ」
レイがウィッカを紹介してくれたおかげで大福はウィッカと仲良くなっていた。
それでも今のところウィッカにとって大福は客のひとり。
大福のほうはウィッカを見て彼女としゃべってるだけでトキメキっぱなしだった。
基本的にソルシエールのメイドさんは、休日でもほとんど店の裏にいることの
ほうが多いみたいだ。
理由は分からないけど、みんな、あまり外には出たがらない。
オーナーさんのエンリードから外出は止められてるのかも?
それでも、それぞれ休みはあるんだからデートに誘うことだってできるはず。
ウィッカちゃん目当ての野郎ども「ライバル」が彼女を誘いに店にやってくる。
レイは恋愛は禁止じゃないって言ってたから、ウィッカがそのうち客の誰か
とできちゃう可能性だってあるわけで・・・そこは個人の自由だからね。
だから大福も負けじとソルシエールに日参しているのだ。
だけどウィッカは大福も含めおいそれと男どもにはなびかない。
肝心なのはウィッカの気持ち次第・・・これが一番の問題だった。
大福は人間の女性には感情があるから付き合うのは難しいって思ってるよう
だけどメイドだって感情はあるわけで、ましてや相手は魔法使い。
人間より一筋縄じゃ〜いかない。
ましてや魔法界から逃げてきてる身。
まあ、大福はウィッカが魔法使いだって知らないんだから感情もへったくれも
ないわけで、ウィッカをなんとか彼女にすることしか考えてなかった。
それが偶然にも大福がウィッカの気を引くことに成功したのは、ある出来事が
あったからだった。
ソルシエールに来る客の男どもはなんとかウィッカをゲットしようと高級ブランド
をプレゼントに持って来る。
バカだから高級なプレゼンを贈ったら女は誰でもヘコヘコついて来るって思って
るんだ。
それに他の男に負けたくない虚栄心見え見えだし・・・。
格好つけたって、そんなことでついてくるような女はそれだけの値打ちの女
だってことを知らないんだ。
そう言う下心のあるヤツにウィッカがなびかないのは幸いだった。
だけど、なにもしないで手をコマねいていてもウィッカは振り向いてくれない。
大福も店でウィッカと会うたびにをデートに誘ってるんだけど、なかなかいい
返事はもらえない。
そこで大福は2,000円くらいのイヤリングを出店で買った。
当然ウィッカにプレゼントするためだ・・・。
高級ブランドには手は届かないけどライバルにせめてもの抵抗だった。
日頃、レイちゃんにもお世話になってるからってんで、彼女には300円の安物の
イヤリングを買った・・・すごい差別、レイにも同じ値段のもの買えよ。
でウィッカが店に出てる時にしつこくデートに誘った。
「ねえ、僕とじゃイヤなの?ウィッカちゃん」
「イヤじゃないけど?・・・じつこい」
「僕さ、真剣なんだよ・・・真面目に君と付き合いたいって思ってるんだ」
「とっても切実なんだ・・・君のことで頭がいっぱいだもん」
「だけどさ、他の男と同じようにブランドものなんか俺には買えないからさ、
あの、これ出店で買ったイヤリングなんだけど・・・可愛いなって思って・・・」
そう言って大福はポケットからイヤリングを取り出してろくに確かめもせず
ウィッカに渡した。
「そりゃさ、俺も他の客みたいに高級なプレゼント君に贈れたらいいけど・・・」
「これいくらだったの?」
「え?」
「あ、いや、だから・・・そのイヤリング・・・せ・・・ヤバ・・・」
「いくらだったの?」
「え〜と・・・それ、違うって言うか・・・300円・・・とか・・・」
大福がウィッカに渡したのは300円のイヤリングのほうだった。
2,000円のイヤリングを渡すつもりが間違って300円のイヤリングを渡してしまった
のだ。
大福は終わったって思った・・・。
つづく。
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