第3話:ソルシエールがオープンの日。

少し過去に遡ってのこと。


春葉原のビルとビルの間に新しいメイドカフェがオープンするって聞いた大福。

そりゃもう見逃すわけにはいかない。

ジャンクショップをサボってメイドカフェ「ソルシエール」のオープン当日に

店にやってきた。

ソルシエールにはすでにスケベな野郎どもがずらっと列をなしていた。


「もっと早めにくりゃよかったかな・・・」


今日のオープン日はメイドさん全員が紹介される日。


大福は締め出されを食わされることなくギリ店の中に入れた。

テーブルは満杯、カウンター席が空いていたのでそこに陣取った。


カウンターの中に、メイドさんが二人いて大福に愛想を振りまいた。

その、ひとりがレイちゃん・・・もうひとりはアンちゃん。

もちろん、ふたりとも可愛いメイドさん。

だから大福と最初に話したのがレイちゃんだったわけ。


「お帰りなさいご主人様」


先に大福にそう言ったのはレイちゃんだった。


「あ、どうも・・・君、お名前は?・・・」


って大福はレイちゃんの胸元の名札を見た。

名札にはただレイって書いてあるだけ・・・。


「あ、レイちゃんね、よろしくねレイちゃん・・・それからそっちは?」

「あ〜アンちゃんね・・・アンちゃんも、よろしく、ふたりとも可愛いね」


しばらく待っているとカフェの奥からオーナーが出てきた。

オーナーの名前は「エンリード」中年の円熟味を増した熟女さん。


その後ろからぞろぞろとメイドさんが7人ばかり出てきた。

みんな、それぞれに個性があって美人揃いで可愛い。


「おっ、ついにメイドさんのお披露目か?」


そしてオーナーのエンリードがメイドさんたちを自分の前にいざなった。


「はい、前に出て・・・」


メイドさんたちが、ひとり、ひとりずら〜っと横一列に並んだ。

そして全員が言った。


「お帰りなさいませ、ご主人様・・・萌え萌えキュンキュン」


と、その瞬間だった。

オーナーがメイドさんをひとりひとり紹介する前に大福は、ひとりのメイドさん

を見て釘付けになった。

大福の周りの景色が、風景が、空気が、時間が止まった。

私のハートはストップモーションって・・・まさにそれ。


と思ったら今度は心臓がバクバク、アドレナリンにドーパミン大量放出。

大福が釘付けになったメイドさん・・・まさに彼の理想の女性だったんだ。

内面はどうあれ、見た目だけで言うなら、もうこの子しかいない。

この子しかもう見えない。

俺のためだけに現れた天使・・・思い込みでも勘違いでもいい大福はそう思った。


ピンクの髪に最強のツインテールに、ホワイトブリム。

整った顔立ち・・・めちゃ可愛い、キュート、ピュア、ビューティフル、プリティ、

スイート、チャーミング、そしてセクシー。

美に関する言葉を全部並べも足りないくらい。

その子はメイド服がよく似合っていて、その笑顔もまためっちゃ眩しかった。


そう大福はひとりのメイドさんに瞬殺で恋しちゃったんだな。

曇ってた空も一気に青空になった訳だ・・・でも輝く太陽をその手に掴めるかどうかは大福次第。


ショックのあまりオーナーが彼女を紹介したことも彼女が自分のことを自己紹介したことも頭が異次元に飛んで放心状態だった大福はなにも耳に入ってなかった。


しまった彼女の名前を聞き逃した。


だから大福はすぐにカウンターの中にいたレイちゃんに問いただした。


「ごめん、レイちゃん・・・あの左端のメイドさんの名前なんてった?」


「なに?聞いてなかったんですか?」

「あの子の名前は「ウィッカ」・・・・ウィッカちゃんて名前です」


「え?ウォッカ?・・・酒?」


「一文字違う・・・ウォッカじゃなくてウィッカ・・・覚えてあげてね」

「え〜と?」


「大福・・・俺、塩豆 大福しおまめ だいふく


「あっそ・・・よろしくね大福ちゃん」


「大福ちゃん・・・鼻の下がびろ〜んて伸びて顎が床についてるよ」

「もしさ、大福ちゃんウィッカちゃんを好きになるなら止めといたほう

がいいよ、悪いことは言わないから・・・」


「ミルドゥフォレでもウィッカちゃんはモテモテだったからね」


「なに、そのミルドなんたらって?・・・モテモテって?」


「あ、なんでもない・・・まあ、大福ちゃんの好きにすれば?・・・」


オーナーがメイドさんたちを連れて奥へ引っ込んでいった。


「え?なんで?・・・ウィッカちゃんを口説いちゃダメなのか?」


「今から言っておいてあげるけどライバルだらけだよ」

「ウィッカちゃん目当てに鼻の下伸ばしたお坊ちゃん達が、わんさかカフェに

やって来るの目に見えてるもん」


「そうか、そのこと考えてなかった」


晴れていたと思った空がまた曇って行きそうだった・・・豪雨にならないうちに

ウィッカちゃんをなんとかしたかった。


つづく。


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