ここは文学クラブじゃない

「バスティアン、何をしているんだ!」と驚いて声を上げ、心拍数が一気に上がる。バスティアンは手に持った物を見下ろしながら、「父のベネットM9さ」と、肌に鳥肌が立つような真剣さで説明する。「もしもの時のために持っていくんだ」。僕の目は銃に釘付けになる。使い古されたグリップに丁寧に刻まれた細部が見て取れる。


何と言えばいいのかわからない。この狂気の中で銃器の存在は、僕たちをとても暗い道へ導くかもしれない。しかし、事態が悪化したときには他に選択肢がないことも理解している。視線を落とし、胸に重くのしかかる責任を感じる。「わかった、バスティアン」と心配と疑念を込めてつぶやく。「でも、できるだけ使わないでくれ」。バスティアンはうなずき、銃は彼の服の中に隠される。見えなくなっても、その存在は僕の心の奥で不穏な影として潜み、緊張感をさらに高めている。


二人の間に気まずい沈黙が流れ、隠しきれない緊張が漂う。僕たちが直面しているリスクが一層現実味を帯びてきた。未知の領域に足を踏み入れていて、これから何が起こるのか、僕たちが準備できているのか確信が持てない。


時間だ。ついに、指定された場所へ向かう。エリスタロの陰鬱な通りを歩きながら、緊張で手に汗がにじむ。太陽が照っていても、この街は陰鬱なオーラを保っていて、影が決して完全には消えないかのようだ。


道中、地面に横たわる男が目に入る。手には酒瓶を握り、見えない地平線を見つめている。巨大なネズミが彼の腹の上でまるで家族の一員のように休んでいて、もう一匹のネズミが彼の唇に残った酒を情熱的なキスのように飲んでいる。この光景は、ここが忘れられた者たちの街、エリスタロであることを思い出させる。


バスティアンはダンテから与えられた方向へとしっかりと歩みを進める。目的地まであと少しのようだ。


2017年11月28日、14時48分 -


僕たちはヴェルブリクサ地区、廃工場の外にいる。そこは廃墟となった工業地帯だ。場所は人々とバイクでごった返し、耳をつんざくような音楽が全身を震わせる。手がわずかに震えている。アドレナリンが血管を駆け巡り、周囲を緊張した目で見渡す。バスティアンと目を合わせ、お互いに不安な表情を交わす。一瞬目を閉じ、深い息で少しでも心を落ち着けようとする。工場の中へと足を踏み入れる前に。


工場は朽ち果て、錆びた金属とひび割れたコンクリートが混ざり合っている。周囲には観客のための仮設の座席が設けられ、中央には戦いに挑む者たちの運命が決まるいくつもの檻がある。遠くからでも、檻の床に散らばる血が見て取れる。今まさに、二つの戦いが同時に進行している。近くの戦いから目を背け、自分自身の内なる葛藤に集中しようと努める。一瞬目を閉じ、奈落の底に飛び込む前に心の平静を探す。ダンテとどこで会うべきかわからない。


その時、背中に手が触れる。反射的に振り向くと、血の気が引くような光景が目に入る。腕に蛇のタトゥーを持つあのクソ野郎だ。鼻には固定具、目はあざでほとんど閉じかけており、さらに不気味に見える。彼は背筋に寒気を走らせる笑みを浮かべながら僕を見る。「やあ、レアンドルス」。一歩後ずさりすると、階段で足を滑らせそうになる。何とかバランスを保つ。


「落ち着けよ、坊主。何もしないさ。もう一度最初からやり直そうぜ。俺はゼレク、ギャングの第三司令官だ。ダンテから君たちを手厚くもてなすように言われてるんだ。彼はもうすぐ来る。それまで、ショーを楽しんでくれ」とゼレクは肩を叩きながら言う。彼はバスティアンの腕を折り、この混乱を引き起こした張本人だ。全く信用できない。しかも、僕が彼の鼻を折った後で彼が喜んでいるとは思えない。ゼレクは去る前にバスティアンのギプスに気づき、大きな笑みを浮かべる。「おや、それにサインでもしてほしいか?」と笑い声を上げて去っていくが、僕に敵意のこもった視線を残すのを忘れない。


待つしか選択肢はない。僕たちは観客席に閉じ込められ、すぐ近くの檻で繰り広げられる激しい戦いの無言の目撃者となる。バスティアンと僕は座席につくが、アクションの眩しさに椅子の端に座っている。二人の男が対峙している。一人は胸に蛇のタトゥーを持つ筋肉の塊、もう一人は唇の一部が裂け、僅かな皮膚で繋がったままの歪んだ表情をしたよろめく戦士。


リングで繰り広げられる凄まじい暴力に血が凍る。巨漢は相手の首を掴み、まるで引きちぎろうとするかのように地面に叩きつける。そして、地獄のような無慈悲な連打が彼の傷ついた顔面に降り注ぐ。倒れた戦士は気絶しているようだが、それでも暴行は止まらない。審判は人間性を失ったかのように、哀れな男の顔を血で染めるのを無視している。周囲の観客は叫び声を上げ、一部は抗議し、一部は歓喜している。感情が空気中で脈打ち、叫びと喚きの破壊の交響曲を奏で、全員を緊張させている。


光景はおぞましい。これを見て明らかなことが一つある。強い者、あるいは最も残忍な者だけが生き残るということだ。審判はようやく介入することを決め、十分な罰が与えられたとでも計算したかのように。しっかりとした足取りで審判は巨漢と倒れた若者の間に立つ。係員たちは哀れな男を人間のゴミ袋のようにリングから運び出す。


バスティアンは嫌悪と心配の表情を浮かべ、僕の方はというと、あまりの絶望感に恐怖も感じない。あるいはアドレナリンが僕の代わりに話しているのかもしれない。数分後、場に一時的な静けさが訪れる。「ねえ、レアン、エマのことなんだけど、どう言えばいいかわからなかったんだ」とバスティアンが僕の考えを遮る。「エマのこと?どうしたんだい?」と困惑して尋ねる。彼が何を言いたいのか気になる。「実は…彼女に会った夜に気づいたんだけど…」しかし彼が言い終える前に、場内の照明が消え、メインリングにライトが当たる。


「どうだい、クソ野郎ども!今週の試合を楽しんでるか?」とダンテがメインリングの中央から叫ぶ。観客は歓声と拳を上げて応える。「今日は新鮮な肉を用意したぞ!潜在能力のある新しい二人の戦士がいる。彼らが何でできているか見てやろう。15分後に最初の試合が始まる。大虐殺の準備はいいか?」と彼が宣言すると、群衆の熱狂が爆発する。大虐殺?大音量の音楽が心臓をさらに速く鼓動させる。手は汗でびっしょりだ。アドレナリンが流れ込むのを感じる。


ダンテはリングを降り、歓声が続く中、僕たちの方へと向かい、落ち着いて座って微笑みながら挨拶する。「やあ、坊やたち。試合の準備はいいかい?」僕は言葉が出ない。まだ全てが何なのか理解できない。「僕たちは何をすればいいんだ?」と少し緊張しながら尋ねる。


「わからないかい、友よ。ここに戦いに来たんだ。これはファイトクラブであって、文学クラブじゃない。勝者は賭け金の40%を手にし、敗者は20%だ。君たちは今夜のメインイベントなんだ。新人がベテランと生死を懸けた戦いをするんだよ」とダンテは天気の話でもするかのように微笑みながら言う。


生死を懸けた戦い?どうすればいいんだ?出口を探すが、ゼレクのクソ野郎とダンテの手下たちが唯一の逃げ道を塞いでいる。「よし、最初に出るのは君だ、バスティアン」とダンテはバスティアンを指差す。彼は目を大きく見開くが、彼が何か言う前に僕が先に立つ。「いや、彼は戦えない」と割って入る。「代わりに僕が戦う」と毅然とした声で席を立つ。一人と戦おうが二人と戦おうが、どうせもう詰んでいる。


「なんて美しい光景だ。涙が出そうだよ」とダンテは嘲るように言う。「まあ、誰が戦おうが構わないよ。君がそう望むなら、どうぞ」と彼は無関心に受け入れる。ダンテは席を立ち、「よし、坊や。ついてきな。試合が始まる」と言う。バスティアンが僕の腕を掴み、顔には心配と罪悪感が浮かんでいる。彼が銃を隠している場所の近くに手があるのを見る。彼をじっと見つめ、彼の頭にあるであろう愚かな考えを否定するように首を振る。バスティアンはただ銃から手を離す。


ダンテはバスティアンに目をやり、「おい、坊や。ここに残るつもりかい?君には友達のショーを見るための特等席がある。ゼレクについて行きな」と言う。


ダンテは僕をロッカールームへ連れて行き、暗い深紅の染みがついた包帯を投げて寄越す。「これを巻け」と無関心な声で命じる。「巻いている間にルールを説明してやる。第一ルール:ルールはない。わかったな?4分後に出番だ。素晴らしいショーを見せてくれよ。君には大いに期待している」と彼は鋭い笑みを浮かべ、部屋を出て行く。ドアが閉まる音が頭に響き、ロッカールームは圧倒的な静けさに包まれる。外から漏れる音楽だけがその静けさを破っている。くそ、どうすればいいんだ?心臓が激しく鼓動し、その鼓動が耳に響く。


ぼんやりと遠くを見つめ、考えに溺れる。手に持った染みだらけの包帯を見つめる。その一つ一つの染みが、この布が目撃してきた暴力的な物語を鮮明に思い出させる。粘つく血の感触が指にまとわりつき、それを力強く手首に巻きつける。震える手を落ち着かせようと拳を握る。不確かさが僕を蝕み、時間がまるで息を呑んでいるかのように伸びていく。突然、声が静けさを破る。「準備しろ、坊主!お前の番だ」としゃがれた声で審判の一人が呼ぶ。表情が真剣になり、一つの思いが頭を支配する。戦う時が来た。

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