27 探索四日目

 満面の笑みだ。今日も黒騎士サイモンは絶好調らしい。

 昨日、エリスに水を掛けられたことも忘れてくれたのか。


 探索四日目。

 今日も河原での探索となる。昨日よりもう少し上流へ向かう。

 魔石探索のほとんどは、地道な捜索だ。一つ一つ、石を注意深く見て探す。

 

 幸いセレには天賦の才があった。

 遠くから何か匂ってくる……まさに犬のようだ。

 馬車で川沿いの道をさかのぼってもらう。どこだろう……確かに匂うのだ。

 昨日の石の匂いと違う……確かではないが、お城で嗅いだ石の匂いと似ているような気がする……。

 

 セレは隣のイネスにそっと問いかける……。

「イネス……あの石だったらどうしよう……」

「あの石なのか?」

「そうかもしれない……」

「とりあえず、探してみるしかない」

 イネスの言葉にセレは決意を固める。


「ここで停めてください!」

 その言葉に御者のマクスエルが急いで馬車を停めた。


「なんだ、匂うのか?」

 サイモンが問いかける。

「わかりませんが、似ている気がします」

 セレが応える。

「よし、みんな降りて探すぞ!」

 

(掛け声は立派だけど、あんたは役に立たないでしょうが……)

 サイモン以外の全員がそう思ったと思うが、皆馬車を降りて河原に走った。

 セレが方向を見極めようと右往左往している。


「この辺りに散らばっている気がします!」

 セレはそう言うと、匂いが強いと思われるあたりを携帯スコップの先で掘る。河原は人の頭ほどの大きさのゴロタ石で埋め尽くされていて、なかなか厄介だ。

 石を退けても、さらに下も石……と言う感じで微かな匂いはすれども、なかなかそれらしいものは出て来ない。

 ツン……と匂いが強くなった。

「あ、これ……?」

 砂に塗れてはいるが、小さな小指の爪の先ほどの赤い石があった。

「見せてみろっ!」

 サイモンが走って来て、セレの指先の小さな粒を取ろうとした。

「あっ」

 石は手からこぼれて、ポチャンと川の水の中に落ちた。

 それを見ていた全員の顔が蒼白になった。


「お、お前がしっかり持っていないからだっ!」

 サイモンはそう吐き捨てると、石が落ちたあたりを睨んでいる。

 クロシドは、ざぶざぶと川の中に入って石を探し始めた。


(まったくもうっ! あんたが落としたんでしょうが!)

 セレはサイモンを睨みつけながら、他にも匂いがしているところを探す。


 何ヶ所か、匂いのする場所を特定して、イネスや、ヘイリーに掘ってもらう。

 石が砕けて何ヶ所かに散った? ……そんな気がする。

 それだとそれほど大きい結晶は望めない。


 イネスがやはり小さな赤い石の結晶を見つけた。その後も、匂いがしていたところからは、同じく小さな結晶が見つかった。

 だが、これではとても剣の柄に嵌め込むには大きさが足りない。


「やっと見つけたと思ったのに……」

 さらに上流を探してみるが、それ以上の収穫は得られなかった。



「そうですか。見つけるには見つけたが、小さなものばかりだった、ということですね」

 今日のアンドリュー様への報告は、ヘイリーとマクスエルだ。

 イネスは夕食後のカードゲームの相手をしている。

 毎日やっていたら、他の客や店の主人までが加わるようになった。

 どうやらこれは、アンドリューのお陰かもしれないのだが……。


「そう簡単に魔石が見つかるとは思ってはいませんでしたが、あまり長くなるのも困りますね。兄が出張でばってくると面倒なことになります」


* * *


 夕食も終えて、お風呂にも入って、セレとエリスは恋バナで盛り上がっている。

 

「ねえ、セレはー、イネスのことどう思ってるの?」

「どおって……ん〜、先輩冒険者?」

「そおじゃなくて〜、好きなんでしょ?」

 

「えっ、なんであたしがイネスをっ……」

「ほら、焦ってる」

「ちがうわよー! イネスが変わった石の匂いをさせてるから、それで気になったの!」

「それは、最初だけでしょ?」

 

「剣を教わっただけだし……」

「いいやつじゃない?」

 

「だって、強いし、頼りになるし。……ときどき優しいし……」

「もう、めっちゃ好きじゃん」

 

「ときどき、男の子っぽい……」

「もう、諦めて認めちゃったら? 好きだって」

「うう……」

 セレは枕を抱きしめてため息をついた。

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