第41話 過労の鑑定士

「うん、こりゃ過労だね――」


 突然倒れてしまったフォルトゥナさんを担ぎ込んだ診療所にて。

 診察をしてくれた医術士の先生は、ベッドに横たわるフォルトゥナさんの様子を一目見るなり、そう言った。


「過労……ですか?」


 わたしが先生に問い返すと、先生はカルテにペンを走らせながら頷く。

 

「特にスキルの使いすぎだね。この娘さん、おそらく連日のように、限界まで自分のスキルを酷使してるよ。スキルは使いすぎれば体に負担がかかっちゃうからね。この娘さんも、それが限界を超えて倒れちゃったんだろう」

「……そんな」

「命に関わるとかの重篤な状態じゃないから安心していいよ。だけど倒れたのに変わりはないからね。しばらくは安静にして、ゆっくり休むこと。そうすればすぐ良くなるから。それと魔法回復薬エーテルがあるなら飲ませてあげるといい」

「わかりました!」

「それじゃ、お大事に」


 診察を終えたわたし達は、そのままお会計も終えてしまい、今だにフラついているフォルトゥナさんに肩を貸しながら、診療所を後にした。


「フォルトゥナさん、あそこのベンチに一旦、座りましょうか」


 わたしは診療所のそばに置かれたベンチを指さして、そう提案する。

 フォルトゥナさんはわたしの提案に素直に応じて、ベンチの背にもたれかかるようにして腰掛けた。


 わたしはマジックバッグの中から、ストックしていたエーテルを一本取り出すと、彼女に差し出した。


「フォルトゥナさん。早速ですけど、これを飲んでください。エーテルです!」

「え、でも……それはミユルちゃんの……」

「気にしないでください! 困った時はお互い様。それにエーテルのストックはたっぷりありますから!」

「う……ぁりがと……」

 

 フォルトゥナさんは弱々しい手つきでエーテルを受け取ると、ゆっくりと飲み干していく。

 エーテルを飲み終えたフォルトゥナさんは、ほうっと深いため息をついた。


「……ありがとう、ミユルちゃん。楽になったよ」

「よかったです!」

「ごめんね? 迷惑かけちゃって……」

「そんな迷惑だなんて。さっきも言いましたけど、困った時はお互い様ですから。ね? ダリヤさん」


 わたしの言葉を受けて、隣に立つダリヤさんはこくりと頷く。

 

 フォルトゥナさんはそんなわたし達を見上げて、力なく微笑んだ。

 エーテルを飲んだとはいえ、その顔色は未だ優れない。


「フォルトゥナさん、家まで送りますよ。お家はどっちの方ですか? 教えてください」

「あ、えっと……」


 わたしがそう問いかけると、フォルトゥナさんはバツの悪そうな顔を浮かべて、口ごもる。


「……? どうしました?」

「その、ありがとう。でもここまでで大丈夫。私、職場に戻らないといけないから……」

「え、職場に戻るって……」


 フォルトゥナさんの予期せぬ言葉に、わたしは驚いて、彼女の顔をまじまじと見つめてしまった。

 

「何言ってるんですか。ダメですよ! 薬を飲んだとはいえ、無理をしたらまた倒れちゃいます! 今はゆっくり休まないと……」

「エーテルのおかげで随分楽になったし……本当に大丈夫。それに、休んだら……仕事がたまっちゃって、あとが大変になるだけだから、はは……」


 フォルトゥナさんは、そう言って、何かを誤魔化すように淡く笑う。

 それでもわたしは納得がいかなかった。


「そんなのワグナスにやらせればいいんです! 従業員が体調を崩したら、その分も働くのが店主の義務です! あんなに偉そうにしてるんだから、その分、キビキビ働いてもらえばいいんですよ……! あ、大丈夫です。もし言い出しにくいなら、わたしも一緒に行きますから」

「ミユルちゃん……でも……ワグナス様は……」


 フォルトゥナさんが何かを言いかけるが、目を伏せて、途中で言いかけた言葉を飲み込んでしまう。


「ワグナスは……鑑定ができないんでしょ?」

「……ッ!」


 その先の言葉を引き継いだのは、ダリヤさんだった。

 わたしは思わず、ダリヤさんの方へ振り返る。


「え? 鑑定ができない……? それって……?」


 ダリヤさんは、淡々と語り始める。

 

「人がスキルを発動するとき……それがどんなスキルであっても、大なり小なり自分の身体の内側にある魔力を、外側に放出するもの」

「魔力を外に放出……」

「そしてスキルを発動した後はしばらくの間、魔力の放出が止まらない。だから、その人が身にまとう魔力の揺らぎを見れば、どんな系統のスキルかとか、どれだけの使い手だとか、なんとなく分かるわけで」

「ダリヤさんすごくありません? わたしはそんなの全然わかりませんけど……」

「魔法使いは、魔力に対してことさら敏感だから、なんとなくわかるだけ。ミユルも特訓すればできるようになるよ」


 ダリヤさんはそう言ってから、話を戻すように視線をフォルトゥナさんへ移した。


「とにかく……その魔力の揺らぎが、あのワグナスという店主からは何も感じられなかった。その代わりにフォルトゥナからは、ひどく乱れた魔力の揺らぎを感じた。つまり、あの男は自分では鑑定スキルを発動できず、それをフォルトゥナに押し付けている。違う?」


 ダリヤさんの問いかけに、フォルトゥナさんは俯いたまま唇を噛みしめている。

 やがて小さく首を縦に振った。


「そのとおり、だよ。ワグナス様は鑑定スキルを使えない……だからわたしがお店に戻らないと。今日が納期の仕事も沢山溜まっているし、お客さんにも迷惑をかけちゃうし……だから……休んでいる暇なんてないんだ」


 フォルトゥナさんは、まるで自分を追い詰めるかのように、そう言葉を連ねた。

 その言葉は、わたしにとって到底納得できるものではなかった。

 

「そんなの、おかしいですよ!」


 わたしは思わずそう叫ぶ。

 理不尽な環境で働かされるフォルトゥナさんが、実家で虐げられていた頃の自分の姿と重なった。





――――――――――――

 ステータス

――――――――――――

ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)

性別/女

冒険者等級:星なし

称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者、他力本願、人助け初心者、お酒初心者

好き/クー、食べもの全般、お風呂、ハチミツ酒、かわいいもの

嫌い/虫

スキル/《ゴミ》

効果:ゴミをリサイクルする能力

   弱い仲間を強化する能力(?)

   ゴミの品質をあげる能力(?)

――――――――――――

――――――――――――

ダリヤ

性別/女

冒険者等級:三つ星

称号/魔法使い、セイバー、ベテラン冒険者

好き/ハチミツ酒

嫌い/実家

スキル/黒魔法

効果:攻撃系魔法を使いこなす能力

――――――――――――

 





 

 

 

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ゴミ令嬢は曇らない!〜家族に見放されても、婚約者に裏切られても、ホームレスになっても、絶対に諦めない少女のスローライフ〜 三月菫@12月22日錬金術師5巻発売! @yura2write

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