第40話 鑑定スキル


 料理が食べ終わり、一息ついたタイミングで、フォルトゥナさんがおもむろに話をきりだしてきた。


「そういえば、ミユルちゃん。鑑定をしたかったアイテムって、今持っているの?」

「はい、ありますけど」

「もしよかったら見せてくれる?」

「はい、構いませんよ」


 わたしは、マジックバッグの中から、鑑定対象の薬が入った小瓶を取り出すと、テーブルの上に置いた。


「これが鑑定したかったアイテムです。何かの薬らしいんですけれど、効果がわからなくて」

「ちょっと、手に取っていい?」

「どうぞ」


 フォルトゥナさんは小瓶を手に取ると、しげしげと見つめる。


「これなら……見てて」


 小さくそう呟いて、小瓶を再度テーブルの上に置くフォルトゥナさん。

 彼女は、片手に着けていた薄手の白手袋を脱ぐと、その手のひらを小瓶にかざす。

 彼女の手の甲には、魔法陣のような紋様が記されていた。


「《万象を識る叡智よ、この手の中に宿りて、未知を照らせ――》」


 彼女がそうささやくと、魔法陣が淡く輝きだす。

 その輝きは、小瓶の中の薬へと吸い込まれるように移動し、薬は光に包まれた。


「《鑑定》成功」


 小さくそうつぶやいたフォルトゥナさんは、ローブの懐から手帳とペンを取り出すと、おもむろに手帳の一枚を破りとり、そこにさらさらとペンを走らせた。


「やっぱりこれは薬だね。一時的に五感を強化する薬――感覚増幅薬シンセシスポーションで間違いないと思う」


 フォルトゥナさんは、書き終えたそのメモを、薬の小瓶と一緒にわたしに差し出す。


「はい、これ。この薬の効能と、品質を書いておいたから。確認してね」


 差し出されたメモ帳には、フォルトゥナさんの言葉どおり、薬の名称から品質、効果から副作用にいたるまで、感覚増幅薬シンセシスポーションの効能が事細かに記載されていた。

 わたしは差し出されたそれらを受け取って、ぼんやりとフォルトゥナさんの顔を見つめてしまう。


「あ、あの、フォルトゥナさん……今のって?」

「うん、。ワグナス様に知られたら怒られちゃうから、こっそりね」


 フォルトゥナさんはそう言って、人差し指を口元にあてて微笑んだ。


「ありがとうございます! フォルトゥナさん!」

「ううん、二人の役に立てたならよかった」

「あ、もちろんお金は払います! 鑑定料金は……」

「いらないよ」


 お財布を出しかけたわたしを手で制して、フォルトゥナさんは言葉を続ける。

 

「ランチを奢ってもらったお礼として。気にしないで」

「フォ、フォルトゥナさん……」


 なんていい人なんだこの人は!

 わたしの胸の中は、フォルトゥナさんに対する感謝でいっぱいになってしまった。


「本当にありがとうございます! フォルトゥナさん、お礼にデザートも注文させてください! 何にしますか!?」

「え? いや、わたしは別に……」


 こうしてわたしは遠慮するフォルトゥナさんを、半ば強引に押し切る形で、デザートもご馳走することにした。


***


「それにしても、鑑定って本当にすごいスキルですね……あっという間にアイテムの効能が丸わかりになっちゃうだなんて」


 デザートとして注文したショートケーキをぺろりと平らげた後、わたしはフォルトゥナさんが鑑定してくれたアイテムを見つめながら、しみじみとつぶやく。


「鑑定スキルは、使用者の力量によって、鑑定できるアイテムの種類はもちろん、鑑定時間に大きな差がでると聞いたことがある――」


 ダリヤさんも、同じく食後に注文した紅茶のカップを口元に運びながらそう言った。


「よく知ってるね、ダリヤちゃん」

「ダリヤさんは、こう見えても三つ星の冒険者なんです! だからスキルのこととか詳しいんですよ!」


 わたしはさも自分の手柄のように、ダリヤさんの経歴を紹介した。


「三つ星……!? すごいんだね」

「えへへそれほどでもぉ」


 なぜか自分が褒められてるみたいな気がして、デレデレと照れてしまうわたし。

 

「別に大したことない。スキルについても、一般常識として知っているだけ」


 そんなわたしを差し置いて、褒められた当の本人であるダリヤさんは、いつものクールな調子で、そう言った。

 

「というか、すごいのはフォルトゥナの方だと思われ。さっきの《鑑定》……一分もかからずに終わった。こんなスピード、並の鑑定士には不可能。たぶん、相当上位の鑑定スキルを持っているはず。違う?」


「ええと、スキルだけなら……たぶん、そうかも」

 

 フォルトゥナさんは少し困ったように目を伏せながらも、小さく答えた。


「わたしのスキルは、《慧眼》って言います」


「けいがん……?」

 

 わたしは首をかしげながら、その名前を繰り返す。

 ダリヤさんは、紅茶のカップを口に運ぶ手を止めて、目を見開いて固まってしまった。


「《慧眼》って……ホントに?」

「うん」

「信じられない……」


 スキルに関する知識が浅いわたしは、今ひとつその凄さがピンとこなくて、ダリヤさんに問いかける。



「ねえねえ、ダリヤさん、慧眼って、そんなにすごいスキルなんですか!?」

「すごいよ。鑑定系スキルの最上級スキルのうちのひとつ――分かりやすくいうと、上から二つ目」

「ええええっ! フォルトゥナさん、そんなすごいスキル持ってるんですか!?」

 

 驚きのあまり思わず体を浮かせそうになり、慌てて椅子に座り直した。

 ダリヤさんは続ける。

 

「《慧眼》は鑑定系スキルの中でも別格。効果範囲も情報量も、他の鑑定スキルを圧倒的に上回る。並の鑑定士が数時間かけるアイテムでも、《慧眼》ならたった数秒で終わるって言われてるくらい」

「でた! チートだ! チートスキルだ!」

 

「お、大げさだよ。確かにスキルには恵まれたけど、それを使いこなせるかはまた別の話で……わたしなんて、そんな大したことないし……」


 フォルトゥナさんは顔を赤らめながら、小さな声で否定する。

 

「大したことないなんてそんな! 本当にすごいですよ! フォルトゥナさん、すごい、すごすぎます!」

「そ、そんなに言われると……恥ずかしいよ……」


 フォルトゥナさんは頬を赤く染め、視線を泳がせながらも、わずかに照れくさそうな笑みを浮かべていた。

 しかし、それもつかの間。


「あ、もうこんな時間!」


 ふと時計に目を落としたフォルトゥナさんは、慌てたように席から立ち上がった。

 

「ごめんなさい、二人共。お昼休憩が終わっちゃうから……わたしはこれで――」


 そうフォルトゥナさんが言いかけた瞬間――


「あ――」

 

 彼女の身体がぐらりと傾いた。


「フォルトゥナさん!?」


 カダンと派手に椅子を倒して、フォルトゥナさんの身体は床に崩れ落ちる。


「フォルトゥナさん! 大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫……ちょっと立ちくらみ、しただけ……」


 慌てて駆け寄り、抱き起こそうとするわたしを手で制して、彼女は立ち上がろうとする。

 しかし、うまく立ち上がれないようで、その場にうずくまるフォルトゥナさん。

 顔色は悪く、息も荒いようだ。

 わたしは彼女の身体を抱き止めながら、ダリヤさんの方に振り返った。


「ダリヤさん――! フォルトゥナさんを診療所へ連れていきましょう!」

「わかった」


 わたしの提案にうなずくダリヤさん。

 わたしたちは、突然倒れてしまったフォルトゥナさんを連れて、診療所へと急いだ。



 

――――――――――――

 ステータス

――――――――――――

ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)

性別/女

冒険者等級:星なし

称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者、他力本願、人助け初心者、お酒初心者

好き/クー、食べもの全般、お風呂、ハチミツ酒、かわいいもの

嫌い/虫

スキル/《ゴミ》

効果:ゴミをリサイクルする能力

   弱い仲間を強化する能力(?)

   ゴミの品質をあげる能力(?)

――――――――――――

――――――――――――

ダリヤ

性別/女

冒険者等級:三つ星

称号/魔法使い、セイバー、ベテラン冒険者

好き/ハチミツ酒

嫌い/実家

スキル/黒魔法

効果:攻撃系魔法を使いこなす能力

――――――――――――

 




 

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