第38話 パワハラ店主
「あの、フォルトゥナさんが鑑定してくれるって……いいんですか?」
「はい、見習いの私でよければ……なんですけれど」
わたしとダリヤさんは顔を見合わせた。
もちろん、それは願ってもない申し出だったからだ。
「ありがとうございます! ぜひよろしくお願いします!」
カウンターまで早足で戻り、わたしはフォルトゥナさんの手を取った。
フォルトゥナさんは照れくさそうに笑みを浮かべながら「こちらこそ」と返してくれる。
その場が和やかな雰囲気に包まれていった。
「それでは、鑑定を希望のアイテムを見せてもらえますか?」
「はい、もちろん。ここに――」
フォルトゥナさんのうながしを受けて、わたしがマジックバッグに手を突っ込んだタイミングで――
「おい、なに勝手なことをしている!」
店内に、怒鳴り声が響いた。
わたしはアイテムを取り出す手を止めて、声の先へと視線を移す。
視線の先――店の奥から、恰幅のいい一人の男性がこちらに向かってきていた。
年齢は三十代くらいだろうか。
金髪をオールバックになでつけた男性で、丸々と太った体を、上等そうな白スーツに押し込んでいる。
「ワ、ワグナス様……!」
フォルトゥナさんの顔が真っ青になり、慌てて頭を下げた。
ワグナス……ということはこの男性が、このアトリエの現店主ということか。
わたしはチラッと階段の踊り場にかけられた店主の肖像画を盗み見た。
……なんというか、随分と美化して描いたんだな。
「フォルトゥナ! いつからお前は鑑定士になった!? 俺にだまって、つけ上がった真似をするんじゃない!」
「も、申し訳ありません、ワグナス様……!」
ワグナスさん……いや、こんな感じの悪いヤツは呼び捨てでいい。
ワグナスは、カウンター越しにフォルトゥナさんを怒鳴り散らす。
フォルトゥナさんは恐縮しきって、ひたすら謝り続けるだけだ。
「ちょっと、その辺で……! フォルトゥナさんをそんなに責めないでくださいよ!」
ワグナスのフォルトゥナさんに対する、あまりに理不尽で一方的な物言いに、わたしはたまらず口を挟んだ。
「なんだ、部外者は黙ってろ!」
「黙りません。フォルトゥナさんはわたし達が困っているから、鑑定を引き受けてくれただけじゃないですか! ここは鑑定士のアトリエでしょ? それの一体何がいけないんですか!?」
ワグナスは、わたしみたいな小娘に一丁前の口を利かれたのが、完全に予想外だったのだろう。一瞬だけきょとんとしたような顔を浮かべた。
「お前ら、その小汚い身なり……冒険者か……?」
「冒険者だったら、なんだっていうんですか?」
ワグナスはわたし達のことをじろりと睨み、言葉を続ける。
「いいか? ミネルヴァ商会には……俺のアトリエにはな、伝統と格式があるんだよ。ウチに依頼をしてくるのは貴族や商人、そして教会と相場が決まっているんだ。お前らのような薄汚い冒険者風情が敷居をまたいでいい場所じゃないんだよ!」
「薄汚い冒険者ですって……?」
ワグナスのあんまりな物言いに、流石のわたしもカチンときてしまった。
一方的に言われっぱなしのままじゃ、気がすまない。
言い返してやる!
わたしは深呼吸をひとつしてから、口を開く。
「ふーん、伝統と格式あるアトリエの店主様は、そうやってお客さんを口汚く罵るものなんですねえ」
「ああ?」
「その割には、あなたの態度の節々からなんの伝統も格式も感じられませんねぇ」
「なんだと……!?」
「百歩譲って、この店にはあなたの言う伝統と格式とやらがあるとして……そもそも、あなたがこのアトリエの店主になってから、まだ、たった半年しか経ってないんですよね? それじゃあ、この店の伝統と格式を作ったのって、あなたじゃなくて、先代の店主さんじゃないですか?」
ワグナスの顔がみるみるうちに紅潮していくけれども、わたしは構わず言葉を続ける。
「先代の作り上げた栄光を笠に着て威張り散らして、お客さんを選り好みして……よくそんな真似ができますよね。ちょっとでも良識がある商売人なら、怖くて怖くてそんなことできないと思うんですけど、ねえダリヤさん?」
「たしかに」
ダリヤさんも面白がってニヤニヤしている。
わたしは視線をワグナスに戻す。
彼の顔は、怒りからか、タコみたいに真っ赤になっていた。
「ワグナスさんは、お店の経営状況はちゃんと把握してますか? 今は予約で埋まるくらいに人気があるみたいですけれど、店主の態度がその様じゃ、売り上げはすこーしずつ下がってきてるんじゃないですか?」
「黙れ、黙れ、黙れ! こ、この俺を侮辱したな!?」
「侮辱と感じるってことは、図星ってことですよねー」
「貴様ァ!!」
どうやらワグナスの怒りが頂点に達したらしい。
ワグナスがわたしの胸ぐらをつかむ。
しかしその瞬間――
「トニト――」
ダリヤさんが手にした杖を小さく振るう。
「くが!?」
その瞬間、ワグナスの体がビクンと硬直して、伸ばした手を引っ込める。
「き、貴様……俺に何をした!? ぼ、暴力を振るったな……!?」
ワグナスは片手を押さえて、プルプルと震えながらダリヤさんに向かって叫ぶ。
「先に手を出してきたのはそっち。正当防衛なわけで」
「ふ、ふざけるな!」
「ふざけてるのはお客に手を上げるそっちだと思われ」
ワグナスは、返す言葉を探すように口をぱくぱくとさせてから、血走った視線をフォルトゥナさんに向ける。
「フォルトゥナ! 衛兵だ! 衛兵を呼べ! この冒険者をつまみ出せ!!」
「あ、あの……でも……」
フォルトゥナさんは顔を真っ青にして、しどろもどろになりながら、ワグナスとわたしの顔を交互に見た。
(……これ以上ここにいても、フォルトゥナさんに迷惑をかけちゃうだけだね)
わたしは小さくため息をついて、ダリヤさんに目配せする。
「いきましょうか、ダリヤさん」
「ん、了解」
わたし達は踵を返して、ワグナスに背を向ける。
「衛兵なんか呼ばなくても結構ですよ。こんなアトリエ、こっちから願い下げですから――」
わたしはそう捨て台詞を残して、ミネルヴァ商会を後にした。
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ステータス
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ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)
性別/女
冒険者等級:星なし
称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者、他力本願、人助け初心者、お酒初心者
好き/クー、食べもの全般、お風呂、ハチミツ酒、かわいいもの
嫌い/虫
スキル/《ゴミ》
効果:ゴミをリサイクルする能力
弱い仲間を強化する能力(?)
ゴミの品質をあげる能力(?)
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――――――――――――
ダリヤ
性別/女
冒険者等級:三つ星
称号/魔法使い、セイバー、ベテラン冒険者
好き/ハチミツ酒
嫌い/実家
スキル/黒魔法
効果:攻撃系魔法を使いこなす能力
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