第37話 鑑定士のアトリエ


 ゴッズさんから鑑定士アトリエを紹介してもらったわたしは、ダリヤと合流してから、さっそく『ミネルヴァ商会』へと足を運んだ。


「ここ、ですね」


 ゴッズさんに書いてもらった地図を頼りにたどり着いた先は、中央街セントラルの一等地に位置する一画だった。

 まるで貴族のお屋敷か何かと見間違うような立派な建物が堂々とそびえ立ち、その入り口には、大きく『ミネルヴァ商会』と書かれた、ケバケバしい装飾が施された看板が掲げられている。


 ……なんというか、ずいぶんと自己主張が強い店構えである。


「さ、さすがは大商会ですね……」

「……趣味わる」


 わたしとダリヤさんは、そのファサードに対する率直な意見をこぼす。


 ゴッズさんの話だと、ミネルヴァ商会は、彼と旧知の中である大ベテランの鑑定士が一代で築き上げたアトリエらしい。

 

 曰く、その店主は職人気質で叩き上げ。

 鑑定の腕は超一流。

 ゴッズさんがこの街で一番信頼している鑑定士……らしいのだが。

 

「ゴッズさんの話とは……少し、印象が違うような……?」

「……同感」


 わたしのこぼした感想に、ダリヤさんも頷く。


 そのファサードから店主の強い自己顕示欲がヒシヒシと伝わってくる。

 正直言って、ちょっと、いや、かなり苦手なタイプだ。

 

 とはいえ、せっかく紹介してもらった伝手なのだ。

 ゴッズさんからは店主宛の紹介状も書いてもらっていて、それを無下にするわけにはいかない。


「とりあえず、入ってみますか?」

「ん」

 

 ダリヤさんと共に、わたしはミネルヴァ商会を改めて見上げる。

 そして覚悟を決めると、その扉を押し開けたのだった。


 ***

 

 店内は外観に負けず劣らず、豪華できらびやかな装飾品であふれかえっていた。


 絵画、彫刻、宝石、剣、宝飾品。

 おそらくは調度品の類なのだろうが、その一つ一つに、一体いくらかかっているのか想像もつかない。


 また、エントランスの壁のあちこちには、店主が、おそらく鑑定の依頼をしたであろう顧客と並んで握手している写真が、額縁に入れて飾られていた。


「趣味わる……」


 ダリヤさんがふたたびそうつぶやくのも理解できる。

 見ていてウンザリするくらいの自己顕示欲の塊である。


 そんな店内をおっかなびっくりといった感じで見渡していると、受付カウンターがあるのが目に入った。


 わたしとダリヤさんは受付カウンターまで移動すると、席に座っていた店員に声をかけた。


「あの……」

「は、はい……! なんでしょう」


 わたしが声をかけると、店員さんは、ちょっと慌てたような様子で、目を通していた書類から顔を上げた。

 その拍子に、店員さんが掛けていた度の強そうなメガネがずり落ちる。

 

 わたしよりちょっと年上くらいのお姉さん。

 ウェーブのかかったオフホワイトの髪の毛をサイドでまとめ、胸元くらいまで垂らしている。

 その胸元には『フォルトゥナ』と書かれた名札が下げられていた。


「アイテムの鑑定をお願いしたくて来ました」


 わたしがそう要件を告げると、フォルトゥナさんは、さらに慌てた様子で「少々お待ちください!」と言って、手元に置いてあった帳簿に目を通す。

 


「お、お客様……ご予約は?」

「予約? すいません、予約はしてないです」


 わたしがそう答えると、フォルトゥナさんはバツの悪そうな顔を浮かべて、おずおずと口を開いた。


「申し訳ありません……当店は鑑定を予約制で承っていまして……」

「え、そうなんですか? それじゃあ、今からでも予約を……」

「申し訳ありません。予約は3ヶ月後まで埋まっております」

「3ヶ月も?」

「はい、当店は、その……鑑定をご希望のお客様が大変多くいらっしゃいまして……ごめんなさい」

「そ、そうですか」


 さすがは人気店といったところなのだろうか。

 予約で埋まっているなら仕方ない、一度引き下がって別のアトリエをあたってみるしかない。


 わたしがそう思って、引き下がろうとしたタイミングで、ダリヤさんが入れ替わるように口を挟んできた。


「ボクたちは店主あての紹介状を持っている。それだけでも預かってもらえないか?」

「紹介状、ですか? えっと、一応拝見しますね……」


 ダリヤさんは、ゴッズさんから受け取った紹介状を渡すことを促すように、わたしの腕を肘で軽くつついた。


「あ、はい……えっと、これです」


 フォルトゥナさんは紹介状を受け取ると、メガネを押し上げながら、その中身を丁寧に確認する。

 その間、わたしもダリヤさんも、ちょっと期待を込めて彼女の反応を待った。


 けれど、フォルトゥナさんの顔は、みるみるうちに曇っていった。


「あの……すみません、こちらの紹介状ですが……」


 フォルトゥナさんは困ったように、紹介状の文面を指差しながら続けた。


「こちらの紹介状の宛先が……のマグヌス様宛になっています」

「え? 前店主って……今は違うんですか?」


 わたしが尋ねると、フォルトゥナさんは申し訳なさげに眉を下げ、こくりとうなずいた。

 

「はい……マグヌス様は一年前にご病気で倒れられて、今は息子のワグナス様が後を継いでおります。ですので、この紹介状は、残念ながら現在は無効となってしまうかと……」

 

 その答えを聞いて、わたしは、がっくりと肩を落とす。

 店主が代替わりしたとあれば、ゴッズさんの伝手も役にたたない。

 おまけに、予約も三ヶ月先まで埋まっているとなれば、せっかく紹介状まで書いてくれたゴッズさんに悪いけれど……

 

 ダリヤさんの方をチラッと見ると、彼女もまた、首をふるふると横に振っていた。

 

 ミネルヴァ商会とは縁がなかったということだ。

 今度こそ引き下がるしかないだろう。


「わかりました。ご迷惑をおかけしてすみませんでした……」


 わたしはフォルトゥナさんに軽く会釈をしてから、トボトボとした足取りで出口へと向かった。

 そして、アトリエを後にしようと、正面玄関のドアノブに手をかけたとき――


「あの! 待ってください……!」


 後ろからフォルトゥナさんが声をかけてきた。

 わたしとダリヤさんは、くるりと振り返る。


 フォルトゥナさんはカウンターから身を乗り出して、わたしたちにこう続けた。

 

「その……もしよろしければなんですけれど」


 フォルトゥナさんは、少しためらうようなそぶりを見せたあと、こう続けた。

 

「私が鑑定を引き受けましょうか?」

「……え?」

 

フォルトゥナさんの申し出にわたしは思わず目をぱちくりさせる。

 

「あの、私も一応、鑑定士なんです……見習いですけれど」


 フォルトゥナさんは所在なさげに瞳を揺らしながら、か細い声で、そうつぶやいた。





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 ステータス

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ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)

性別/女

冒険者等級:星なし

称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者、他力本願、人助け初心者、お酒初心者

好き/クー、食べもの全般、お風呂、ハチミツ酒、かわいいもの

嫌い/虫

スキル/《ゴミ》

効果:ゴミをリサイクルする能力

   弱い仲間を強化する能力(?)

   ゴミの品質をあげる能力(?)

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――――――――――――

ダリヤ

性別/女

冒険者等級:三つ星

称号/魔法使い、セイバー、ベテラン冒険者

好き/ハチミツ酒

嫌い/実家

スキル/黒魔法

効果:攻撃系魔法を使いこなす能力

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