第33話 隠された力?
「特別なのは、ウルルンじゃなくて、ミユルの方かもしれない」
「わたしが? 特別?」
ダリヤさんの言葉を受けて、わたしはぽかんとしてしまった。
ダリヤさんは言葉を続ける。
「シェルダーローリーと戦っているとき、ウルルンの体が青く光っていたこと、覚えてる?」
「はい。ウルルンの体が大きくなって、ダンゴムシを飲み込んでいるときに、すごく光ってました」
「ボクの知るかぎり、ハピネスライムにそんな能力はない。だからあの光は、ウルルン自身が発したものじゃなくて、
「別の何かから、与えられた光……」
「そう。そしてボクは、あの青い光と同じような光をもう何度も見ている」
ダリヤさんはそこまで言うと、少しだけ間をおいてから、わたしの瞳をじっと見つめた。
「ミユル、キミのスキル《ゴミ》――ウルルンの体から出ていた光は、キミがスキルを使うときに現れる光とそっくり」
ダリヤさんの発した言葉に、わたしは目を丸くした。
「確かに、光の感じは似てるかもですけど……でも、わたしウルルンにスキルを使った覚えなんかないですよ?」
わたしが戸惑いつつそう言ったけれど、ダリヤさんは首を横に振る。
「ううん、よく思い出して。キミはスキル《ゴミ》を、確かにウルルンに使っていると思われ」
「え?」
「ほら、ミユルがウルルンをテイムした直後……ボクは、ハピネスライムなんか仲間にしても役に立たないと言った。それは覚えてる?」
「ああ、確かに」
「その後、ミユルはハピネスライムに言い聞かせるようにこう言った。
「
わたしは、ダリヤさんの言葉を引き継ぐように、そう小さくつぶやいた。
「確かに、言いました。スキル発動の、
そして、その直後にウルルンの体に異変がおきたことも、はっきりと思い出した。
「そうだ……! その後……輝いてました! ウルルンの体! 青い光に包まれてキラキラと……! わたしがスキル《ゴミ》を使ったときみたいに!!」
脳裏に、そのときの光景がまざまざとよみがえる。
「つまりウルルンが強くなったのは、ミユルのスキルのおかげかもしれない、ということ」
「わたしのスキルが……ウルルンに……!」
興奮を隠しきれないわたしは、テーブルから身を乗り出してしまった。
「でもでも! スキル《ゴミ》って、ゴミをリサイクルするだけのスキルですよ……!? なんでウルルンがパワーアップしちゃうんですか!?」
まるでダリヤさんに食ってかかるみたいに問う。
「ミユル、いったん落ち着く」
そんなわたしをなだめるように手で制してから、ダリヤさんは再び口を開いた。
「確認なんだけど、
ダリヤさんの問いに、わたしは大きく首を縦にふる。
「そうです! 《ゴミ》っていう名前だけ見た両親が、その場で儀式を中止しちゃって……」
ダリヤさんは、少しの間考え込むように瞳を伏せると「なんの確証もない推測だけど」と前置きしてから、自身の考えを語りだす。
「もしかして、ミユルのスキル《ゴミ》って、アイテムをリサイクルするだけじゃなくて、もっと
「リサイクルするだけじゃない?」
「例えば、対象は
「人も強化できるんですか!? わたしの《ゴミ》スキルで!?」
わたしは、また身を乗り出してしまう。
ガチャン!
今度はその拍子に、ハチミツ酒が入っていたジョッキが派手な音を立てて倒れてしまった。
「わっ、ご、ごめんなさい!」
卓上に置いてあったナプキンを手に取り、慌ててテーブルを拭くわたし。
そうしていると、今度は肩に乗っていたウルルンがテーブルの上に飛び降りきて、こぼれたハチミツ酒をペロペロと舐め始めてしまった。
「わわっ、ウルルンちょっと! それお酒だよ!?」
「うっるる〜ん!」
「あー、ほとんど飲んじゃった!」
わちゃわちゃと騒ぐわたし達に対して、ダリヤさんは呆れた様子で大きなため息をついてから、話を再開した。
「……とにかく。そう考えれば、ウルルンのパワーアップの理由をしっくり説明できるわけで」
「なるほど。わたしがウルルンに《ゴミ》スキルを使って、その結果パワーアップしちゃったと、ダリヤさんはそう考えているわけですね……」
わたしはこぼれたハチミツ酒をナプキンで拭きとりながら、ダリヤさんの語ったことを頭の中で反すうする。
そのうちに、とあるアイデアを思いついた。
ナプキンを折りたたんでから、ダリヤさんの方に向き直るわたし。
「じゃあ……試しに、ダリヤさんにもやってみましょうか?」
「……え、ボクに?」
「はい! わたしのスキルで、もしかしたらダリヤさんも、もっともーっと強くなるかも……ってことで!」
「いや、ボクは……」
「まあまあ、遠慮しないでくださいよ」
わたしはそそくさとナプキンを折りたたむと、ニコニコしながら、ダリヤさんに向かって両手のひらをかざす。
「えー、コホン……いきますよ」
咳払いを一つしてから、気持ちを込めて彼女に言い放った。
「ダリヤさん――キミはゴミじゃない!」
その声のボリュームが、店内の喧騒に負けないくらいに大きかったせいで、周りの冒険者たちの視線を集めてしまった。
ちょっぴり気恥ずかしさを感じたけれど、構わずじっとダリヤさんを見つめた。
しかし、彼女の体に特別な変化はなく、スキルの光が発生することもなければ、彼女に不思議な力が湧き上がった気配もない。
「どうですか? 力が沸いてきたりとか……」
「何も起こらないわけで」
「うーん……なんでですかね?」
わたしは首をかしげながら、かざしていた手を下げる。
「スキルが発動するには何か条件があるのかもしれない」
「条件、ですか」
「例えば……効果は人間以外の生き物に限定されるとか。あとは、ウルルンの場合はもともと弱いモンスターだったわけなんだし、弱い存在にしか効かないとか」
「なるほど……ダリヤさんはもともと強いし、立派な冒険者ですもんね。うーん、わたしのスキル……謎が多すぎですよ……はぁ」
わたしは少し肩を落としてがっかりする。
そんなわたしをいたわるように、ウルルンがぷるぷると体をゆらしながら、頬ずりしてくれた。
「えへへ、ウルルン、励ましてくれてるの? ありがと、キミは本当にいい子だね」
わたしがそんなウルルンを、指でツンツンしてあやす。
そんなわたしの様子を見ながら、ダリヤさんはほんのり微笑んだ。
「まあ、そう気を落とすこともない。アイテムをリサイクルできるという効果だけでも十分、価値のあるスキルなわけで。他の効果はゆっくり探していけばいいと思われ」
「そうですよね……うん、そうします!」
わたしはダリヤさんに笑顔を返す。
ダリヤさんの言うとおり、わたしのスキルはわからないことだらけだけど、それはつまり伸びしろがあるっていうことだ。
そう前向きにとらえれば、自然と気持ちも上向いてくる。
わたしには時間がたっぷりあるんだ。
誰にも邪魔されない、自由な時間が。
その時間の中で、冒険者として地道にスキルを磨いていって、自分の道を切り開いていけばいい。
そうすれば、必然敵にわたしが授かったスキルの謎も明らかになっていくはずだ。
そう、なにも焦る必要はない。
「よーし!」
わたしは気持ちを切り替えるように、大きく伸びをひとつした。
「ダリヤさん! 腹ごしらえも終わったことだし、ギルドにクエストの完了報告をしにいきましょうか」
「オッケー」
「ウルルン、おいで」
「うるるん!」
わたしが手招きをすると、ウルルンはぴょんと飛び跳ねて、わたしの肩の上に飛び乗った。
「じゃあ、出発です!」
わたしはウルルンを肩にのせたまま、ダリヤさんと一緒に冒険者ギルドへと向かうのだった。
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ステータス
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ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)
性別/女
冒険者等級:星なし
称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者、他力本願、人助け初心者、お酒初心者
好き/クー、食べもの全般、お風呂、ハチミツ酒、かわいいもの←new
嫌い/虫
スキル/《ゴミ》
効果:ゴミをリサイクルする能力
弱い仲間を強化する能力(?)←NEW!
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――――――――――――
ダリヤ
性別/女
冒険者等級:三つ星
称号/魔法使い、セイバー、ベテラン冒険者
好き/ハチミツ酒
嫌い/実家
スキル/黒魔法
効果:攻撃系魔法を使いこなす能力
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