第30話 テイム成功
「ホントにテイムできちゃうなんて……信じられない」
わたしの肩に乗って、ぷるんぷるんと弾んでいるウルルンを見つめながら、隣を歩くダリヤさんがつぶやいた。
「いやあ、なんでも試してみるものですよねえ。諦めたらそこで試合終了だね、ウルルン?」
「うるるん!」
わたしの言葉に、ウルルンもまるで返事をするように可愛くぷるんと揺れてくれる。
わたしはウルルンと顔を見合わせ、にんまりと笑い合った。
トバリの森でゴミ拾いに勤しんだわたし達。
ハピネスライムのウルルンという新しい仲間(?)も加わって、とりあえず今日の探索はここまでということで、わたし達は街へと引き返すことにした。
「でも、せっかく仲間にするなら、もっとマシなモンスターにしたらよかったのに」
ダリヤさんが、ぷるんと揺れるウルルンをしげしげと見つめながら、そんなことを口にする。
「マシなって、どういう意味ですか?」
「言葉どおりの意味。さっきも言ったけど、ハピネスライムは経験値こそ高いけど、強さはモンスターの中では、最弱のよわよわの役立たずなわけで」
「や、役立たずって、なにもそんな風に言わなくても……」
「ボクは事実を言っているだけ。そんなのをテイムにしても、こっちの戦力にはならないわけで」
「それは……戦力という意味ではそうかもですけど……」
「それにモンスターを飼うにもお金がかかるわけで。エサ代、手入れ代、他にも諸々……それだけのコストを割いてまで、戦闘で役に立たないモンスターを仲間にする価値があるのか、はなはだ疑問なわけで」
ダリヤさんの容赦ない正論に、わたしはうぐっと言葉に詰まる。
なんというか、前世で子どもの頃、捨て犬を拾ってきたときのことを思い出してしまった。
あのときも両親に散々叱られたけれど、どうしてもその子を見捨てられなかったのだ。
あのときも、今回だって。
わたしは何も考えなかったわけじゃない。
その子たちを見捨てられない、大きな理由があったのだ!
だって、とってもかわいいじゃん――!?
「で、でもですね! ほら! ウルルンって可愛いじゃないですか! めっちゃ癒やされますよ。ダリヤさんも触ってみてください。モチモチでヒンヤリで気持ちいいですよ?」
「いや、ボクは別に……」
「うっるる~ん!」
断ろうとしたダリヤさんの言葉を遮るように、ウルルンがわたしの肩から、ダリヤさんの胸元へと飛び込んだ。
「ひゃ、わっ、ちょ、ちょっと……!」
慌てた様子のダリヤさんは、思わずウルルンを両手でキャッチする。
ウルルンはダリヤさんの手のひらのうえで、ぷるぷると楽しそうに揺れている。
「ぷるるるる~ん♪」
「ひ、ヒンヤリする……! くすぐったい! や、やめてってば!」
ダリヤさんがウルルンを剥がそうとするが、その動きはどこか弱々しい。
どうも彼女はウルルンにあまり強く出れないようだ。
口では冷たいことを言いつつも、ウルルンのぷるんぷるんの愛くるしいフォルムに、心を奪われつつはあるらしい。
その無表情の仮面が剥がれ落ちそうになっている。
「どうですかダリヤさん! ウルルン、可愛いでしょう?」
「……まあ、確かに。かわいいことは、別に否定しないわけで……」
ダリヤさんは手のひらのうえでぷるぷる震えるウルルンをじっと見つめながら、小さくつぶやいた。
そして、ウルルンをわたしの肩にそっと乗せてから、ダリヤさんは小さくため息をついた。
「とにかく、モンスターのテイムはゴミ拾いとは違うんだから。ちゃんと選ばないと、後で後悔すると思われ」
「うっ……わ、分かってますよぅ」
「あと、ウルルンのお世話はちゃんとミユルがすること」
「わ、分かってますって! ウルルンはわたしが責任を持ってお世話します!」
「ん、なら、ボクからそれ以上言うことはない」
とりあえずウルルンを仲間にすることについて、ダリヤさんのお許しがでたようだ。
「……いざというときのための非常用経験値として。とっておけばいいと思われ」
「ん? ダリヤさん、なんか言いました?」
「なんでもないわけで」
わたしは気を取り直して、自分の肩に乗るウルルンに手を伸ばし、そっと撫でた。
「うるる~ん♪」
ウルルンは気持ちよさそうに体を揺らして、わたしの首元あたりにひっついてくる。
わたしはウルルンを撫でながら、ささやくように話しかけた。
「ウルルン、ダリヤさんはああいってるけど、ホントはとっても優しい人だから」
「うるる?」
「安心して。キミが戦えなくても、わたし達はキミを見捨てたりしないよ? だって――」
そう、そのフレーズは、何気なしにわたしの口から飛び出したのだ。
「だって、キミは――
たぶん、わたしの口癖になってしまっていたからだろう。
その瞬間。
ぱあああああああああ。
突然、ウルルンの体はまばゆい青い光に包まれた。
「え? え!? ウルルン、どうしたの!?」
突然の事態に、慌てるわたし。
ウルルンから発せられた青白い光は辺りをまばゆく照らし、ダリヤさんも思わず目を見張る。
やがて、その青い光は徐々に弱まっていき、そして消えていく。
「うるるん!」
光がおさまった後、ウルルンは何事もなかったかのように、わたしの肩の上でぷるぷると揺れていた。
わたしとダリヤさんは顔を見合わせ、互いに首を傾げる。
「ダリヤさん……今の光って……?」
「いや……ボクに聞かれても……」
「ハピネスライムの能力かなにかでしょうか?」
「そんなの聞いたことないわけで……」
ダリヤさんの頭にもわたしの頭にも、クエスチョンマークが浮かぶ。
どうやら、ここで考えていても、疑問は解決しそうにない。
「とりあえず街に戻ろうか。ここであれこれ考えていても仕方ないわけで」
「そうですね」
ダリヤさんの提案にわたしも同意する。
そうして、わたし達が街へと戻ろうと足を向けた瞬間。
がさがさっ――
ふいに森の奥の方から、茂みをかき分ける物音が響いた。
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ステータス
――――――――――――
ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)
性別/女
冒険者等級:星なし
称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者、他力本願、人助け初心者、お酒初心者
好き/クー、食べもの全般、お風呂、ハチミツ酒、かわいいもの←new
嫌い/虫
スキル/《ゴミ》
効果:ゴミをリサイクルする能力
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――――――――――――
ダリヤ
性別/女
冒険者等級:三つ星
称号/魔法使い、セイバー、ベテラン冒険者
好き/ハチミツ酒
嫌い/実家
スキル/黒魔法
効果:攻撃系魔法を使いこなす能力
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