第28話 初クエスト

「あ、これは回復薬ポーションの空き瓶! あっちには魔力回復薬マナポーションも!」


 鬱蒼とした森の中。

 多くの先輩冒険者たちが分け入って歩いて出来たであろう獣道を、木々の隙間から差し込む木漏れ日を頼りに、わたしはずんずん進んでいく。

 その道中の端々に落っこちているのは、薬の空き瓶や、壊れた装備品などのゴミ。

 それらは全部、かつてここを通った冒険者たちが捨てていった、使い終わったアイテムたちだ。


「あ、これは解毒薬アンチドーテの空き瓶。森といえば毒モンスターだから備えあれば嬉しいな、ですよね!」

 

「ん……これは……使い終わったケムリ玉かな? ふへへぇ、これさえあれば強敵とエンカウントしても逃げられる! ゲットゲット!」


 思わず、にへらと顔がほころぶ。

 まるで宝探しをしているみたいだからだ。


 そう、わたしにとってこれらのゴミは、文字どおり、お宝トレジャーなのだ。

 わたしは拾い上げたそれらのアイテムに手をかざして、スキル《ゴミ》を発動する。


「キミはゴミじゃない――!」


 その瞬間、アイテムはスキルが放つ青白い輝きに包まれる。

 光が消えると、さっきまで空っぽだった瓶の中は、たっぷりと半透明の液体で満たされていた。


 わたしのスキル《ゴミ》の効果で、使い終わったアイテムが復活したのだ。


「復活させたアイテムは~♪ マジックバッグにポポイのポイッ~♪」


 わたしは鼻歌を口ずさみながら、復活させたアイテムを片っ端から、肩から下げたマジックバッグに収納していく。

 あっという間にマジックバッグの容量ストレージが一杯になっていった。

 

 わたしはようやくそこで、ゴミ拾いの手を止めた。

 額に浮いた汗を、手の甲で拭う。


「ミユル、ちょっとストップ」


 そんなわたしに、後ろを歩いていたダリヤさんが声をかけてきた。

 わたしは足を止めて、くるりと振り返る。


「探索を始めてもう二時間……そろそろ休憩を挟んだほうがいいと思われ」

「あ、もうそんなに経つんですね……了解です!」

「じゃ、ちょっとそこの木陰で休憩していこう」


 ダリヤさんが指差した道の脇の木陰まで、わたし達は移動する。

 木々の幹に寄りかかるようにして、わたしとダリヤさんは、横並びになって地面に腰を降ろした。


「ミユル、お茶、飲む?」

「あ、はい。いただきます」

 

 ダリヤさんが水筒からカップにお茶を注ぐ。

 わたしはそれを受け取ると、ぐいっと口に含んだ。

 冷たいお茶の爽やかな味が、喉を通り抜けていく。


「ふぇぇ……美味しいです」

「それはなにより」


 ほっと一息ついてから、わたしはダリヤさんに向き直って話しかける。


「それにしても、ダリヤさん……本当にありがとうございました!」

「突然なに?」

「始めてのクエスト……わたし向きの依頼を選んでくれて。おかげで大量のアイテムをゲットすることができました!」

「ああ、そんなことか」


 ダリヤさんはわたしのお礼の言葉の意図を理解して、ふっと静かに笑った。


***


 わたしとダリヤさんがパーティーを組んで始めての冒険。

 冒険者ギルドが紹介してくれたクエストの中から、ダリヤさんが選んだのは、初心者向けダンジョン《トバリの森》でのゴミ拾いのお仕事だった。


 ダンジョンの中には、冒険者が使い終わったアイテムがそこら中に落ちている。

 捨てられたゴミをそのまま放って置くと、ダンジョンがゴミだらけになってしまったり、モンスターが悪用する危険があったりと、色々問題があるので、定期的に冒険者ギルドが依頼主となって、ゴミ拾いのクエストが出ているのだ。


 ダリヤさんは、自分もお茶をひと口飲んでから、言葉を続ける。


「別に……ミユルにお礼を言われるほどのことじゃないよ。下手に難しい依頼を受けてミユルに倒れられても面倒くさいし……それにゴミ拾いの仕事は、地味だし報酬も安いしで不人気だから、いつでも受注できるし」

「ふっふっふっ……だけどわたしのスキル《ゴミ》があれば……なんの役に立たないゴミも、新品のアイテムに早変わりです! ギルドからゴミ拾いの報酬はもらえるし、拾ったアイテムは再利用してもいいし売ってもいいし……一石二鳥ってまさにこのことですよね!?」

「確かに。ミユルがいてくれたら、ゴミ拾いが結構美味しいクエストになりそうだね」

「はい、お任せください! ダリヤさんのために、がっぽり稼ぎますよ!」

「ヨロシク」


 わたしが得意げに胸を叩く姿を見て、ダリヤさんは小さく微笑んだ。

 そして、しばらく休憩をして、ひと心地ついたところで、ダリヤさんが今後の行動について切り出してきた。


「ミユル。この後はどうしようか。マジックバッグは満杯になったみたいだから、そろそろ引き返す?」

「そうですね。けっこうアイテムも拾えましたし、今日はこのぐらいで……」


 そのとき。

 森の奥の茂みから、かすかな音が聞こえた。

 「がさっ」と、何かが動いたような音だ。


 わたしはぴくりと反応し、ダリヤさんも杖を構えて、すぐに警戒の視線を茂みに向ける。


「ダリヤさん、今なにか音が……」

「ミユル。ちょっと離れてて」


 ダリヤはわたしを下がらせると、茂みに向かって、そろりそろりと近づいていった。

 そして、茂みの前で立ち止まると、杖を突きつける。

 杖先がほんのりと青白く輝いて、いつでも魔法が放てるように、ダリヤの魔力が注がれているのがわかった。


 さっきまでのゆるやかな空気が一転して、緊張感が場を支配する。

 いかにトバリの森が初心者向けの低ランクダンジョンとはいえ、当然モンスターは生息している。

 

 ダンジョンは、一瞬たりとも気を抜いていい場所じゃないのだ。

 ……さっきまで、気を抜きまくりのユルユルだったけれど。


「……茂みの奥にいるのは分かっている。隠れていてもムダ」


 ダリヤさんが、静かに告げた。

 その言葉に、茂みがぶるっと震えて、奥から何かが飛び出してきた。

 

「!」

 

 ダリヤさんの杖の先にいるたもの……それは。


「スライム……?」


 白く透き通った、ぷるぷると震える一匹の小さなスライムだった。


 


――――――――――――

 ステータス

――――――――――――

ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)

性別/女

冒険者等級:星なし

称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者、他力本願、人助け初心者、お酒初心者

好き/クー、食べもの全般、お風呂、ハチミツ酒

嫌い/虫

スキル/《ゴミ》

効果:ゴミをリサイクルする能力

――――――――――――

――――――――――――

ダリヤ

性別/女

冒険者等級:三つ星

称号/魔法使い、セイバー、ベテラン冒険者

好き/ハチミツ酒

嫌い/実家

スキル/黒魔法

効果:攻撃系魔法を使いこなす能力

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