第21話 力を示せゴミスキル!

「ダリヤさん! この人まだ生きてます――!」


 わたしがそう叫ぶと、ダリヤさんは荷物を回収する手を止めて、少女の手首を取って脈を測った。それから少女の傷口の様子を確認する。


「ダリヤさん……! 大丈夫ですよね……? 助かりますよね……!?」


 わたしは祈るような気持ちで、ダリヤさんに問いかける。

 けれどダリヤさんは脈を取っていた手を離し、それから、ゆっくりと首を横に振った。


「ダメ……傷が深すぎる。それに血を失い過ぎている」

「そんな!?」

「ミユルは治癒のスキルは使える?」

「……使えません」

「ボクも使えないわけで。それに手持ちの治療薬じゃ、この傷を癒すには全然足りない。だから……今のボクたちに出来ることは何もない」

「そんな……」


 ダリヤさんから無情な現実を告げられる。


 わたしは少女の顔へと視線を落とす。

 可愛らしい顔はべっとりと血で汚れて、表情は苦しみで歪んでいる。

 不意に、その口元が動いた気がした。


 生きたい――


 わたしには、この人がそう訴えているように見えた。

 まだ、この人の命の灯火は尽きていない。

 まだ、懸命に生きようとしている。 

 ここに命がある以上、諦めるわけにはいかない!

 

 そして、同時にわたしは、ひとつの言葉を思い出していた。

 それは、アイテム屋の店主ゴッズさんから、かけられた言葉。


 

「ダンジョンの中は、ゴミであふれている――」

 


 わたしは無意識のうちに、それを口ずさんでいた。


「だったら……!」


 わたしはバッと立ち上がる。

 きょろきょろと辺りを見回した。

 ダンジョンの地面のあちこちには、ゴッズさんの言葉どおり、ここを通った冒険者が捨てていったであろうゴミが転がっていた。

 わたしは、そのゴミの中から、使えそうな物を探し始めた。


「ミユル、どうしたの?」


 そんなわたしの様子を不審に思ったのか、ダリヤさんが声をかけてくる。

 だけど、わたしは返事を返すことなく、お目当てのモノを探し続けた。


「これはエーテル……こっちはポーション……ダメだ。もっと強力なヤツじゃないと……思い出せ、ゴッズさんのお店でみた、あの薬……諦めるな……絶対にある……!」


 わたしはぶつぶつと独り言をつぶやきながら、必死でゴミをあさり続けた。

 

 そして――


「あった!」


 ついに目的のものを見つけ出した。

 なにやら煌びやかな装飾が施された、キレイな空き瓶。

 わたしはそれを拾って、ダリヤさんの元へと駆け寄る。


「ダリヤさん! これ! これです! 『エクスポーション』! これがあればどんな大ケガでも治りますよね!?」

「え……? いや……確かにエクスポーションを飲めば、この人は助かるかもしれないけど……それは使い終わった後の、ただの空き瓶なわけで……」


 目をキラキラさせるわたしとは対照的に、ダリヤさんはちょっと引き気味にそう言った。


「大丈夫です! 見ていてください!」


 わたしは自信満々にそう言うと、エクスポーションの空き瓶を地面に置いて、両手でかざすように触れた。


「君はゴミじゃない――!」


 わたしがスキル《ゴミ》発動のキーフレーズを唱えると、空き瓶はまばゆい輝きに包まれた。

 

 そして、その輝きが収まったとき、瓶の中は、青く透き通った液体で満たされていた。


「やった、大成功です! ダリヤさん!」


わたしは、出来上がったエクスポーションを拾い上げて、ダリヤさんにかざして見せた。

ダリヤさんは、困惑したような表情で、瓶とわたしの顔を交互に見つめる。


「……ごめん。ちょっと何が起きたのか分からないわけで」

「詳しい説明は後です! とにかくわたしのスキルで、エクスポーションを作りました! これを早くこの人たちに飲ませましょう!」

「う、うん……」


 わたしは、倒れている少女のもとに駆け寄ると、エクスポーションのフタを開けて、少女の口元へと運んだ。


「飲んでください! これさえ飲めば、もう大丈夫ですよ!」


 少女は意識を失っているようで、わたしがいくら呼びかけても返事をしない。

 だからわたしは、彼女の口を無理やり開かせて、そこにエクスポーションを流し込んだ。

 わずかにこくり、と少女の喉元が動く。


 そして――


 数秒後、少女の全身がまばゆい光に包まれた。

 光の中で、少女の負った傷が、みるみるうちに癒えていく。

 やがて光が収まった。

 少女の顔色は、青ざめたものから、血の通った薄桃色のそれへと変わっていて、苦しげだった表情も、安らかになり、すやすやと寝息を立てていた。


「よかったぁ……成功だ……!」


 わたしはほっと胸を撫で下ろす。

 安心感からか、その場にへなへなとしゃがみ込んでしまった。


「大丈夫?」

「あ、はい……!」


 ダリヤさんの手が、私に差し伸べられる。

 わたしはその手を取って立ち上がった。

 ズボンについた汚れをパンパンと手を払う。


 ダリヤさんは、わたしの体調に異変などがないことを見届けると、おもむろに問いかけてきた。



「ミユル……今のは……?」

「わたしのスキルです! わたしのスキルの効果は、ゴミの再利用リサイクル。そのスキルを使って、使い終わったエクスポーションを再利用したんです!」

「アイテムの再利用……? そんなスキル、聞いたこともないわけで……」


 ダリヤさんは、驚きと戸惑いが混じったような表情で、わたしを見つめた。


「そんなことよりダリヤさん! もう一人もエクスポーションを飲ませてあげれば助かるかもしれません! 早く試しましょう!」


 わたしは、ダリヤさんの手を取って、急かすようにそう言った。


「う、うん……わかった」


 ダリヤさんは戸惑いつつも、こくりと頷く。

 それから私たちは、もう一人の戦士さんにもエクスポーションを使ってみた。

 戦士さんも、エクスポーションの回復効果によって、無事に一命をとりとめることが出来たのだった。



――――――――――――

 ステータス

――――――――――――

ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)

性別/女

称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者、他力本願、人助け初心者←NEW!

好き/クー、食べもの全般、お風呂

嫌い/虫

スキル/《ゴミ》

効果:ゴミをリサイクルする能力

――――――――――――

 

 

 

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