第22話 ありがとうと、さようなら
「なんとお礼を言えばいいか……とにかく、ホントにありがとな! 二人とも! なあ、カミル?」
「ええ。二人がいなかったら……ホークも私も、間違いなくあのまま死んでいたわ。ミユルちゃん、ダリヤちゃん、私たちを助けてくれて、本当にありがとう」
場所は変わって、リーフダム教会に併設された、治療院の入り口前にて。
わたしとダリヤさんは、わたし達が助けた冒険者さんたち――ホークさんとカミルさんに向かい合っていた。
時刻はすでに夕方に差し掛かり、西の空からはオレンジ色の夕焼けが少しずつ広がりつつあった。
あの後、無事に戦士さんのこともエクスポーションで蘇生させることができたわたし達。
意識を失っていた二人を連れて、ダンジョンを脱出することにした。
そのまま治療院まで駆け込んで、二人の治療をお願いして。あらかじめ飲ませたエクスポーションのおかげで、二人とも命に別状はなく……
二人は無事に目を覚まして、今はこうして、わたし達に感謝の言葉を贈っている、というわけである。
「いえ、そんな……わたし達はただ、できる事をしただけですから……ね、ダリヤさん?」
「……そもそもボクは助けるつもりもなかった。ミユルがいたから結果的にこうなっただけ。だから感謝されるいわれはないわけで……」
何度も何度も繰り返し頭を下げる二人に対して、わたしとダリヤさんは、それぞれに言葉を返す。
ダリヤさんは、なんだかちょっぴりぶっきらぼうだ。
「……それでも、こうして助けてくれた事には変わりないからさ。だからお礼を言わせてくれよ。本当に」
「そうよ。ミユルちゃんとダリヤちゃんは、私たちの命の恩人なんだから!」
それでも、ホークさんとカミルさんは、感謝の言葉を連ねてくる。
「……そう。なら、どういたしまして」
そんな二人に対して、ダリヤさんは、ちょっとうつむきながら小さな声でそうつぶやいた。
(……きっと照れてるんだ。ダリヤさん)
わたしはそんなダリヤさんの様子を見て、思わず微笑んでしまった。
ダリヤさんの、クールな態度の裏に隠された、お人よしな一面を見たような気がしたからだ。
そんな風なやりとりの後、ホークさんが、改めてわたし達に向き直るようにしてから、懐から麻袋を取り出した。
「とにかく……俺達はこうして命を取り留めたんだ。だから、その分のお礼はさせてもらわないと」
「え、お礼ですか?」
「ああ、これを受け取ってくれないか?」
そう言って、ホークさんは麻袋を差し出した。
わたしは、言われるがままにそれを受け取ってから、麻袋の口を開けてみる。
すると中には……
「え、え、お金!? こんなに沢山!?」
そこには沢山の金貨が詰まっていた。
ダリヤさんも、横から麻袋の中を覗き込んで、目を丸くする。
「命を助けてもらったんだ。その分の対価を支払うのは当然だろう。なあカミル?」
「ええ、受け取ってちょうだい。二人とも」
「で、でも……こんなに大金……ホントにいいんですか?」
わたしは、思わず聞き返してしまう。
ダリヤさんも横から口を挟んできた。
「キミたちを助けた分の報酬は所持金の半分。だから、このお金を全部受け取る理由はないわけで……逆に言うと、半分はもらうケド」
すると、ホークさんは、すこし寂しそうな顔で笑った。
「実は俺たちは冒険者になったばかりで……その金は、この街で冒険者としてやっていくために、二人でずっと貯めてた金なんだ」
「そんな大切なお金なら余計に……」
受け取れません、と言いかけたわたし。
けれど、それはカミルさんに遮られてしまった。
「もういいの。目を覚ました後、ホークと話し合って、わたし達は故郷に帰ることにしたの。ハッキリ分かったから。私たちは冒険者に向いてないって」
カミルさんの言葉に、ホークさんも頷く。
「俺たちはラッキーだったよ。死んでしまう前に、そのことに気づけて。本当に二人のおかげだ」
「ホークさん……カミルさん……」
わたしは返す言葉に詰まってしまった。
一度は冒険者を志して、現実に直面して、諦める。
なんとなく、今の自分の境遇と重なって見えてしまったからだ。
「……ともかくさ、これは俺らなりのケジメみたいなもんだ。受け取ってくれよ」
「あ、は、はい……それじゃあ……ねえ、ダリヤさん?」
ホークさんの笑顔に押されるようにして、わたしは麻袋を受け取った。
ダリヤさんのほうをチラッと見ると、彼女もこくりと頷いた。
そして改めて、もう冒険者ではない二人と向き合う。
「それじゃあ、俺たちはもう行くよ」
「元気でね、二人とも。またどこかで会えるといいわね」
「はい! カミルさん……ホークさんもお達者で!」
わたしは笑顔で二人を見送った。
そんなわたしの隣で、ダリヤさんは相変わらずの無表情で、けれど小さく手を振っていたのだった。
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ステータス
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ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)
性別/女
称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者、他力本願、人助け初心者
好き/クー、食べもの全般、お風呂
嫌い/虫
スキル/《ゴミ》
効果:ゴミをリサイクルする能力
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