第19話 VSジャンボスライム!
「あ、あれが……スライム?」
いやいやいや……!
わたしの知っているスライムは、冒険にでた勇者がはじめての戦闘で出会うような、もっと小さくてぷるぷると震える可愛らしい魔物だ。
こんな大きな怪物じゃないよ!?
わたしがあっけにとられて見つめていると、ジャンボスライムがその大きな体をグニャリと曲げてきた。
「な、なに……!?」
そう思った矢先、スライムの体から大量のゲル状の体液が水鉄砲のように発射された。
「うひゃあ!?」
「危ない――!」
ダリヤさんがわたしを抱きかかえて横っ飛びに飛ぶ。
ズシャシャシャシャッ――と、さっきまでわたしが立っていた場所にゲル状の液体が降り注いだ。
ジュウウウウ……と音を立てて地面から煙が上がる。
「ひいい……溶けてるぅ……?」
「ジャンボスライムの体液は強力な酸性。あれを浴びたら人の身体なんてあっという間に溶けるわけで――」
体勢を整え直しながらダリヤさんは何でもないような口調で呟く。
「酸って……!? 殺意高すぎません……!?」
「殺意というより食欲が旺盛なわけで。とにかくこれ以上キミに構っていられないから、自分の身は自分で守って」
「は、はい……!」
わたしはダリヤさんの指示に素直に従って、ダッシュで小岩の影に身を寄せる。
わたしが隠れたことを確認したダリヤさんはジャンボスライムをまっすぐ見据えて杖を握り直した。
「さて……どう倒そうか……」
ジャンボスライムはグネグネと体を動かして、ゆっくりとダリヤさんの方に近づいていく。
――と思いきやまたしても身体を大きく歪ませて、ダリヤさん目掛けて大量の体液を発射した!
「ふっ……!」
ダリヤさんは横っ飛びに飛んでそれを回避。
すぐさま体勢を立て直してジャンボスライムに向き直ると、ダリヤさんは杖を相手に向けて構えた。
「氷の女神よ、その凍てつく息吹で我が敵を凍らせよ――」
ダリヤさんが詠唱する。
同時に杖の先に雪の結晶のような形をした青白い魔方陣が展開されていった。
「《スノー・ホワイト》――!」
ダリヤさんが呪文の名前を叫ぶと、魔方陣から真っ白い冷気が吹雪のように吹きつけた。
ダリヤさんの位置から離れているわたしの元まで凍えそうな冷気が押し寄せてくる。
吹雪はどんどん勢いを増してジャンボスライムをまるっと包み込んでしまった。
「スライムは水分の塊。だから凍らせれば動きが止まるわけで――」
ダリヤさんの言葉どおり、ジャンボスライムの巨大がみるみる凍りついていき、ついには丸ごとカチンコチンになってしまった。
そして――
ダリヤさんは、ジャンボスライムのもとにゆっくりと歩み寄りながら、懐から
口を開けて、中身をぐいっとひと飲みした後、ポイっとそれを投げ捨てた。
「……これでおしまい」
ダリヤさんがジャンボスライムに向かって杖をかざした。杖先に真紅の魔方陣が展開される。
「《エクスプロージョン》――!」
その直後。
ドゴオオオオオオンッ!
轟音と共に杖先から爆発が起きて、ジャンボスライムは粉々に吹き飛んでしまった。
「すごい……」
ダリヤさんは凶暴なモンスターをあっさりと倒してしまった。わたしは彼女の強さにただただ唖然とするばかりだ。
「さて……と」
戦いを終えたダリヤさんは小さくため息をついた。
そして、わたしの方に視線を向ける。
彼女が被っていたフードは、戦いの影響で外れてしまって、栗色のおさげ髪とルビー色の瞳があらわになっていた。
顔立ちはまるで人形みたいに可愛らしい。
それに思ったより幼い顔立ちだった。
わたしと同い年……?
もしかしたら歳下かも……?
って、そうじゃない!
まずはお礼を言わないと!
「あ、あの……ありがとうございました!」
わたしは慌ててダリヤさんのもとまで駆け寄って、ぺこりと頭を下げた。
「……怪我は?」
「あ、はい! おかげさまで、助けてもらいましたので。ダリヤさんこそ大丈夫でした?」
「別に、この程度の相手なら問題ないわけで」
ダリヤさんは小さく頷く。
その言葉のとおり彼女は冷や汗ひとつかかずに涼しげな顔をしていた。
「……ところでハナシは戻るけど、なんでキミはボクを追ってきたの?」
「あ、はい。そうでしたね」
わたしは本来の目的を思い出して姿勢を正した。
そして息を大きくすって大きな声で宣言した。
「ダリヤさん! おりいってお願いがあります!」
「お願い……?」
「わたしを仲間にしてくれませんか!?」
「……は?」
わたしの返答に、ダリヤさんがポカンと口を開いた。
――――――――――――
ステータス
――――――――――――
ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)
性別/女
称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者、他力本願
好き/クー、食べもの全般、お風呂
嫌い/虫
スキル/《ゴミ》
効果:ゴミをリサイクルする能力
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