第17話 救い手? 巣食い手??
「行っちゃった……」
ダリヤさんを見失ってしまったわたしは仕方ないのでギルドの受付カウンターに引き返す。
ダリヤさんとやりとりをしていたグラントさんに、彼女のことを尋ねてみることにした。
「グラントさん。今やりとりしていた人のこと教えてくれませんか?」
「ん、ダリヤのことか? あいつはうちの常連でな。やり手の
「セイバーさん……あの人が……」
ダンジョンの奥地で斃れた冒険者を回収する役割の人たちのことだ。
他ならぬわたし自身、一度この身を救ってもらったことがある。
わたしは質問を続けた。
「セイバーさんがなんで冒険者ギルドに?」
「セイバーが回収するのは何も冒険者の体だけじゃねえ。ダンジョン内の
「落とし物?」
「使い終わったアイテムだったり、死んだ冒険者の身につけてた装備品だったり……とにかく色々あるさな」
「なるほど……」
「回収した遺体の蘇生や埋葬は教会が仕切っていて、オレたち冒険者ギルドではアイテムの回収、換金を担当しているってわけだ」
グラントさんの説明が、ゴッズさんから聞いた話と繋がっていく。
「それってつまり……セイバーさんがダンジョン内でのゴミ拾いも担当しているってわけですね!?」
「ゴミ拾い? うーん、まあそういう言い方もできるか」
わたしの鼓動がどんどん高鳴っていった。
なぜならダリヤさんこそが、今のわたしに必要な人だと思えたからだ。
わたしの本来の目的はダンジョンでゴミ拾いをすること。
冒険者ギルドを訪れたのは、ゴッズさんの助言に従い、一緒にダンジョンに潜る仲間を見つけるため。
そして冒険者ギルドでは、冒険者に登録するためにまず、先輩冒険者からの推薦状が必要であると告げられた。
だからわたしがクリアしなければならない問題は次の二つ。
ひとつ、先輩冒険者から推薦状をもらうこと。
ふたつ、一緒にダンジョンでゴミ拾いをする仲間を見つけること。
「ダリヤさんとお友達になれれば、二つの問題が一気に解決じゃん!」
興奮を抑えきれずにわたしは叫ぶ。
そうと決まれば、なんとかしてダリヤさんと再会する必要があった。
ダリヤさんとグラントさんの会話を思い出す。
『――つい一時間ほど前、レインルーク洞窟で新米冒険者様ご一行が派手に
『そう』
『行くのか?』
『うん』
間違いない。
会話内容から察するに彼女が向かった先はダンジョン・レインルーク洞窟だ。
わたしはグランドさんからもらったダンジョンマップを取り出して確認する。
レインルーク洞窟の位置もバッチリ印されていた。
街からはそんなに離れていない。
今から追いかけれはきっと間に合う!
わたしはダンジョンマップをカバンの中にしまい込んだ。
「なあ嬢ちゃん」
そんなわたしに、グランドさんが声をかけてきた。
「アンタもしかして、ダリヤから推薦状をもらうとか考えてる?」
「はい、お願いしてみるつもりです!」
わたしの返事を聞いたグランドさんは、困ったように顔をしかめてみせる。
「あー、その、なんだ。アイツは難しいと思うぜ」
「なんでですか?」
「誤解するなよ? 悪い奴じゃない……それに冒険者としての腕前も一流だ。だけどよ……」
「だけど?」
「ダリヤの人付き合いの悪さはこの界隈では有名でな。ヤツは他の冒険者とつるまない。どんな高難易度のダンジョンでも平気で
「孤高の凄腕冒険者ってことですよね? 尊敬します!」
「孤高っつーか、マイペースっつーか……ホントは俺も……アイツにはちゃんとパーティーを組んで欲しいんだけどよ……」
グランドさんがぼやくように続ける。
「ったく……せめてセイバーなんてやめちまえば、もう少し人づてだってあるによ……」
「え……?」
わたしは彼の台詞が気になったので、質問してみることにした。
「グランドさん……セイバーをやめれば人づてがあるって、どういう意味ですか?」
「ああ? どうって言葉通りの意味よ。セイバーは、冒険者の中でも何かと後ろ指刺されがちな存在だからよ」
「え? なんでです?」
グランドさんの言葉に、わたしは首をかしげる。
「だってセイバーさんは、ダンジョンの奥深くで傷つき倒れた冒険者を助けてくれる人たちですよね。感謝されることはあっても、後ろ指刺されることなんてないと思うんですけど……」
わたしがそう疑問の声を投げかけると、グランドさんはあきれたように、大げさなため息をついた。
「嬢ちゃん、ホント冒険者について、なンにも知らねえんだな……」
「そりゃまあ、まだ冒険者じゃないですからね」
紹介状とか細かいことグチグチ言ってくるせいでね、とイヤミが喉元まで出かかる。
だけども、わたしはゴクンとそれを飲み込んで、グランドさんの続きの言葉を待った。
「セイバーの役割は、ダンジョンの中で戦闘不能になった冒険者を回収することだよな?」
「ほら立派な仕事じゃないですか! ダンジョンの中で、自分の身を危険に晒してまで誰かを――」
「嬢ちゃん、人の話は最後まで聞きなよ」
グランドさんは、前のめりになるわたしを手で制しつつ、言葉を続ける。
「いいか? 奴らは別に慈善事業をやってるわけじゃねえ。回収した冒険者からは、キッチリ回収料を取ってる。相場は所持金の半分。中にはそれ以上の、法外な料金をふっかける輩もいる」
「そ、それは……でも、お金を取るのは当たり前じゃないですか。冒険者稼業は危険がいっぱいなんですし。そもそも命はお金に変えられません!」
「嬢ちゃんの意見に俺も同感だよ」
わたしが口を尖らせてそういうと、グランドさんは苦笑いしながら頷いた。
「だけどなぁ、世間には少なからずいるのよ。人を助けるという行為に対して、心清らかで私欲がなく、無償の奉仕を求めようとしてくる連中が。だけどもセイバーの実態は、あくまでも冒険稼業の一つでしかない。そんな清廉潔白なイメージからは、ちょっとばかしずれたモンなのさ」
「でも、だからといって……」
グランドさんの話したことの意味は、分からないでもなかった。
それでも、命を助ける立派なお仕事に就く人たちが、そんなイメージだけで後ろ指までさされてしまうことには、やっぱり納得がいかない。
グランドさんは、わたしの表情から、そんな気持ちを読み取ったかのように言葉を続けた。
「それだけじゃねえ。もう一つ、現実問題として、タチの悪いセイバーも存在する」
「タチの悪いセイバー?」
「セイバーが回収する冒険者ってのは、当然だけど助かる見込みがあるヤツらだけだ。そいつらを教会まで連れて行って蘇生をするんだよ」
「ふむふむ……」
「だけどな? 裏を返せば当然、発見時点でもう助かる見込みもない冒険者だっているよな?」
「そりゃ、まあ……」
「そのときは、セイバーだっていちいち亡骸を回収しねえ。装備品やら持ち物だけ回収してそれでしまいだ。戦闘不能になった冒険者は、身ぐるみ剥がされても仕方ない。それは冒険者の暗黙の了解だからな」
「……」
「なあ、わかるか? 冒険者を助ければ、その所持金の半分が手に入る……かもしれない。だけど、助からない場合は、ほぼ確実に総取りだ」
グランドさんはそこまで言って言葉を区切り、ジロリとわたしをにらむ。
「……となると、悪いヤツはどういう発想になると思う?」
わたしはグランドさんの問いを受けてちょっとだけ考え込む。
それから、ゆっくりと、恐る恐る、答えた。
「助かる冒険者のことも……見捨てる?」
グランドさんは腕組してうなずいた。
「見捨てるだけなら、まだかわいいもんだ。中には自分から積極的に冒険者を襲う奴らだっている」
「そんな……」
「つまり、セイバーを稼業として見た場合、そんなジレンマがどうしたってつきまとう」
グランドさんはそう言って言葉を区切ると、わたしの目を見てこう続けた。
「だから、奴らはこう蔑まれる――ダンジョンに巣食う、死体あさり……
――――――――――――
ステータス
――――――――――――
ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)
性別/女
称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者、他力本願
好き/クー、食べもの全般、お風呂
嫌い/虫
スキル/《ゴミ》
効果:ゴミをリサイクルする能力
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