第15話 親の顔よりみたチンピラ冒険者
「おーい、チビちゃんよう――」
チンピラ冒険者二人組は肩を揺らしながらわたしに近づいてくる。
うち一人は皮の鎧を着込んだ戦士風の風貌。
もう一方はボロボロのローブを羽織った魔術師風の風貌だ。
「わたしに何か御用ですか?」
「テメェみたいなガキが冒険者になりたいとかさぁ。オレら冒険者を舐めてる? ねえ、舐めてるっしょ?」
チンピラ戦士が顔を近づけ、凄んでくる。
酒の臭いが口元からプーンと漂ってきて、わたしは思わず顔をしかめた。
どうやらわたしはコイツらに絡まれてしまっているらしい。
チンピラ冒険者に絡まれる。
異世界転生モノでは親の顔より見たテンプレ展開。
わたしの身にも降りかかるなんて。
妙に感慨深いものがある。
「……べつにナメてませんよ。わたし忙しいので」
とはいえ今のわたしにこの人たちの相手をしているヒマはない。
さっさとこの場を切り上げようと、チンピラ戦士の脇を通り抜けようとした……のだが。
「まーてよ」
チンピラ魔術師が通せんぼするようにわたしの前に立ち塞がった。
「なんですか」
「テメェみてえな身の程知らずのガキがいるとよぉ、オレら冒険者全体の格が落ちるンだわ」
「そーそー。そーゆーワケで、冒険者をナメてるガキにはオレらがキチンと教育してやらねえとなぁ?」
チンピラ戦士が後ろからわたしの肩を馴れ馴れしくつかんできた。
この二人はどうあってもわたしに因縁をふっかけたいらしい。
「この手、はなしてくれます?」
「チビちゃん、オレら冒険者を舐めてっとケガするぜえ?」
「つーわけで、とりあえず教育代として有り金全部出しな!」
チンピラ特有の超理論で、金をせびり出すチンピラ冒険者たち。
わたしは肩にかけられた手を振りほどこうとする。
しかし、男の力は強く……ビクともしない。
こんなとき、自分の非力がイヤになる。
こんなヤツら簡単にあしらえるような力があればいいのに。
というかこんなヤツらにいいようにされているようじゃ、仮に冒険者になったとしても、それこそグランドさんが忠告してくれたとおり、すぐにのたれ死ぬのがオチだ。
わたしは自分の置かれている状況を冷静に整理する。
VSチンピラ冒険者。
2対1。
力では敵わない。
スキル《ゴミ》も、この状況ではたぶん役に立たない。
逃げ道となる冒険者ギルドの出口は、チンピラ魔術師がとおせんぼしている。
この状況でわたしができることは……
思いついた。
とっておきの作戦である。
「――さっきからアナタたちは冒険者の格がどうのこうの言っていますケド……」
わたしはチンピラ戦士をまっすぐ見据えて口火を切る。
「こうやって自分より弱そうな人を見つけて、因縁をふっかけてお金をせびる……アナタたちのとっている行動の方が、よっぽど冒険者の格を落としていると思いません?」
「……ああ?」
チンピラ戦士は面食らったような顔をする。
だけどそれも一瞬。
「このガキぃ……つけ上がりやがって」
チンピラ戦士が怒りの表情を浮かべて胸ぐらを掴んできた。
わたしの体はそのまま男に持ち上げられる。
「そんなに痛い目にあいてーの?」
「相手に正論をつかれたから、今度は暴力です? それってわたしの意見が図星だって認めているようなものですよね。せめてもうちょっと口で言い返してからにしたらどうですか?」
「……! マジで痛い目みたいようだなぁ……!?」
チンピラ戦士はますます逆上していく。
顔色がタコのように真っ赤になってしまった。
男の拳がギュッと握られて、丸太のような二の腕が隆起して血管が浮かび上がる。
さて、この一触即発の状況でなぜわたしはチンピラを煽るようなことばかり言っているのか?
もちろんこれはヤケになったわけではなく、わたしが立てたクレバーな作戦の一環である。
わたしは自分の思惑どおりに事が進んでいることを確認して、ニヤリとほくそ笑む。
それではわたしが立てた作戦を発表しましょう。
ズバリ、可愛い女の子がチンピラに襲われてるよ誰かいい人助けて作戦!
THE☆他力本願――これである!
だって考えてみて?
冒険者ギルドには大勢の冒険者たちがいる。
当然その中には、まっとうな倫理観を持った人だっている。
か弱い女の子が、北斗の拳に出てくるモヒカンみたいなならずものに因縁つけられているなら、助けてくれる正義の味方が現れるはず。
だってそれがお約束ってやつだよね?
わたしがチンピラを煽りに煽ったのは、チンピラを逆上させて彼らの悪行を周囲に悪目立ちさせるため。
イマージェンシーコールを、正義の冒険者に届けるためだ。
お約束には、お約束で対抗する。
あとはわたしはただ叫べばいい。
「きゃー! 誰か助けてください!」
これで正義の味方が助けにきてくれる。
わたしの頭脳プレーが炸裂!
これは勝ったな!
いや、勝ちましたわ!
わたしは心の中で高笑いだ。
さあ! 早く助けに来てダーリンダーリン!
このザコ丸出しのチンピラをボコボコにして!
……ということで、わたしは期待を込めて周囲を見回すのだが。
……あれ?
おかしい。
わたしの予想とは裏腹に、だれも助けに入ってこない。
ある者は野次馬よろしく興味津々に。
またある者はオロオロとうろたえながら。
みんな、遠巻きに眺めているだけだ。
予想外の状況に焦るわたし。
「た、たすけてくださーい! チンピラ冒険者に襲われていまーす!」
ダメもとでもう一度叫んでみるが、やっぱり誰も助けに入ってこない。
え、ちょっと皆、薄情じゃない!?
冒険者がダメならギルドの職員さんでも……!
すがる様な思いでさっきまで筋肉マッチョのグラントさんがいた受付カウンターの方へ視線を向ける。
だけどグラントさんはどこかへ移動してしまったのか、カウンターには誰もいなかった。
おいコラ、グラント!
肝心な時にいないって、何のための筋肉だよ……!
こ、これはヤバい……!
わたしは完全に当てを失ってしまった。
そんなわたしの面前に、チンピラのイカつい顔が迫ってくる。
ちょっ、くさッ!
口クサッ!
「クソガキよう……あんまりオレらを舐めてんじゃねえぞ?」
「あ、いや、その……ええと……不快にさせたら謝ります。だから落ち着いて話し合いましょう」
「はねっかえりのテメェに一個だけ、ここでの重要なルールを教えてやる。オレたち冒険者は、舐められたらオシマイだ。だからお前みたいなガキでも、舐めてくるヤツは絶対に許さねえ……」
そういってチンピラ戦士は拳を振り上げた。
殴られる……!
この状況を挽回する方法は……!?
やばい! 思いつかない!
「話せばわかりますッ!」
なす術を失ったわたしは思わずギュッと目をつぶった。
そのとき――
「ジャマ」
「ぐぎゃっ!」
チンピラ戦士の背後から、澄んだ声が響く。
同時にカエルを潰した様な、男のうめき声が聞こえた。
(――!? なになに? どうしたの?)
恐るおそる目を開けると、ギルドの入り口で通せんぼしていたチンピラ魔術師が、床に転がって悶絶している姿があった。
そして扉の向こう側。
黒いローブをまとった、一人の女の子が立っていた。
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ステータス
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ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)
性別/女
称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者、他力本願←new
好き/クー、食べもの全般、お風呂
嫌い/虫
スキル/《ゴミ》
効果:ゴミをリサイクルする能力
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