第14話 親の顔より見た冒険者ギルド


 

「一緒にダンジョンを潜る仲間を見つける!」

 


 そんな新たなオーダーを胸に、ゴッズさんのお店を後にしてから、わたしが向かった先は……もちろん冒険者ギルド!


 ゴッズさんからダンジョンに潜るために仲間を募れと言われた瞬間、わたしはピンときたよ。

 あ、これ冒険者ギルドに行く流れだって。


 だってそうでしょ?

 

 スキル、冒険者、ダンジョンにモンスター……

 そんなに転生したのだから、これはもう行き着く先は冒険者ギルドだ。


 これはゲームやラノベで揺らぐことのない定番の設定。

 異世界に転生した主人公は、猫も杓子も冒険者ギルドのお世話になるのだ。


 どうせこの世界でも冒険者ギルドでクエストの受付やらパーティーの仲介やら、なんかそういうの色々やってるんでしょ?

 わたしはちゃーんと知ってるんだから!


 というわけで。


「たのもー!!!」


 わたしはリーフダムの中央地区の一画にある冒険者ギルドへと乗り込んだ。

 

 ちゃちゃっと冒険者登録をして、なんかいい感じの冒険者パーティーにお邪魔させてもらおう!

 

 

 そう軽ーく考えていた……のだが。



「あ? 冒険者になりたい? おチビちゃんが……?」

「イエス!」

「……おチビちゃん、年齢は?」

「ピチピチの14歳です!」

「それじゃダメだ。未成年15歳未満が冒険者としてギルドに登録したかったら保護者の同意が必要だ」

「は? ほごしゃ?」



 意気揚々と乗り込んだ冒険者ギルドの受付カウンターで、ツルピカ頭に眼帯をした筋肉マッチョおじさんがいきなり出鼻をくじいてきた。

 


 未成年が冒険者になるためには親の同意が必要!?

 そんな理不尽なはなしってある!?


 ……


 いや、普通かな?


 とにかく、実家と縁が切れてしまったわたしには、保護者の同意というのはかなり痛い条件である。


「おじさん……わたし、こう見えても天涯孤独で……もうパパもママもいないの……」


 わたしは泣き落とし作戦に出てみることにした。


「わたし、一人で生きていくためには冒険者になるしかなくて……うるうる……」


 精一杯、泣きマネもしてみる。


「悪いがこりゃあルールだ」


 だけど、おじさんは取り付く島もない。


「ま……そんな恨めしい目で見つめなさんな。このルールはおチビちゃんみたいなのを危険から守るためのルールでもあるんだぜ?」


 筋肉マッチョのおじさんは、少しだけバツの悪そうな表情で語る。


「冒険者ってのはな、自由気ままでお気楽な仕事に見えるかもしれねえが、実際は常に危険が伴う仕事だぜ。オレのこの目を見なよ――」


 おじさんはそう言って自分の眼帯を指差した。


「ダンジョンでモンスターにやられたんだ。片目を無くすくらいですめば安いもんよ。……アレを見てみな」


 次におじさんはアゴでしゃくって、カウンターの奥に設置された、大きな石板を指した。


「……あれはなんです?」

運命の石板フェイト・タブレット


 聞き慣れないその単語に、わたしは小首をかしげる。


「ギルドに登録した冒険者がダンジョンの中で全滅ロストした場合……あの石板にその顛末ログが記録される」

「えっ……」


 おじさんの言葉を受けてわたしは思わず言葉を失う。

 そして石板の盤面に目を走らせた。

 

 おじさんの言うとおりに、石板には、日時、冒険者の名前、ダンジョン、そして戦闘不能ロスト理由が、一覧として表示されていた。

 

 その最新情報は……つい一時間前のものだった。

 わたしはゴクリと息を呑む。


「……分かったろ? 世の中にゃあ、ダンジョンに潜ったきり、帰らねえ冒険者なんて掃いて捨てるほどいるんだ。モンスターにやられたか……トラップにハマったか……、アンタもそうなりたくはねえだろう? 悪いことは言わねえから冒険者になりたいなんて、軽々しく考えるのはよしときなよ」


 筋肉マッチョおじさんは、ワガママをいう子どもをなだめるみたいに諭してくる。

 わたしは石板からおじさんに視線を戻した。


 胸元の名札には、グラントという名前が書いてある。


 グラントさん……

 この人はきっと悪い人じゃない。

 わたしのことを心配してくれて、こう言ってくれてるんだ。

 そのことがグラントさんの眼差しから、ヒシヒシと伝わってきた。


 わたしはグランドさんを、信頼できる大人グループにカテゴライズした。


 だけどグラントさん。

 ひとつだけ、わたしのことを誤解しているよ。


「軽々しくなんて考えてません……」


 わたしはグラントさんに向かって反論する。


「わたしはこの街に来てからずっと、自分の力で生きていく方法を真剣に考えてました。そのうえで……リスクも全部承知で、冒険者として生きていくって自分で決めてここに来たんです」


 わたしは必死になって訴える。

 カウンターにおでこがひっつくくらいに深く頭を下げた。


「だからお願いします! わたしは冒険者としてこの街で生きていきたい! なんとかギルドに登録する方法はありませんか!?」


 しばらく沈黙。

 そしてわたしの頭上にグラントさんの深いため息が降ってくる。

 わたしはゆっくり顔を上げた。


「……身内がいない場合は、身元保証人の同意に変えられる。ただ、この場合は保証人がすでに冒険者登録していることが条件だ」

「身元保証人……?」

「カンタンに言うと、他の冒険者から推薦をもらえってことだ」


 グラントさんはそう言ってカウンターの引き出しから一枚の紙を取り出してわたしに手渡した。


「これが推薦書だ。アンタが本気で冒険者になりたいというなら、誰か他の冒険者から推薦をもらってきな。ハナシはそれからだ」

「ありがとうございます……! 絶対にコレをもらってきます」


 真っ暗やみの状況の中に、なんとか一筋の光が差しこんだ。

 わたしは推薦状をバッグにしまい込んで、冒険者ギルドから出て行こうとした……そのとき。

 


「――お前みたいなチビが推薦状なんかもらえるワケねーだろ」



 そんな声が聞こえてきた。

 声の方へ目を向けると、ガラの悪そうな男たちが二人、ニヤニヤとうすら笑みを浮かべながら立っている。

 男たちと目が合ってしまった。





――――――――――――

 ステータス

――――――――――――

ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)

性別/女

称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者

好き/クー、食べもの全般、お風呂

嫌い/虫

スキル/《ゴミ》

効果:ゴミをリサイクルする能力

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