第13話 街がダメならダンジョンで拾え!


 リーフダム中のゴミ捨て場にカギがかけられてしまった。

 これすなわちリーフダムでゴミ拾いができなくなってしまったということだ。

 

 わたしのスキル《ゴミ》を発動するためには、言わずもがな元手となるゴミが必要。

 それが確保できないということはこれはもう本当に死活問題。

 わたしはリーフダムでお金を稼ぐ手段を失ってしまうことになる。


 このままではホームレスからの卒業はおろか、生活そのものが立ちいかなくなる。

 なんとか解決策を見つけないといけない。

 だけど自分一人では全然思いつきそうもない。


 ということで。

 

「いらっしゃ――どうした嬢ちゃん、世界が終わっちまったような顔をして」

「よよよ……、ゴッズさ〜ん……相談に乗ってください〜……」


 わたしはゴッズさんに相談することにした。

 この街で頼りにできる大人は、今のところゴッズさんただ一人。

 ゴッズさんのお店に到着するなり、わたしは経緯を説明した。


「かくかくしかじか……というわけで、このままじゃゴミ拾いができないんです。そうなると治したアイテムを売ることもできなくて……」

「なるほど……あれだけ大量のアイテム、アンタみたいなちんちくりんが、毎日毎日どうやって調達しているのか不思議には思っていたんだが……嬢ちゃん、中々面白いスキルを持っているんだな」

 

「でもいくらスキルが使えても、元手となるゴミがなくちゃダメなんです! ゴッズさん、ゴミを拾えそうな場所に心当たりはありませんか?」

「うーむ、ゴミが拾える場所ねえ……」


 わたしの説明を聞き終えたゴッズさんは、何やら思案するように腕を組んで考え始めた。

 わたしは祈るような気持ちでゴッズさんの言葉を待つ。

 そして……


 

「ダンジョンだな……」

 


 ゴッズさんはポツリとそのフレーズを呟いた。


「ダンジョン……ですか?」


 わたしが問い返すと、ゴッズさんは自分の背にある棚から何やら地図を取り出して、カウンターの上に広げた。


「こりゃあリーフダム周辺の地図だ。こっちが北、ミュルグレス領の方角だな。見てみろ――」


 ゴッズさんは地図のあちこちに記された丸印を指差す。


「この印ってなんです?」

「この街の周辺にあるダンジョンだ」

「へぇ、こんなにいっぱいあるんですね!」

「……もともとこのリーフダムの成り立ちは周辺のダンジョンの脅威に対する前線基地としてだった。それが各地からダンジョンで一攫千金を夢みる冒険者が集まっていって、少しずつ街として形成されて……おっとこりゃあ関係ない話か」


 ゴッズさんは「それでだ」と前置きして話を元に戻す。


「ダンジョンの中はゴミであふれている」

「え、そうなんですか?」

「考えてもみろ。有名なダンジョンには一日何十人もの冒険者が潜るんだ。ヤツらが使ったポーションやらエーテルやらのアイテムの数々……嬢ちゃんはどうなると思う?」

「そりゃあキチンと家に持ち帰って、分別してゴミ捨て場に……」

「ふん、嬢ちゃんはずいぶんとお行儀がいいんだな」


 ゴッズさんは笑いながら首を横に振る。


「生憎、冒険者には使い終わったアイテムを持ち帰る余裕なんてない。連中、大抵はその辺にポイ捨てさ。それに……」

「それに?」

「あっ……」

「ダンジョンに潜って、そのまま探索不能ロストになった冒険者は数知れない。連中はその後、運良く救い手セイバーに回収でもされない限り、そのまま野晒しよ。体はそのうち朽ちて無くなるだろうが、身につけていた装備はそのままだ」


 ゴッズさんの話を聞いて、他ならぬわたし自身がダンジョンの奥地で巨大なモンスターに襲われたことを思い出す。

 ぶるっと背筋に寒気が走った。


「というわけでダンジョンの中はゴミで溢れている。確かギルドの連中も、ダンジョンでの清掃活動に対して報奨金を出してたはずだ。街中以外でゴミを拾える場所となると、ワシが思いつくのはそこくらいだな」


 ゴッズさんからの説明を聞き終えたわたしは、改めて地図の印に目を向ける。


 リーフダム周辺に広がるダンジョン。

 その中でゴミ拾いをする。

 直感でわかる。

 これはメチャクチャ危険な仕事だ。

 

 わたしの目の前に示された選択肢は二つに一つ。


 やるか。

 やらないか。


「ゴッズさん……ひとつ相談があるんですがいいですか?」

「いってみな」

「この地図……売ってもらうことってできます?」

「……行くのか」

「はい。そうしないと、わたしはここで生きていけませんから」


 ゴッズさんはわたしの目を見て、「そうか」と一言だけうなずく。

 そして地図を丸めて筒状にしてわたしに手渡した。

 

「持ってけ、嬢ちゃん」

「ありがとうございます! ……ちなみにおいくらです?」

「こんなボロい地図に、カネなんていらねえよ。それにアンタはお得意様だからな。ワシからの選別だ」

「……! ありがとうございます!」


 ゴッズさんの好意を受けて、わたしは地図をありがたく受け取る。

 

「嬢ちゃん、ダンジョンに潜るなら一つ忠告しておく」

「なんです?」

「ダンジョンに潜る時は必ず。絶対に一人で行くな」

「……仲間を、作る」


 ゴッズさんの言葉を反芻する。

 それからこくりとうなずいた。


「……わかりました。肝に銘じておきます。何からなにまでありがとうございますゴッズさん」

「ワシがけしかけたせいで、嬢ちゃんに何かあったら流石に寝覚めが悪い。気をつけろよ」

「はい! もちろんです!」


  ゴッズさんはわたしに進むべき道を示してくれた。

 本当にこの人には感謝をしてもしきれない。


 わたしはもう一度ゴッズさんに向かって深々とお辞儀をしてから、お店を後にした。




――――――――――――

 ステータス

――――――――――――

ミユル(本名:フレデリカ・ミュルグレイス)

性別/女

称号/ゴミ令嬢、ソロ討伐者、ホームレス、不審者

好き/クー、食べもの全般、お風呂

嫌い/虫

スキル/《ゴミ》

効果:ゴミをリサイクルする能力

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