第4話 わたしにはスパダリがいました!


 わたしがゴミスキルを授かってから、あっという間に二年が経過。

 ある日、突然お父さんがわたしを呼び出した。


 お父さんとまともに顔を合わせて話すのは星辰の儀ステラ・ライツ以来だった。

 お父さんは会うなり単刀直入、わたしに用件を伝えてきた。


「フレデリカ。お前に来客だ。今から私と一緒に屋敷の応接室にくるように」


(来客? わたしに? 一体誰だろう?)


 父の言葉にわたしは首をかしげる。

 なにせこの一年は夜会での社交はおろかお屋敷の外にも出る機会もなかった。

 ぶっちゃけ軟禁状態といっていい。

 そんなわたしのもとに訪ねてくれる人……まったく心当たりがなかった。


 わたしは不安になりつつも、お父さんの後について応接室へと向かう。

 そこには一人の青年の姿があった。

 金髪碧眼のイケメンである。

 歳はわたしより少し歳上。

 わたしはその青年を知っていた。


「フェザリス、さま……!」

「やあ、久しぶりだね。フレデリカ」


 青年は天使のような笑顔でわたしに微笑みかける。

 

 イケメンの名前はフェザリス・モールドレッド。

 モールドレッド公爵家の長男にして、わたしの婚約者だった。

 

 モールドレッド公爵家は、この国ではわたしの家・ミュルグレイス家に勝るとも劣らないほどの権力を誇る大貴族だ。

 その二大公爵家の子息と令嬢が婚約することは、両家の力関係を考えてもごく自然な流れだった。


 婚約自体はわたしが五歳、フェザリス様が九歳のときに結ばれた。それ以降、わたしは年に数回、フェザリス様と顔を会わせていたのだけど……


 わたしがゴミスキルを授かってから、会うのは今日が初めてだった。


「フェザリスさま……どうしてここに……?」

「どうしてって、君はこの一年間、社交界から完全に姿を消していたから。君の身に何かあったんじゃないかとずっと心配していたんだよ」


 フェザリス様はそう言ってわたしの顔をじっと見つめる。


「わたしなんかを心配してくれたんですか……」

「当たり前じゃないか。だって僕は君の婚約者なんだからね。すまない、辺境領地への遠征がなければすぐにでも君の元に駆けつけたかったんだけれど」

「でも……わたしは……」


 言葉が詰まる。

 もしかしてフェザリス様はわたしのゴミスキルのことをまだ知らないのだろうか。

 

(だとしたら辛いな。すごく辛いな)


 だってそのことを知られたら、きっとこの優しい眼差しも、一瞬でゴミを見る目に変わってしまうから。


「フレデリカ。君が授かったスキルのことは、お父上から聞いたよ」


 まるでわたしの不安を見透かしたかのように、フェザリス様はわたしのスキルについて語ってきた。


(ああ、やっぱり知っていたんだ……)

 

 わたしは思わず目を伏せる。

 それからグッと唇を噛んだ。

 これから降りかかるであろう悲しみから、せめて自分の心だけは守りたかった。


「フレデリカ、今日まで辛かったね」

 

「え?」

 

 だけどフェザリス様がかけてくれたのは完全に予想外の言葉だった。

 顔を上げる。

 視線の先でフェザリス様は優しげに微笑んでいた。


「スキル……? そんなものが一体なんだっていうんだい」


 そう言ってフェザリス様はわたしの手をとる。


「たとえ君がどんなスキルを授かろうとも、君は君だ。僕の婚約者、フレデリカ・ミュルグレイス。そのことは何も変わらないよ」

「フェザリス……さま……」


 なんというイケメン力。

 イケメンは心もイケメンなんだ。


 思わず目の奥がつんとなる。

 フェザリス様はわたしがずっとずっと欲しかった言葉をかけてくれた。


「それにまだ諦めることはないよ」

「ふぇ……?」


 フェザリス様は微笑みを浮かべながら言葉をつなぐ。


「今日、僕が君のもとを訪れたのは、きみのゴミスキルについて手助けできると思ったからなんだ」

「え? 手助け? わたしのゴミスキルを……?」

「とりあえず、今から出かけよう。僕についてきてくれないか。大丈夫、君の父上の了解はすでにとってあるから」


 フェザリス様はそう言ってわたしの手を引きながら歩きだす。


「え……? え……!? フェザリスさま……! そ、それってどういうことですか?」

「いいからいいから。僕を信じてついてきてくれ。さあ行こう!」


 戸惑うわたしを余所に、フェザリス様は楽しげに笑う。

 わたしは不安を抱きながらも、半分流される形で彼と共に屋敷を出たのだった。



 ***

 

 

「着いたよ、フレデリカ」


 お屋敷を出発してはや数時間。

 わたしとフェザリス様を乗せた馬車は目的地に到着したようだ。


 フェザリス様のエスコートを受けながらわたしは馬車から降りる。


「ここは……遺跡、ですか?」


 馬車を降り立ったわたしの目の前には、つたに覆われた古い遺跡がそびえ立っていた。


「ここは《ロロ・ノヴァの遺跡》といってね。この辺では一番大規模なダンジョンだ」

「へ? ダンジョン……!?」


 わたしは目を見開いて振り返る。


 迷宮ダンジョン


 この世界では、マナ……つまり魔力が溜まって循環しているスポットのことを指す。

 

 森や洞窟といった自然地形であったり遺跡や神殿といった人工物などその形状はいろいろだけど、ダンジョンには共通して言えることがある。

 

 

 迷宮ダンジョンには、魔物モンスターが潜む。

 


 魔物とはダンジョンの内部のみで生息する生物を総称したもので、基本的に人間を襲ったり殺したりする本能を持つ。


 だからダンジョンの内部は危険極まりなく、戦う術を持たない者が迷い込んでしまった場合、その先に待つのは悲惨な死だけ。


(いやいや! 正体不明のゴミスキル持ちのわたしなんかがダンジョンに入ったら、10秒でミンチになる未来しかみえないんですけど!?)


 わたしの背筋がぞくぞくっと寒くなった。


「それじゃあ、フレデリカ。僕についてきてくれるかい?」


 そんなわたしの不安なんてつゆ知らずにフェザリス様は遺跡の入口に向かって歩き出す。

 わたしは慌てて呼び止めた。


「ちょ、ちょっと待ってください! フェザリスさま! ダンジョンの中は危険です! 護衛の冒険者もつけずに中に入るなんてマズイですよ……!」


 わたしの制止の言葉を受けて、フェザリス様は振り返ってニヤリと笑いかけてきた。


「大丈夫。があれば、魔物が束になってかかってきたところで敵じゃないよ」


 そう言った次の瞬間、フェザリス様の全身が淡い光に包まれた。

 光は全身から右手へと集約して、やがて一振りの剣の形へと変わっていく。

 フェザリス様は手にしたそれを流れるような剣さばきで振り抜いた。

 


「スキルで生み出した僕の愛剣――《キャリバーン》。安心してフレデリカ、僕とキャリバーンが君を守るから」




――――――――――――

 ステータス

――――――――――――

フレデリカ・ミュルグレイス

 性別/女

 称号/ゴミ令嬢

 好き/クー、甘いモノ、フェザリス様←new

 嫌い/虫

 スキル/ゴミ《効果》不明

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