第11話 プリンと雌メイド


 SIDE ノア



 サトシ様に鬼蛇というパーティーを作っていただいた。

 サトシ様は私とコリーナを想ってそのパーティ名にしてくれて、ずっと心臓がどくどくとうるさいほど高鳴っている。


 嬉しくてしょうがない。



 森に入ると全てのテイムされた魔物達が集合していた。



「お前たちが得た魔素はサトシ様に一部が届けられるようになった。

 自分達で考え、工夫して少しでも多くの魔素をサトシ様に届けられるようにしろ。」



 この魔物達も自分達がサトシ様に役に立つことが分かり嬉しいのだろう、

 足踏みをして応えてくれている。



「サトシ様にテイムしてほしい魔物がいる場合は夕方ここに連れてこい。

 その魔物はそのパーティの戦力として補充する。

 各パーティーには一つづつ変化の指輪と昨日の売り上げを分けておく、その金で装備品や狩りに必要な道具を買ってこい。

 ただし、女や食料は買ったらだめだ。戦力を上げる物だけに限る。

 街では決して暴れるなよ。サトシ様を困らせることになるからな。」



 そう言って、8パーティそれぞれに指輪と1000シーロI(10万円相当)を渡す。


 各パーティにはオーガ2体、ラミア2体あと騎乗用狼と虎、オーク、ゴブリンが同じくらいの数がいる。


 オーガ2体は話し合ってどうするか決めているようだ。

 私はそのままキティタイガーに騎乗して森を駆け抜けた。


 時々出くわす魔物の横をすり抜けながら相手に反応させないまま葬っていく。

 森の中をドシンドシンと歩く音が聞こえる。

 1つ目巨人のギガンテスだ。



「丁度いい。試させてもらおう。」



 キティタイガーを降りてギガンテスに向き合う。


 4mはあるだろうギガンテスもこちらに気がついたようで、近くの木を掴むとミシミシと音を立てて引っこ抜き、そのまま棍棒として振り回し始めた。


 ギガンテスの動きをよく見て丸太の軌道を読む。

 私にあたる瞬間に腕で丸太を受け止めた。


 丸太による衝撃が体を走ったが丸太は私の腕で折れてしまった。


 鬼人に進化した時に習得した〝硬質化〟だ。


 一瞬だけだが体の一部分を硬くすることができる。



「サトシ様にいただいたスキル……」



 思わず口角が上がってしまう。


 大剣を収納の指輪から出し、動揺するギガンテスの足と手の腱を切って動けなくし、ジャイアントスパイダーの糸で縛り上げる。


 サトシ様にテイムしていただくために、キティタイガーに繋いで地面を引き摺って街に戻った。



    ▽



 昼食はアデルのところへ行き、交尾を済ませた後、書物を読む。

 今日は〝異世界の料理〟という本だ。


 サトシ様が拠点を構えられたため、役立つに違いない。



「ノア様、料理作られるのですか。」


「ああ、キッチンを使わせてもらっていいか?」


「はい、いいですよ。」



 私の背中にもたれかかっていたアデルは慌てて服を着て、準備を始めた。


 この料理の本を書いたのはどこか辺境から現れたタナカという人間からレシピを教えてもらい、書き綴ったものだと書いてあった。


 アデルの家に在庫のあった食材で作れるものを探す。

 アデルの家のキッチンは広く、ほとんどの食材が揃えられていた。



「ノア様、できましたら甘い料理がいいですわ。」


「甘い料理だと、砂糖を使った料理になるな。」



 本の中で簡単でおすすめと書いてあったプリンという食べ物を作ることにした。

 卵と牛乳と砂糖のみで作れるらしい。

 砂糖を焦がしたり、卵の黄身だけを混ぜたり蒸したりして10分ほどで出来上がった。



「本当は氷魔法で冷やすといいと書いてあるが私は氷魔法などつかえないからな……」


「ノア様、私、氷魔法つかえますわ。」


「なに……」



 アデルはいつになく得意げに体を密着して上目遣いで私の方を見てきた。

 アデルに氷を出してもらい、器のプリンを冷やす。


 プリンを待つ間、得意げになったアデルが私の膝の上に乗り、使える魔法のことを話してくれた。


 アデルは火水風土の四系統が使えない代わりに氷雷木の特殊魔法が使えるらしい。


 30分ほどアデルに弄ばれながら待った後、プリンを試食してみる。



「お、おいしいですわ!」



 アデルが絶賛するのもわかる。

 甘いものを食べたことのない私でもわかる。

 これはおいしい。


 他にもシチューというものや茶わん蒸し、クッキーと言うものを作ってみた。




    ▽



「こ……これはシチューじゃないか!」



 驚いたことにサトシ様は私の料理を知っていたようで、とても驚き、あっという間に平らげてしまった。



「どうしてノア、シチューが作れるの?」


「はっ、今日読んだ書物にそのレシピが載っていたため実践してみました。お口に合いましたでしょうか。」


「うん、僕の故郷というのか……とても懐かしい味がした。他にも何か作れるの?」


「はっ、デザートとしてこちらも作ってまいりました。」


「プ、プリンじゃないかー!」



 サトシ様にとても喜んでいただき、プリンを3つも平らげていただいた。

 コリーナとオクトーが恨めしそうに涎を垂らしながらこちらを見ているがサトシ様以外に食べさせてやる義理はない。



    ▽



 次の日の朝、サトウ様の拠点にテイムしていただいた、ラミアやゴブリン、オーガの雌を集めてきた。



「ここが今日からお前たちのサトシ様にご奉仕できる場所となる。

 料理や掃除、気に入っていただければ夜のお相手をさせてもらうこともある。」



 どうも私には雌の好みがサトシ様とは違うらしいのでコリーナに選定をしてもらい、30匹ほどいた魔物から5匹を選んだ。



「えっと、この魔物達大丈夫なんですか?」


「あぁ、サトシ様にテイムされているから危害を加えられることはない。安心して教えてくれ。」


 私も経験がないため、冒険者へ依頼して作法、料理、掃除を教えてもらえるようにした。


 私も人との接し方、作法などを学ぶことにした。

 サトシ様に仕えるからには必須のスキルだ。



 お辞儀の仕方、言葉の使い方、相手への誠意の現し方、お茶の出し方、家の管理方法など、多岐にわたる。


 それにしてもこのメイド冒険者はやたらとボディタッチが多い。



「あの……よければ夜も個人レッスンしたいのですが……」


「あぁ、是非頼む。いろいろと学ぶことは多いからな。」



 随分と教育熱心のようだ。




 その日は雌メイド達とメイド冒険者、コリーナで服屋に行くことにした。



「あっ、ノア様……。」


「今日は、こいつらのメイド服をお願いしたい。」


「はっ、はい。」



 コリーナは5匹の服のデザインを服屋の雌と相談し、5人の雌メイド達をテキパキと採寸していった。



「3日で出来上がりますのでまた、おいでください。」


「わかった。」



 店から出ようとすると服屋の雌が私の服をひっぱった。



「あの……もう来ていただけないのでしょうか。」


「用があったら、また行く。」


「そうですか……」



 とりあえずは用はないから仕方がない。



 街道を歩いていると見かけたことのある雌を見つけた。



「少し用ができた。

 先帰っていてくれ。」



 私はそう言い、その雌のところへ駆けた。



「ひっ、もうお金無いの。許してください……」



 女は建物と建物の路地に駆けこんで顔を隠して座り込んでしまった。



「お前はサトシ様にご寵愛をいただいたカーラではなかったか?」


「カーラだけど……借金取りじゃないの?」


「借金取りなどではない。サトシ様に仕えるものだ。あの時とは随分変わったな。」


「あの時から全てがうまくいかなくなってしまったの……」



 カーラはその後のことをぽつりぽつりと話し始めた。


 サトシ様に寵愛をいただいた後、一緒にいた雄の店を飛び出したが店の雄が怒り、発注ミスの分を借金とりに回収させようとしているらしかった。



「なんで……好きだったのに……うぅ……」


「お前の覚悟次第では助けてやらんでもないぞ。」


「えっ、どういうこと?」


「借金を肩代わりしてやると言っているんだ。」


「どうしたらいいの……?」


「サトシ様にすべてを捧げろ。」


「全てって……」


「今後は、借金取りからお前を私が守ってやる。だが、捧げられないなら何もしない。」



 そう言っていると3人の気品の無さそうな雄どもがカーラに近づいてきた。



「やっと見つけたぞ、カーラ。お前の借金を回収しないとなー。

 どうせ金返せないんだろ。

 でも、安心しろよ。お前は顔がいいから体で返せばいい。

 俺達は変態貴族の伝手があるから体がおかしくなるまでしっかり調教してもらえるぞ。ひひひひ。」


「いや……助けて……」


「変態貴族に渡す前に、俺達でしっかり味見して体を慣れさせてやらないとな。こいつは胸もでかいし、もう我慢ができねぇや。」



 借金取りはそういうとカーラの体を取り押さえて服の中に手を入れた。



「いや!さわらないで!捧げる!私の全てを捧げるから助けて!」


「本当だろうな。嘘だった場合はこいつらから受ける仕打ちよりももっと恐ろしいことが起こるぞ。」


「本当です……お願いです。助けてください……全てを捧げますから。」


「お前たちさっきから何をごちゃごちゃ……」


「きゃ!」



 これまでカーラの体を触っていた雄と他2匹の雄の顎を軽く叩いてやると膝から崩れ落ちた。



「おい、ここにいろよ。」


「はっ、はい……」


 3匹の雄を両脇に抱えて近くの建物の屋根に飛び乗り、屋根伝いに走った。



    ▽



「ここはどこだ……」


 1人が気が付いたところで3人の首を刎ねる。


 残った体から血が噴き出すが部屋に待機しているスライムが噴き出た血も残った体も宙に舞った頭も体内に取り込んだ。

 数分で跡形もなくスライムの栄養として吸収されてしまうだろう。


 ここは私が拠点として手に入れた建物で、壁と屋根があるだけの窓も無いところだ。

 周りには金が無く、どこにも行く当てのない人間が地面に座っている。そんな場所だからこそ選んだ。

 スラム街と呼ばれている所だ。



「あの雌、まだいるだろうな。」



 路地に戻ってみるとカーラはその場でただ蹲っていた。



「しっかり待っていたようだな。」


「殺されたくないから……私どうなるの?」


「ただ、サトシ様のことだけを考えろ。どんなことでお喜びになるか、自分に役立つことは何かをただ考えればいい。」


「そんなこと言ったって……」


「とりあえず、服を買い、体を清めろ。ついて来い。」


「はい……」

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