第16話 そして友人へ
翌日、俺は通学路を歩き学校を目指している。
昨日俺は深田の傷を知った。その上で俺は死なないことを証明し彼女の呪縛を解いた。
触れた相手を死なせてしまう傷。
だから人と関わることを避けていた彼女の心を少しでも軽くできればいいのだが。
まあ、なるようになるか。
「おはよう」
教室の扉を開け入室する。今日も俺が最後みたいで三人はすでに着席している。俺も自分の席に鞄を置く。
「あの!」
隣の席から声を掛けられる。振り返れば深田が気合の入った顔で俺を見ていた。
「ん?」
「お、おはようございます!」
「おう、おはよう」
挨拶を交わす。それに手応えを感じたような顔をするがその後そわそわしだす。
「え、えっと、いい天気ですね」
「おう、いい天気だな」
「今日も暑いですね」
「まったくだぜ、殺す気かっつーの」
「ほんと、暑いですよね。ははは」
「おお」
「…………」
「……?」
会話が続かん。というかなにを話したいんだ?
深田は話題を探しているのか教室を見渡している。それから火縄銃みたいに単発の会話と装填を繰り返していると秋山が来てホームルームが始まった。
なんだかいつもと違うな。
深田がいつもと違うのはそれからもだった。
体育の授業中。
「くそ~、秋山~。呪ってやる、呪ってやるぞ~」
なんでこの炎天下のくそ暑い中ランニングなんだよ殺す気だろ、嫌がらせじゃないだろうなあいつ~。
俺の原動力は怒りと憎しみだ、四肢に憎悪という燃料を放り込み駆動する闇に落ちた重戦車だ(?)。
「鏡さーん、頑張ってくださ~い!」
と、深田から声援が届いた。
「おー」
それに軽く手を振り走っていく。よし、ちょっとは光を取り戻したぞ(?)。やはり人の心を癒せるのは人の心なんだなって。
昼休憩になり俺はぐったりと席に座る。やばい、死ぬ~。
「鏡さん、よければ昼食ご一緒しませんか?」
「ん?」
顔を上げる。そこには深田が弁当箱を手に笑顔で立っていた。
俺から誘って椎名と一緒に食べることはあったが深田から誘ってくるのは初めてだ。
「おう、一緒に食べるか」
それで椎名と三人で食事をするのだが深田は俺とばかり話してくる。椎名にちょっと申し訳ない。
それを注意しようにも深田は楽しそうに話すものだからそれもしにくいという。
なんか、今日はずっとこんな調子だ。
放課後、俺と深田はうさぎ小屋に来ている。深田がうさぎの世話をしているのを見つめたまに手伝ったりしてやった。
あとはうさぎをもふもふするだけだ。俺は無心でキャベツを貪る小動物を撫でていく。
深田も同じだがその表情は微笑んではいるのだがどこか緊張して見えた。
「はじめて、でした」
「ん?」
「この傷ができてから、私が触れても死なない人」
「そうか。まあ、そりゃそうだろうな」
俺みたいなやつがたくさんいれば深田もよかったんだけどな。それがいなかったから苦しんでいたのだし。
「この傷のせいで人と接するのに躊躇いがあったんですけど、でも鏡さんならそんな必要なくて。鏡さんの言う通りでした。止まない雨はない。そんなのただの気休めだと思ってましたけど、でも鏡さんは違う。鏡さんは、はじめての人なんです」
「お、おお」
そういう言い方は人前では控えて欲しいな、本人にそんな気はないんだろうが。
「だから、その」
深田が振り返り俺を見る。真剣な眼差しにどきりとした。
「私と、つ」
「ん?」
言葉が止まる。言いにくいのか深田は何度も口を開くたびに閉じてしまう。
「つ……!」
いったいなんだ? それか俺なにか悪いことした? なにを言いたいのか分からずじっと彼女の言葉を持つ。
「……ずっと、友達になってくれませんか!?」
「なんだ、そんなことか」
なにを言いたいんだと思えば友達か。
「なに言ってんだ、いいに決まってるだろ。ていうか、俺はすでにそのつもりだったぜ」
「あはは、ありがとうございます」
深田は嬉しそうに笑ったあとうさぎに目を移し撫でている。
だけどその表情はちょっとしょんぼりしているような気がした。
でもそうだよな、深田は傷のせいでずっと人と接することが出来なかったんだ。
本当の意味で友達ができずこれからもそうだと思っていたんだ。そこに死なない人が現れたらそりゃ嬉しいよな。
「今までは大変だったかもしれないけどさ」
「へ」
彼女の心境を思う。それをなんとか出来るのが俺だけなら俺がやるしかないよな。
「今の深田には俺がいるから。一人じゃないっていうか、そこは安心してくれていいよ」
彼女を一人にしたりしない。孤独の時間はもう十分だ。これからはもっと自由に生きればいい。
「はい!」
深田は今日一番の大声で応え満面の笑みを見せてくれた。
「私と、ずっと一緒にいてくれるって約束してくれますか?」
「おう」
「~~~~」
なんだか身をよじらんほどに感じ入っているな。
まあ、いいか。深田が嬉しそうだと俺も嬉しいし。
それから時間が過ぎて俺たちは小屋を出た。すっかり夕暮れだな。
校庭に立つ俺たちの前には二つの大きな影が伸びている。その影と影が重なった。
振り返る。深田は俺の手を握っていた。緊張の面持ちで俺の手を見つめて。
その手は手袋越しではあるけれど、それは彼女にとって最高の信頼の証であることを俺は知っている。
彼女が躊躇いがちに俺を見た。
「あの、ちょっとだけ、いいですか?」
それは恥ずかしがりの彼女にとって小さな勇気だ。
「ああ」
俺はそれを受け止めるように握り返した。影は繋がり一つとなって俺たちは正門へと歩いていく。
夜に移り変わる世界に俺たちは向かっていく。
ふと俺は背後が気になり振り向いた。
遠目に見えるうさぎ小屋。そこではうさぎが走ると突然消え、また元の場所に現れ走っていた。
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