Episode.006 俺の国って騎士と侍女の兼任アリ?

トントントン……、ドンドンドン……。


 アフター、カッポォールデイズあれから二日後


(あれ?ルビが逆かな…)


 俺はボケた頭で、ベットで目覚めた。

 脇を見遣ると、いつもいるはずのシャラクは珍しく居なかった。


(そう!俺は、こういう普通ぅーの朝を迎えたかったんだ……)


 そんな風に思った矢先に、けたたましい音が鳴り響いた。


トントントン……、ドンドンドン……、ドスッドスッドスッ……。


 非常識な勢いで、ドアをノック?叩きつける音が鳴り響いた。

 きっと早朝から目覚めたのは、あの目覚まし時計の如く鳴り響く、ノック音の所為に違いない。

 

トントントン……、ドンドンドン……、ドスッドスッドスッ……、ガコンッガコンッガコンッ。


「構わん、入ってくれ」

 とても通常のノック音からかけ離れ出したので、俺は慌てて入室を許可した。

 入室してきたのは、メイド服を着こなした赤毛の侍女だった。


(こんな清楚な美人さんが、未だ王城内に残っていたのか?)


「初めましてかな?ここは一応、国王の私室なんだけど。何か用かな?」

 ちょっと緊張していたが、極めて紳士的に取り繕って見せた。


「あれっ?殿下にはよく練兵場でお会いしてますが、アタシの事を忘れちゃった訳じゃないでしょうね?」


「ひょっとして、クッコロさ……カレンかな?」

 俺は滝の様な冷や汗の中で、修行僧の悟りの境地……まさに“無”の心持ちで訊いてみた。


「嫌ですわ“かな?”だなんて。殿下にこの身を捧げる誓いを、立てた者に対する言葉では有りませんわ」

 すると背後から取り出した、いつぞやの豪奢な剣を掲げて見せた。


 背後からは、這い寄る混沌……。

 じゃなくて半死半生の態で、這いずりながら入室してくる、シャラクの姿が映った。

    

「シャラクらしくも無い。一体どうしたんだ?」

 俺は地べたを這い寄る執事に、恐る恐る訊いてみた。


「このシャラク、一生の不覚を取り申した。このたびの作戦のためにと、特注のメイド服をカレン殿に着せたのまでは良かったのじゃが……」


 カレンは這い寄る執事を、見下すように言った。

「その着替えも、シッカリと覗いてたわね!」


 シャラクは言い訳を重ねるように、訴えていた。

「侍女…と言うよりもですじゃ。そもそも王城内に無断で剣の持ち込みは禁止ですぞと、注意したかっただけなのじゃ……」


「ふん!剣に触る振りして、アタシのお尻を触った変態が何か言ってるわ」

 カレンは虫けらを見下すように、執事に対して言った。


「シャラクよ。お前はいつから、執事からにジョブチェンジしたんだ?」


「本当に最初は城内に、危険物の持ち込みを止めようとしただけだったのじゃが、つい手が滑ってしまっての、面目ないのじゃ」


 この執事から、こんなに殊勝な言葉が出てくるとは…。

 本当に触ったんだな、お尻。


 カレンはまるで騎士の様に、俺の前に跪くと剣を鞘ごと捧げ持つと、俺に奏上した。

「アタシは登城して未だに、騎士としての叙爵を受けては居りません。この機会に叙爵の儀、叶います様お願い申し上げます」


 俺は念を押すように、カレンに言った。

「叙爵を受けても、侍女は帯剣出来ないよ。それと侍女の服装も今回の作戦で必要だから、着て貰ってるだからね」


 カレンはゆっくり首を振ると、剣を立てて誓った。

「アタシもこの剣も、既に殿下に対しての忠誠を誓っております。この剣はアタシの命。叙爵の儀を受けた暁には、剣を殿下にお預けしてでも、ラウール様の専属侍女として一生お仕えする所存でございます」


 俺は地べたに這い蹲ったままの執事に、念話で問い掛けた。

ピキ――ン!

(どうしてこうなった?)


ピキ――ン!

(申し訳ございません。まさに会話の行き違いと言うか、何というか……)

 

ピキ――ン!

(シャラクよ、簡潔に答えろ)

 

ピキ――ン!

(実は潜入捜査のために、侍女に変装するところまでは良かったのじゃが、ラウール様に侍女が居ないことまでバレてしもうて、騎士として十分なお役目が果たせないようなら、自分が専属侍女として生涯お仕えすると……)

 

ピキ――ン!

(それで必死に止めようとしてくれた結果が、その有様と言う訳か?)

 

ピキ――ン!

(面目もございませぬ。さすがに肉弾戦に持ち込まれては、成す術がござらんかった)

 

ピキ――ン!

(ところでお尻は触ったのか?どうだった)

 

ピキ――ン!

(儂も未だに何を触ったのやら?なにやら岩のように固い物体が、そこに在ったのですじゃ)


 フーッ……。

 俺は大きく溜息を吐くと、カレンに叙爵を執り行う事に決めた。


(それで、この場が丸く収まるのなら、止むを得まい)


 すると聖職者の服装に聖女のローブに身を包んだ、クリスティーナが開きっぱなしにされた扉から、覗き込んでいた。

「旦那様、そちらの方は?」


「あぁ、去年王城に殴り込んできた、帝国騎士のカレンだよ。覚えてないかい?」


 クリスティーナは相変わらず、キョトンとした表情のまま言った。

「全く覚えがありませんわ。旦那様が床に押し倒した女のことなんか、覚えておりませんわ」


 俺は今日はクリスティーナから、祝福の聖印を与えて貰ってない事に気が付いた。


(あれが無いだけで、唯の日常のが、途轍もないになってしまうとは……)


 俺は改めてクリスティナの手を取ると、真直ぐにブルーの瞳を見詰めて訴えかけた。

「おはよう、クリスティナ。今日も素敵な聖女様ルックだね」


 クリスティーナは優しく微笑むと、いつもの祝福の聖印を切ってくれた。

「おはようございます。旦那様。ところで今日はなんの騒ぎですの?」


「実はこのカレンには、まだ騎士への叙爵の儀を執り行っていなかったんだ。今回の特殊任務を受ける条件として、この際正式に騎士に取り立てて欲しいと、ゴネられてたところだったんだ」

 俺は何処を話しても、地雷だらけの事態を華麗に説明してみせた。


「それではわたしが、聖女として正式に叙爵の儀を執り行いますわ」

 聖女が施す祝福の聖印は、地雷原の真っ只中を匍匐前進せずとも、無事に通り抜ける効力を秘めていることが証明された瞬間であった。


 ちなみに聖女が立ち会うとなれば、それは一番格式の高い叙爵の儀礼となる。


「格式高い儀礼に相応しい国の王に、俺はなる!」

 おれは囁く様に、小声で宣言した。


 俺は埃の被った王様の服……。


(マッパじゃないぞ!)


 王家に伝わる伝統的な祭服に着替えると、王冠と宝珠レガリアを片手に、王座の間に向かうのだった。



◆    ◇    ◆    ◇    ◆



 王座の間は、王城で一番広く豪華に作られた部屋である。

 しかし特別な儀式にしか使われることがないため、これまでは一番コスパに見合わない部屋だと思っていた。

 それでも、こうして王冠を戴冠して宝珠レガリアを片手に玉座に腰掛けると、聖女立ち合いの儀式に相応しい場所として映えるように感じた。


(是非ともインスタに揚げたいえる光景だよな……インスタ?はて何のことかな)


 クリスティーナは俺の傍らに立ち、立ち合いの宣誓を行った。

「これより騎士カレンの叙爵の儀を執り行う。騎士カレンよ前に」


 カレンは恭しく玉座に前まで進み出ると、跪いて豪奢な剣を鞘ごと差し上げている。

 それを受けて俺は玉座から立ち上がると、カレンの剣を受け取り騎士の誓約を求めた。


「騎士カレン・ラ・マーセラはこの身を終生に亘り、ラウール王への騎士として忠誠を誓います」

 俺はおかしな文言には目を瞑り、カレンの両肩を儀礼的に剣で軽く叩いた。


(むむむむ……っていうか!ラ・マーセラって言ったら、帝国最の『真紅の戦乙女』の二つ名を持つ超有名人なのでは?ラ・マーセラなのか?)


ピキ――ン!

(先の帝国の大戦で、敵数万の中を単騎で駆け抜け『真紅の戦乙女』が通り抜けた後は、ペンペン草すら残らなかったとの、武勇伝で知られておりますのじゃ)


「これにてカレンは、正式にラウール王の騎士として、終生の誓約が成されたことをの御名に於いて宣言する」

 聖職者の服装に身を包んだ、聖女クリスティーナが高らかに宣誓した。



(俺の国って騎士と侍女の兼任アリ?)

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