Episode.004 俺の国って侍女事情が悲しくない?
本日、クリスティーナが教会から戻ると、午後に御前会議を開いた。
「やれやれ……そのネタはEpisode.002で使用済みですぞ」
傍らからは、いつもの如く執事が残念そうに呟いた。
「だ・か・ら……シャラクは、読心魔法を使わない事!」
俺もここは厳しく叱責した。
「会議中に読心魔法を使う者が居たら、自由闊達な議論が出来ないだろ」
俺は痴れっと、正論で話を打ち切った。
御前会議に集まったのは、俺と婚約者と妹と執事の計四名である。
先ずは、例の親書を廻し読んだ。
それぞれが、全く異なる表情を浮かべて読み耽っていた。
全員が読み終わったところで、皆の意見を聞くことにした。
先ずは永遠に結婚することが無さそうな、婚約者のクリスティーナから訊いてみた。
クリスティーナは終始キョトンとした表情で、逆に訊いてきた。
「旦那様は侍従も侍女も一人も居なくて、大変では有りませんでしたか?わたしなんて、いつも教会に専属の侍女が50人は居りますわ」
「50人!」
珍しく三人の声が一致した瞬間だった。
「旦那様さえよろしければ、侍女も半分コに致しましょうか?」
その一言を聞くや否や、一斉に声が返された。
「25名様、よろこんで!」
「神聖教の陰謀ですわ!」
「儂の分も頼めますか!」
ここは想像通り、三者三様の反応であった。
俺は一人づつ質問することにした。
先ずは陰謀論者で、推理大好きっ子のサーシャからだ。
「お兄様に侍女を付けるのには反対しませんが、王宮内の人口比が神聖教国の関係者だらけになってしまいますわ。そして気付いた時には王城が、教会に変わっている未来しか想像出来ませんわ」
俺は相変わらずキョトンとしてる、クリスティーナを見遣りながらサーシャを嗜めた。
「誰でも想像が付く話は、オブラートに包んで発言しようね」
サーシャも言い過ぎたと思ったのか、白銀の髪を弄りながら婚約者に謝った。
「クリスティーナ
ペコリと頭を下げた妹に対して、追い打ちを掛けた。
「わたしこそ半分コなんて……。旦那様により大勢に仕えて頂きたいから、侍女の数を30人に増やしますね」
なんか途轍もなく違う方向に、話が素っ飛んで行った。
俺は気を取り直して、最も期待薄なシャラクにも訊くことにした。
シャラクは珍しく、ジッと真剣な面持ちで考えていたかと思うと、
「ラウール様に30人は勿体ないですな。ここはシャラクが10人程引き受けましょう」
俺はクリスティーナとサーシャに、この執事に対してグーで殴っても良いか?聞いてみた。
「グーで殴っては、手を痛めてしまいますわ」
「グーで殴っても、致命傷には至らないわね」
多少ニュアンスは違う様だが、グーパンチは駄目という結論に達した。
そこでサーシャは、改めて訊ねた。
「クリスティーナ
クリスティーナは相変わらず、キョトンとした表情で訊き返した。
「教会の侍女なら
俺は改めて、クリスティーナが一番まともな意見を言ってる気がしてきた。
俺はアッパラパー覚悟で、執事のシャラクと読心魔法を使った念話で協議を始めた。
ピキ――ン!
(シャラクよ。俺がこの先、
ピキ――ン!
(この機を逃せば、永遠に在り得ませんな。ところで肝心な点なので確認したいんじゃが、10人は儂付きの侍女という事で、よろしいか?)
ピキ――ン!
(うーむ、クリスティーナの意向次第だが、夢の実現のためだ…善処しよう)
ピキ――ン!
(あとは相手は修道女ですぞ。身持ちは堅そうですな)
ピキ――ン!
(いや女性に囲まれて、チヤホヤされるだけでも、今の境遇とは雲泥の差だとは思わないか?)
ピキ――ン!
(左様ですな。また王家の血筋を、魅力的と見る者も現れましょう)
そんなやり取りをしていると、女性陣から冷たい視線が注がれていることに気が付いた。
「二人揃って、どうしたんだい?」
すると二人から、厳しい言葉で問い詰められてしまった。
「男同士で見詰め合ってしまわれて、お二人はそういう
「男同士で見詰め合って、どうせ念話でハーレム構想でもしてるんでしょ」
改めて気が付けば、俺はシャラクの手を取り、至近距離で見詰め合っている事実に気が付いた。
俺は時には、人間として尊厳を大切にするべき時が有ると、痛切に感じていた。
決してLGBTを否定する気はないが、違うことは違うとNOを言える、ロレーヌ王国の象徴としての範たらねばならないのだ。
「国の規範たる王に、俺はなる!」
俺は高らかに宣言していた。
俺は二人に近づくと、両手で二人を温かく抱きしめた。
「俺にとっては、今この腕の中にいる家族だけを、愛してるに決まってるじゃないか」
クリスティーナは薄桃色に顔を赤らめ、サーシャは真っ赤な舌をベッと出していた。
こうして俺にとって一生に一度訪れるかどうかの、ハーレムの夢は儚くも水泡に帰すのであった。
俺の怒りの矛先は当然、奴隷売買を打診してきた通商連合の悪徳商会に向けられていた。
「俺は国王の名のもとに、奴隷売買という卑劣な犯罪行為を決して許さないぞ!」
俺は高らかに宣言した。
「犯罪の無い国の王に、俺はなる!」
すると親書を手に取ってヒラヒラ振りながら、サーシャが言った。
「この誘いに乗るって言うのも、手かも知れないわ。この商会はエチゴーヤと言って、連絡先の支店って、選りにも選って王都の繁華街にあるお店じゃない!」
「なら王国法の下で、堂々と裁けるな。王家を貶める者の末路を、国民に知らしめてくれよう」
俺は通商連合に対する、過去の因縁を晴らす機会とするため、綿密な計画を練ることとした。
そもそもロレーヌ王国は、弱小ながらも豊かな国であった。
農業も盛んで、山脈から流れ出す川が海まで繋がっているので、水利がとても良いからだ。
更に東西南北に延びる街道が交わる、交通の要衝にあたるため、貿易でも収益が挙げられた。
そうした財政を破綻させたのが、通商連合である。
ロレーヌ王国は、四方を強大な敵国に接していた。
しかし直接武力で制圧するには、余りにもリターンが薄すぎた。
北の魔法王国は東の覇権帝国と領地を一部接しているため、どちらかがロレーヌ王国に攻め込む時は、お互いが全面戦争に突入することを意味していた。
それでも圧倒的な兵力を保有する東の覇権帝国が、ロレーヌ王国に侵攻するのは時間の問題だと思われた。
その他の二国も黙って、覇権帝国の侵攻を許す訳にはいかなかった。
そのため神聖教国は、ロレーヌ王国内にも布教の権利を認めさせて、着実に国民の信仰心を獲得しようと画策していた。
通商連合はその貿易産品や莫大な資金を投じて、ロレーヌ王国を借金漬けにしようと躍起になっていた。
思い起こせば、通商連合が王家に接近する様になってから、詐欺師や犯罪者が入り込み始めた気がする。
以前にも語られたが、通商連合から紹介された家庭教師の面々も大半が詐欺師だった。
俺のIQがもう少し高かったら、今頃王城には詐欺師たちが、何らかの役職で居座っていたかも知れない。
無能も時には役に立つのだ。
それでも定期的な巨額詐欺やら裏切りやらで、国の財政は切迫していった。
ハッキリ言って、借金まみれだった。
そして常にその背後に居たのが、通商連合であった。
父が亡くなって、俺が国王に即位することが決まると、俺は大胆な経済再建計画を実施した。
王城内に勤めていた使用人の内、怪しい者から次々と解雇していったところ、身を潜めていた敵国の間者たちは、蜘蛛の子を散らすように辞表を置いたまま失踪して行った。
気が付けば、使用人は古くから務めていた者しか残っていなかった。
つまり俺の侍従や侍女も皆、どこかの勢力の間者だったと言う訳だ。
そのため俺が国王に即位後には、侍従や侍女がほとんど居なくなってしまったのだ。
また王家に伝統的に残されていた宝物以外の財産は、綺麗サッパリ売り払う事で、通商連合からの借金の大半を返済していた。
ロレーヌ王国への影響力が低下した通商連合は、ターゲットを妹のサーシャに移して、近年は積極的に縁談話を持ち掛けていたのだが、俺より賢い妹は大抵の申し入れを一蹴していた。
(まぁこんな事ばかり続けば、サーシャが陰謀論者になるのも仕方ないよな)
そう言えば、サーシャの侍女も長年仕えてくれている、マルガリーテが一人居るだけだった。
(俺の国って侍女事情が悲しくない?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます