Episode.003 俺の国って悪事が舞込み過ぎでは?

※今回のEpisode.003だけは、横組み読み推奨です。

 


◆    ◇    ◆    ◇   ◆



 ここら辺でロレーヌ国についても説明したいと思う。


 俺は羊皮紙を一枚取り出すと、羽ペンで丹念に虚覚えの地図を描き始めた。

 政務を放ったらかして、一日掛かりで描き上げたのが↓コレである。



【ロレーヌ王国周辺地図】

***********************************

*                                 *

*               ____               *

*              |魔法王国|              *

*               ̄ ̄|| ̄ ̄              *

*                ||            林林林林*

*ΛΛΛ             ||           林森森森森*

*ΛΛΛΛΛ           ||          林森森森森森*

*ΛΛΛΛΛΛΛ         ||         林森森森森森森*

*ΛΛΛΛΛΛΛΛΛ       ||凸       林森森森森森森森*

*ΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛ||ΛΛΛΛΛΛΛΛ林森森森森森森森*

*ΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛ||ΛΛΛΛΛΛΛ森森森森森森森森森*

*ΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛ||ΛΛΛΛΛΛΛ森森森____森森*

*ΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛ||ΛΛΛΛΛΛΛ森森森|深淵の森|森*

*ΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛ||ΛΛΛΛΛΛΛ森森森 ̄ ̄ ̄ ̄森森*

*ΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛΛ    凸||    ΛΛΛΛΛ森森森森森森森*

*ΛΛΛΛΛΛΛΛΛ       ||     ΛΛΛΛΛ森森森森森森*

*ΛΛΛΛΛΛΛ         ||      ΛΛΛΛΛ林森森森森*

*                ||      ΛΛΛΛΛΛ 林林林林*

*   Λ            ||       ΛΛΛΛ      *

* 神聖教本山          ||      ΛΛΛΛ      *

* _____       ___||___  ΛΛΛΛ凸  _____*

* |神聖教国| =======|ロレーヌ王国|======== |覇権帝国|*

*  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄        ̄ ̄ ̄|| ̄ ̄ ̄  凸ΛΛΛΛ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄*

*                ||       ΛΛΛΛΛ    *

*                ||         ΛΛΛΛ   *

*                ||           ΛΛΛΛ *

*                ||            ΛΛΛΛ*

*                ||             ΛΛΛ*

*              __||__            ΛΛ*

*              |通商連合|             Λ*

*               ̄ ̄|| ̄ ̄            ΛΛ*

*                ||             ΛΛΛ*

*                ||             ΛΛΛ*

*               _||_            ΛΛΛ*

*~~~浜~~~        |港町 |            ΛΛΛ*

*    ~~~浜~~~     ̄|| ̄              ΛΛ*

*        ~~~浜~~~ ̄ ̄ ̄~~~~~~浜~~~~~~ΛΛ*

*                港湾                *

*                                 *

*               〓海〓               *

***********************************



「ほう。これは凄いですなぁ。これが噂に聞く古代アスキー文字で描かれた地図ですな」

 いつの間にか、隣には執事のシャラクが、興味深げに覗き込んでいた。


「幼少の頃に古代文字の学者から教わってな。せっかく読んで頂いているな読者様への、ファンサも大事だと思っているからな」


 シャラクは溜息を吐くと、とても残念なお知らせをした。

「今ではカクヨム様でも近況ノートから、綺麗な画像がいくらでも載せられるのですぞ……」


 パタパタッ……。

 俺は手にしていた羽根ペンを、床に取り落とした。

 羽根ペンを取ろうと立ち上がった俺だったが、あまりのショックのために膝から崩れ落ちた。


(そ・そんなぁ。俺のこの血の滲むような努力の結晶は……)


「まぁー無駄ですな。そもそも地理、地形関係も文章力で表現するのが、投稿小説の醍醐味ですぞ……ですぞ……ですぞ」



◆    ◇    ◆    ◇    ◆



 朝の陽ざしが俺の目蓋越しに白く照らし、窓からは優しく流れるような風が前髪を揺らし流れ去って行く。


 目を開くと、枕元で囁き続ける執事に視線を移した。


 シャラクは俺の耳元で、何やら小声で呟いていた。

「……ですぞ……ですぞ。ですぞ……」


「またお前かい!何やら悪夢にうなされていたが、俺に何の恨みがあるって言うんだ」


 シャラクは俺の抗議を気にも留めずに、畏まって申し上げた。

「おはようございます。ラウール様。本日はいつもよりも二十三分三十秒ほどのお寝坊ですな。どこぞ具合が悪いのでは?」


 俺はツッコミたい衝動に駆られたが、黙って渡された薄手のガウンに袖を通した。


「今日は取り立てて、急ぎの案件は無いか?」

 俺はいつもの冷静さを取り戻し、政務の案件を整理することにした。


 シャラクは俺の執務机から、いくつか書類を選別していたが、一通の親書を取り出した。

「これは通商連合からですな。一見したところ、サーシャ様へのお見合い写真では無さそうですが……」


 タイミング良く背後の扉から元気の良い、いつものノック音が響いた。

 俺は額に手を遣りながら、シャラクに扉を開く様に促した。


「おはようございます。お兄様」

 サーシャは新しく仕立てられた青いドレスを見せびらかすように、部屋の中央まで進み出ると、滅多に見せないカーテシーで正式な挨拶をして見せた。


「おはよう。おやっ?新しいドレスかい。サーシャの白銀の髪には、青い色とアクセントのリボンがとても似合ってるよ」

 王家の安寧を願うのなら、こうした歯の浮きそうな世辞も大切なのだ。


 サーシャは満面の笑みで、話を先程の親書に移した。

「また今回も通商連合からのお誘いですの?」


 親書を執事から取り上げて、透き通る様な赤い瞳で、表裏を繁々と見詰めた。

 すると途端に興味を失ったように、親書をぞんざいにシャラクに手渡した。

「きっと、お兄様宛ですわ」


 そんな様子を見て、サーシャにどうして言い切れるのか?聞いてみた。


「お兄様はご存じないのも無理在りませんけど、お見合いや恋文の親書には、高級な紙を使うのはモチの論ですけど、必ず家名が分かるように透かしを入れて居りますのよ。つまり紙一枚でもお抱えの業者を使っている……富と権威のアピールですわ」


(さすが金と権力の第一人者だなぁ)


 しかし暫らく考えていると、おもむろに先程の内容に補足をし始めた。

「しかも何やら犯罪の匂いがしますわ」


 俺は気になって、執事からくだんの親書を手に取った。


くんくんくん、くんくんくん……。

 俺は親書から、どんな匂いがするのか確認してみたが、特に何の変哲もない手紙に感じられた。

 特に毒の類が付着している様子も無かった。


(まぁ毒入りなら、シャラクが俺に手渡す訳も無いのだが)


「サーシャは何で?この親書が犯罪絡みだと思うんだい」

 俺は親書の内容よりも、サーシャの慧眼の方が気になった。


「先ず女性に対する好意的な親書ならば、相手に届くまで残る様な高級な香水パフュームを数滴垂らすものですわ。また表書きも装飾をあしらった字体を使ったり、まめに羽根ペンにインクを付けるので、所々区切りの冒頭の文字がインクで滲みますわ。しかしこの親書にはそうした飾り気がないどころか、数か所に文字が掠れている個所が有ります。つまり事務的に恐らくは複数の相手宛に、同様の親書を出したと思われますわ」


 そこで一息吐くと、両手を腰に掛けて言葉を紡ぎ出した。

「これが覇権帝国なら、軍事的親書を同じ内容で複数用意するのも頷けますが、こと通商連合ともなれば話が違ってきます。屋号の刻印は商会の信用と宣伝効果を狙って、大々的に使用するはずです。この親書からは、そんな意図が微塵も感じられません。逆に親書の体裁は保っていますが、極力足が付かないようにと念を入れています。つまりは表立って交渉できない取引を、どこかと早急に結びたいと焦っている証左。つまりは犯罪行為の共謀を誘う内容が、書かれているのですわ!」 


 ビシッ!っと華奢な人差し指をカメラ目線で指し示しながら、決め顔で言い放った。


(ところでカメラ目線って、どこ見て恰好付けてるんだろう)


「差出人は表では真っ当な商売をしていると見せかけて、裏では盗難品や密輸品の売買に手を染めている悪徳商会ですわ。謎はすべて解けた……爺っちゃんの名にかけて!」


パチパチパチパチパチパチパチパチ!

 俺は惜しみない賛辞と、拍手で讃えて見せた。


(最後の方は、意味不明だったけどな)


 早速、親書を開封することにした。

 開封は執事に任せて、俺はサーシャを庇うように執務席の下に身を隠した。


「シャラク、親書を開封していいぞ。何なら内容も読み上げてくれ」


 シャラクは溜息を吐きつつ、親書を開封すると手紙の中身を読み始めた。

「拝啓、一迅の春風が色取り取りの花びらを巻き上げる今日この頃ですが……」


「時候の挨拶は、読み飛ばすように!」

 俺の叱責に目線で文章を追いかけると、本文から改めて読み始めた。


「このたびな侍女を、お得意様だけに格安にてお譲りしたく存じます。付きましてはご希望の日時を下記の支店までお知らせください。尚、ご拝読後は焼却処分されることをお勧め致します。敬具」


 俺はサーシャと、目を合わせて頷いた。

「やっぱり、違法な奴隷の売買みたいね」

「やっぱり、王様に侍女って必要だよね」


 同時に発した言葉には、多少のが含まれていたようだった。


 俺は不穏な空気を察して、切実に訴えた。

「俺って一応、王様だよ。それなのに侍従も侍女も居ないんだよ。今朝なんて執事が、耳元で囁くのを聞きながらの起床だよ。もっと……こう普通の生活が送りたいって言うか、侍従でも侍女でも良いから欲しいんだぁー!」


 そんな俺の奇行を、蔑む様に見詰める二人から、同時に声が返ってきた。

「儂が毎日、執事と侍従を兼任してお仕えしておりますぞ」

「あたしが妹の立場で、侍女を兼任してあげてるじゃない」


 どうやらこの場に居る二人にも、とても大きなが含まれている様だった。


 俺は手元の親書に目を落として溜息を吐いた。



(俺の国って悪事が舞込み過ぎでは?)

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