第3話
『ロキ……ロキ……』
名前を呼ばれ、ゆっくりと意識が浮上する。
『ロキ、起きた?』
眩しさに目をすがめつつ薄目を開くと、目の前に見慣れた幼なじみの顔があった。
「……リリア?」
『目が覚めて良かった! 心配してたのよ!』
何かがおかしいと感じながら、寝起きの働かない頭では分からない。
「えっと……心配かけてごめん」
また、何かリリアに心配かけてしまったんだと思いつつ、リリアの頬に手を伸ばす。なぜか、伸ばした手は、リリアの頬をすり抜けてしまった。
『ロキ。よく聞いて』
ぼくを見下ろすリリアの目が、真剣なものになる。寝転んだままのぼくも、真剣な顔を作ってうなずき返す。
『あたしね、昨日、死んじゃったの』
リリアは時々、真面目な顔をして冗談を言う。冗談かと疑いながらも真剣に聞かないとあとで怒られるから、ぼくも真面目な顔で答えるけど、さすがにこの冗談はタチが悪い。
「リリア。変な冗談は……」
体を起こそうとして付いた手の先を見て、絶句した。ぼくは、狼の上で寝ていたのだ。途端に、昨夜の出来事がフラッシュバックする。
「ぅわああああーー!!」
『大丈夫よ、ロキ! 狼は死んでるわ。もう、襲っては来ないわ』
リリアが優しく声をかけてくれる。だけど、肩に置かれる手に重みを感じないのが不安で、リリアの顔をじっと見つめる。微笑んでくれるリリアの顔が、少し透けていた。
『あたしも死んじゃった。でも、大丈夫! あたしはずっとロキの側にいて、ロキを守るから!』
そう言って、リリアは太陽の光を透過させた眩しい笑顔で笑った。
『そりゃ、死んじゃったのはすごく残念よ。大人にならないし、ロキと結婚することも出来なくなったからね。でも、こうして一緒にはいられるし、かわいい服で旅が出来るし、何より、確実にロキを守ることが出来る! 怨霊になるのも悪くないわ。あ! だからって、ロキまで死んじゃダメよ! ロキはちゃんと生きて、大人になって、おじいさんにならなきゃいけないんだからね!』
そう言って、リリアは白いワンピースの裾をふわりと膨らませてくるりと回った。
旅に出た時は、動きやすくて丈夫な狩猟用の服装だった。白いワンピースは、13才の誕生祝いの日に着ていた服だ。怨霊になったリリアは、ワンピースで難なく山道を歩けるし、疲れることもないらしい。本当に、怨霊になるのも悪くなさそうだなと思わせてくれるのが、リリアの優しさなのを知っている。知っているから、ぼくも笑って言う。
「分かってるよ。リリアが守ってくれた命だもの、すごく大事にする」
『うん! それでよろしい』
「それに、そのドレスとても似合ってるよ」
『でしょでしょ? 1回しか着る機会がなかったから、この服で旅が出来るの、ほんと嬉しいの!』
リリアがくるくる回ると、亜麻色の長い髪とスカートがふわふわと揺れ動く。少し透き通ったその姿がとてもきれいで、天使さまみたいだなと思った。
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