第4話
「あそこを通るのか?」
「ええ、近道ですからね。あの山を
「待ち伏せされたら、ひとたまりもない地形だな」
「縁起でもない事、言わんで下せぇ。こんだけの人数の護衛がいるんです。盗賊もそう
「まぁ、そうかもしれんが……」
「そうですぜぇ。戦時中なら
オルテガは、それに特に答える事無く、ただ眉をひそめていた。
一行は、
両側には断崖絶壁。大きな山を真っ二つに割ったかのようなこの
オルテガの顔に崖の影がかかる。そして、見上げていた空の面積は、両側の崖によって
「うん? 何か、茂みで動かなかったか?」
道の両側には、
「こんな場所です。小動物くらいいますぜぇ」
「どうも嫌な予感がする」
オルテガは、身を起こし、警戒し始めた。
「どうかしたの?」
異変に気付きローラが声を掛ける。
「いや、どうにも嫌な予感がしてな――」
オルテガがそう答えた正にその時、事件は起こった。
ドカーーーーーーン!
先頭の馬車が攻撃を受け横転した。
「何っ!?」
ローラが
「顔を出すな! 先頭の馬車がやられた」
「なっ、何ですって!?」
ボーーーーーーン!
再び
「くぞがっ! 進路と退路を断たれた」
オルテガが立ち上がり、後方の様子を見ると、
「当たりが悪かったか。ええい、何が平和な世の中だ」
オルテガは、そう
前方では、魔法使いの爺さんが
横転した馬車からも生き残っていた衛兵達が
「どうやら、前方では戦闘が始まっているようだ。全員、降りる準備をしろ。この馬車も狙われている」
「ど、どうなってるんですか?」
アイリスが不安げに言う。
その横では、彼女のメイドが頭を
「どうやら待ち伏せに
オルテガが落ち着いた口調で答える。
「どういう事よ」
「そんな事、俺が知る訳ないだろう。それより、こんな規模の襲撃に
「わ、分かりませんよ、そんな事」
「アイリス様、
アイリスが、馬車の扉を開こうとしたその瞬間だった。無数の矢が崖の上から降って来た。
「うっ!」
「おい、大丈夫か」
「ちいっ」
オルテガは、
「くそっ! 崖の上にも
オルテガが、大声で前方にいる魔法使いの老人を呼ぶ。
「何じゃい! 今、忙しいんじゃ」
魔法使いの老人は、
「そんなの十分、承知している。崖の上が見れるか?」
「何じゃとぉ?」
「弓兵が
「何とも
「出来るのか、出来ないのか!」
「敵が見えんのじゃ、分からん」
「正確な狙いは必要ない。両方の崖上に大きな魔法をぶっ放してくれ」
「やれやれ、無茶言うのう」
魔法使いの老人は、少し後方へと下がって来ると、ブツブツと呪文を
「おい、
「ローラよ!」
「何にぃ?」
「私の名前。私は、ローラ!」
「はぁ?」
「
「ああ、そうか。では、ローラ。崖上が炎に
「何で魔法を撃ち込むのよ?」
「恐らく、茂みの中にも敵がいる」
「じゃぁ、敵の中に突っ込めって言うの?」
「そうだ。このままここに居たらいずれ捕まる。
「何でよ?」
「知るか。だが、
オルテガは、自身の
そして、作戦が決行される。
両側の崖の上に広範囲の
「やるじゃないか、あの爺さん。さぁ、行くぞ――」
オルテガが、立ち上がった瞬間、光の矢の
その
「うわーーーっ」
箱馬車の中では、アイリス達が悲鳴を上げていた。
一方、外の席に座っていたオルテガは、放り出される格好で地面に叩き付けられていた。
「行けーーーーーーっ!」
「うぉーーーーーーっ!」
茂みに
「くそっ! 向こうも
オルテガは、剣を抜くと飛び出して来た兵達に向かって行った。
「アイリス様、大丈夫ですか?」
「僕は、大丈夫だ――。ロ、ロクサーヌっ!」
「私も大丈夫です」
馬車が横転した事により、アイリスは、お付きのメイドを
「ごめん、ロクサーヌ」
「大丈夫ですよ、アイリス様」
横転した
「アイリス様、ここは危険です。
「出るってどうやって……」
ローラは、今は天井と化している馬車の扉を指差した。
その頃、オルテガは、馬車の外で
「ぐはっ!」
オルテガの剣が、最後の
「敵の方もゆとりか。老いたとはいえ
オルテガは、そう言いながら兵の体から剣を引き抜いた。
「おい、ちょっと待て!」
「えっ? 何?」
「姫さんを引き上げるのは、少し待て」
「何故?」
「狙撃手がいるからだ」
オルテガは、そう言いながら前方を指差した。
「じゃあ、どうすんのよ」
「爺さん!」
「何じゃ!」
オルテガは、再び、魔法使いの爺さんに声を掛けた。
しかし、その時、前方の戦闘は、まだ終わっていなかった。それどころか、
「狙撃手から姫さんを
「全く、
魔法使いの爺さんは、
「では、爺さん、
「
魔法使いの爺さんが、
「誰かー! 助けてくれっ!」
「前方の兵達が
ローラが声を上げる。
「兵を殺さず負傷させて
「何を言ってるのよ! 助けに行かなくっちゃ! 二人が行かないなら私が――」
ローラは、今にも飛び出して行きそうな状況だった。
「お前さんも
「で、出来るけど……」
「では、アイリス様を頼む。前方の
「おい!」
「オルテガ殿も分かっているはずじゃ。この手の罠が有効なのは、そう簡単に見捨てられるものではないからだ」
「ちいっ! どいつもこいつも。さっさと行け。死ぬなよ、爺さん」
「苦労を掛けるなぁ」
魔法使いの老人は、そう言いながら、前方へと向かった。
「ええい、ローラ! さっさと
「わ、分かったわ」
ローラは、そう答えると呪文を
それに
「アイリス様、そこから外に出たら、
「わ、分かったよ」
「では、引き上げますよ」
ローラは、そう言うとアイリスの手を引き、一気に馬車の上に引き上げた。
「こちらへ」
その様子を見たオルテガは、すぐさま馬車に近付くと、アイリスが飛び降りるのを下からフォローした。
「次は、ロクサーヌさん」
ローラが再び馬車の中へと手を伸ばす。
「私に
「何を言っているの!」
「私は、片足が
「何を言っているの! 早く手を伸ばして」
ローラがロクサーヌの説得を試みている
「キャァッ!」
「行って下さい」
「でも……」
「おい、一旦、ここから離れるぞ。このままじゃ全員お
「だって……」
「早く行って下さい。アイリス様の身を
「……分かった。一旦、私達はここを離れるけど、必ず助けに戻るから」
「はい」
ロクサーヌは、ローラに心配を掛けさせまいと笑顔で答えた。
ヒュン!
ローラが馬車から飛び降りると、後方で
「
「その後は、どうするの?」
「分かるものか!
「結局、行き当たりばったりじゃない」
「仕方ないだろう。主導権は、完全に向こうが
「二人のせいではありません。今は、出来る事をやりましょう」
「ええい、
ヒュン! ヒュン!
「どうして、こうなった。あの受付嬢め! 何が『貴族を王都に届けるだけの簡単なお仕事です』だ。帰ったら、しこたま文句を言ってやる」
オルテガは、
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