第2話
――街の入口付近――
街は、魔物の侵入を防ぐべく、防御壁で取り囲まれている。
衛兵の立つ門をくぐり抜けると、そこには、今回の依頼主である一行が待っていた。
「意外と
オルテガは、思わず
そこには、三台の馬車が待機していた。前後を
「これだけ衛兵がいるというのに。私の手が必要とは、とても思えんな」
「それは、私も同感ね」
オルテガの背後から声を掛けてきたのは、若い女騎士だった。
彼女は、
「こんなおじさん、役に立つの?」
「見かけで判断しなさんな。彼は、『竜殺し』の称号を持っていると聞きましたぞ」
女騎士の横で長い
「どうせ昔の話なんでしょう?
「こら、ローラ、失礼じゃないか」
オルテガが振り向くと、今度は、馬車の方から一人のメイドを従えた貴族の少女が歩いてくるのが見えた。
「ローラ、先に馬車へ行って待機していてくれないか」
「はっ」
ローラは、アイリスに敬礼すると馬車へと向かって走って行った。
「付きの者が失礼しました」
「もしかして、
「ええ。依頼主のアイリスと申します」
アイリスは、そう言いながら
隣のメイドも静かに頭を下げている。
アイリスは、女騎士より更に若く、
見れば、彼女も紺を基調とした豪華な刺繍やレースの飾りの付いたドレスを着ている。お付きの者達も皆、紺を基調とした衣装を着ている。どうやら、一行は、彼女の好みに合わせているようだった。
「私は、オルテガと申します。この街で冒険者をしております」
「お話は聞いております。黒龍退治の経験がお有りとか」
「昔の話です」
「ご
「しかし、依頼主の方がこんなにお若いとは――」
「よく言われます」
アイリスは、照れ笑いを浮かべた。
「いや、
「そこまで気にはしておりませんので、お気になさらず」
オルテガが丁寧に言い訳をしている姿を見て、アイリスは、申し訳なさそうに気遣いを見せた。
「しかし、あんなお嬢ちゃんが最前線に立っているとは、世も末だな」
「貴殿も見かけで判断しなさんな。彼女の腕は、一流だ。父上を亡くされてからずっと、頑張って役目を務めている」
「だが、実戦経験はあるのか?」
「さすがにこの平和な世の中じゃ。そうそう実戦経験等積めんよ」
「なるほど。この部隊には、老兵こそが必要という訳か」
「そういう事じゃ」
「だが、確かに平和な世の中だ。俺の出番もあるかどうか――」
オルテガは、この時、あまり深く考える事はしなかった。
「ローラは、けして悪い子じゃないのですが――」
「これも
「すまんの~。ワシが少し強引に話を進めたばっかりに」
「というと?」
「先にも話したが、アイリス様の部下達は、皆若く、優秀だが経験が少なくてのう。それでワシが、経験の豊富な冒険者を一行に加えるよう提案したのじゃ。どうやら、それが、彼らのプライドを傷付けてしまったらしく――」
「なるほど、それで俺に
オルテガは、やれやれといった表情で馬車の付近にいるローラや衛兵達の姿を見やった。
「まぁ、あのくらいの年頃なら、そんな事もあるかもしれないな。実力があり、
「それに加え、彼女の場合は、父を失ったばかりで
「ああ。分かった」
「すまんのぉ」
魔法使いの老人は、ばつが悪そうにオルテガに謝った。
「さて、
そんな様子を見兼ねたアイリスが、場の空気を変えるように声を掛ける。
「では、オルテガ殿は、真ん中の馬車の
「了解だ」
オルテガは、魔法使いの老人の指示に従い、中央の馬車へと向かった。
こうして一行は、王都へ向かい、出発する事となった。
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