16話 明美は勝ちヒロインになる
綺麗な海が見えて綺麗な砂浜がある、そんな場所に一人悲しんでいる人が居た。
私だって分かってるもん。
しゃがみ、砂は指を撫でる。
だってさ、負けたくないし、なんで私だけが不幸にならないといけないのさ。
別に一緒に地獄に行ってもいいじゃん。
時々分かっている、自分のやっていることは馬鹿なことだって。
振られていたから、私は馬鹿なことをしたんだよ。
自分に問いかける。別に本気で好きじゃないし。
それならなんであんなに、しつこいのかな、自分のことなのに分からないよ。
砂をいじっている手は徐々に冷えていく。
私って何考えているのかな。
私は振られて、ただ慰めて欲しかっただけ。多分これが正解だと思う。
それなのに私はどうしてあんなことをしたんだろう。
馬鹿だな本当に。
明美は鞄から水筒を取り出し、カフェを飲む。
美味しくない。
はぁー、これからどうしようかな。
裕也にあんなこと言ってしまったし、多分、怒ってるし。
「私は、何してるんだよ」
独り言が漏れてしまう。
「別に、悪いことではないと思うぞ」
その時、横から声が聞こえた。昨日何回も聞いた声が聞こえた。
「どうして居るの?」
隣には、美味しそうにカフェをすすっている裕也が座っていた。
「まぁ、なんとなく」
「なによそれ」
少し微笑む明美。しかし、すぐに真顔になる。
「本当にごめんね」
「何が?」
「え?」
裕也は何も分かってないの? 私がしたことに。
裕也は首を横に傾ける。
「だって、今日迷惑掛けたじゃん」
「迷惑は掛けてないだろ」
「え?」
「別に迷惑なんて掛かってないよ、それに、考えたんだ、あの時困っていたはずなのに助けようとしなかったのは最低だなって考えたんだ」
「本当に言ってるの?」
「言ってるとも」
「私は、好きでもないのに告白をしたんだよ」
「もちろん、知ってる、だから俺も断ったし、仮に付き合ったとしても俺が振られるような立ち回りをしていただろうな」
「何格好つけて言ってるの?」
「別に? 俺は思ったことを言ってるだけだぞ?」
裕也はまっすぐな目で明美を見つめる。
何よ裕也のくせに生意気じゃない。
「だから、今日は俺と付き合ってくれ」
「え?」
「行きたい所があるんだ」
裕也は立ち上がり、明美に向かって手を伸ばす。
「それって告白?」
「今日だけな、今日だけ」
「ちゃんと、話聞いてよ?」
「それは、もちろん、話も聞くし、太るくらい美味しいいご飯を食べよう」
「私の話長いし、大食いだよ?」
「それはツッコミ待ちか?」
「馬鹿」
最大限の笑顔を裕也に贈る。
私は、とんでもない人に告白したかもしれない。
でも、とんでもない人に出会ったかもしれない。
でも、この人が私の春を温かくしてくれる人だ。
寒かった手はいつの間にか温かくなっていた。
「奢ってよね」
明美は立ち上がり、裕也の手を握る。
綺麗な海、綺麗な空、綺麗な砂浜、でもどんなに綺麗でも、今日の明美には勝つことができない。
だって、明美はこの日、世界一綺麗で、勝ちヒロインだから。
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