15話目 明美はただ悲しむ 

「チョコをチョコっと」

 

 部室に広がる声を無視して始まる放課後はどこか寂しさを感じる、わけないだろ。

 

 なんだよ、そのつまらないダジャレは。

 

 こっちが恥ずかしくなる、そうだよな、横に座っている彩音に目を向ける。

 

「麻衣さん、おもろい」

 

 彩名はお腹を押さえ爆笑していた。

 

 俺はそっと本の視線を向ける。

 

 何が面白いんだよ。

 

 チョコをチョコっと。

 

 首を少し傾け、分からないなと表情を浮かべながら読書を始める裕也。

 

 それと真逆な表情で笑い続ける彩音。

 

 静かにスマホを触る沙也加。

 

 告白の練習をしている明美。

 

 これは普通の青春って言えるのか? 否、絶対に言えない。

 

 俺は咳ばらいをして、みんなの視線を集める。

 

 「さて、これからの活動を計画を考えないか?」

 

「どうしたの真面目になって」

 

 麻衣は首を傾け問いかける。

 

 なんて可愛いんだその仕草。俺は何回だって言うぞそれなら。

 

 自分のキモい考えを振り払い、もう一度咳ばらいをする。

 

「えーとさ、部員は集まったから、活動していかないと」

 

 本当は、普通の青春を送るために、なんて口が裂けても言えないよな。

 

 麻衣は真剣な表情を浮かべ、口を尖らした。

 

 今から何を言うんだ。俺は息を呑む。

 

「私、やせる」

 

 裕也は椅子から転がり落ちる。

 

 おい、俺の話を聞いていなかったのか? 俺は今後の活動について話し合っていたんだぞ? あれ、俺が間違っているのか?

 他の三には麻衣に近寄る。

 

「どして」

 

 アイドルのような仕草をして、近づく沙也加。


 何か閃いた顔を浮かべながら近づく明美。

 

 無表情のまま近づく彩音。

 

 てか、俺以外全員女子やん、なんか青春って感じがしなくもないような。

 

 眉をひそめながら彼女たちを見つめる。

 

「私、太ったの」

 

 麻衣はチョコをポケットから取り出し、口に入れる。

 

 顔を膨らませ、最大限の美味しい表情をする。

 

 どんだけチョコ好きやねん。

 

「そうなの?」

 

 沙也加は一歩引き、自分の体を見渡す。

 

 いや、絶対に太ってないからね? そもそも、それで太っているなら俺が一番太っているだろ。謝りなさい俺に!

 

「だって昨日裕也に食わされたから」

 

 裕也は立ち上がり、部室を出ようとする。なぜなら冤罪だから。冤罪なのに、この状況を逃げなきゃいけない、だって後悔するから。

 しかし、逃げようと思った矢先、素早くカギを閉める明美。

 

 俺はそっと明美の目を見る。

 

 何故か怒っている。

 

 いや、あのね、だって昨日のあれを見たら逃げるでしょ? 誰だって怖いって言う恐怖心はあるよ? それがない人間なんて人間じゃないよ。

 

「さて、話をしよう」

 

 アニメ一番盛り上がるセリフを格好良く言う明美に裕也は苦笑いする。

 

 裕也は、静かに椅子に腰を下ろす。

 

 前に、明美、麻衣が座り。

 

 横に、沙也加が座る。

 

 じゃあ、彩音はどこに座ってるかって? そりゃもちろん、俺の後ろだよ。

 

 いつでも殺せるように準備してるんだよ、多分、多分。

 

「昨日私を置いて、麻衣とご飯を食べに行ったの?」

 

 明美は裕也のネクタイを掴み、怒る。

 

 怒るっていうより、呆れていた。私を見捨てて自分は楽しんでる裕也に怒りと呆れが沸いていた。

 

「そもそも、俺はいつ明美を置いて行ったんだ?」

 

「それは」

 

 口をもごもごとする明美。

 

 ほら、俺は冤罪だ。俺だって可愛い子と遊びたい。それは男子に生まれた以上本能だ。

 

 しかも、昨日俺は明美を置いて行った記憶はどこにもない。

 

 「私だって一応女だ」

 

 明美は顔を下に向け、照れながら言った。

 

「それに、裕也だって昨日約束したじゃないか」

 

「約束?」

 

 約束をした? まてよ、昨日約束なんてしてないぞ、俺は告白を何回もされただけだ。

 

 それしかないよな。

 

 「あれ、だよ」

 

 明美は目線を裕也に向けたり下に向けたりする。

 

 そして、明美は照れながら言った。

 

「私と付き合うって」

 

 持っていた、お茶を落とす。

 

 まてよ、何を言っているんだ? いや、昨日俺はそんなこと言ってないぞ? 本当に言ってない。

 

「いや待てよ、俺はそんなこと」

 

「裕也の嘘つき」

 

 そう言い、明美は立ち上がり部室を出る。

 

「あーあー、やっちゃったね」

 

 麻衣を俺を見つめて言う。

 これは、俺が悪いのか。

 昨日の出来事を思い出す。

 だってまず、明美は振られて俺に告白してきた。

 

 しかもその理由が負けヒロインになりたくないから、とかいう意味の分からない理由で。

 

 そんなこと言われたら誰だって断るだろ。

 

 断らないやつが居るならそいつはクズだ。俺だってそれくらい分かる。

 

 そんなクズになりたくなから、告白を断った。

 

 もちろん、その他の理由もある、俺と付き合ってもメリットもない、まして好きでもない人と付き合うのは苦痛だ。

 

 だから昨日は逃げただけだ、決して嫌いだから逃げた訳じゃない。

 

「困ったときに現れた王子様がこんなじゃ」

 

 麻衣は俺の目をただ見つめて言う。

 

 高校生で言うべきではないこを淡々と言う麻衣。

 

 こいつ、人生何週してんだよ。

 

 裕也は立ち上がり、鞄を持ち部室を出ようとする。

 

「追うのか?」

 

 麻衣はチョコを食べながら微笑んで言った。

 

「まぁ、同じ部員だし」

 

 そう言い、ドアを開け部室を出た。

 

 一応俺のせいで悲しんだのは確かだから、行くしかないだろ。

 

 そう思いながら、重たい鞄を背負って歩き出す。

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