第14話 冒険のすすめ
裕也はやっと学校に着き一息出来なかった。
裕也の前に座っている沙也加が笑顔で話しかけていた。
「えーと、あのね」
「うん」
「私部活まだ決まってないの」
「ほう」
「それでさ、よかったら何の部活入ったか教えてくれない?」
沙也加は可愛い仕草をしながら裕也の目を見つめる。
なんだ、この可愛さ。
目が焼かれる、危ないずっと見ていたら俺が俺じゃ無くなる。
「教えてよ」
沙也加は裕也の机に手を置き、優しい笑みを浮かべる。
「えーと、俺は文芸部に入ったよ」
「え? 文芸部?」
「うん」
「昔は本なんて読まなかったのに」
「昔?」
「いや、なんでもないよ」
自然と笑い、何とか誤魔化す沙也加。
「私も入っていいかな?」
「別に良いと思うぞ?」
「ほんと? やったー」
腕を高く上げ、アイドルのようなポーズをする。
こいつ、可愛い。
目を輝かせている沙也加、そして、俺を汚い物を見るかのような目で俺を見ている彩音。
そうだな、この状況を説明するにはちょっと遡る必要があ.....。
「きも」
俺の説明は無事に破壊される。
「私も文芸部に入る」
彩音は裕也の顔を見つめて宣言する。
そう、もう彼が犯罪を起こさないように近くで監視するためである。
「えーと、本好きなの?」
二人は頷く。
そうか、本が好きなのかそれなら入っても良い訳ないだろ。
絶対に駄目だ、俺の普通の青春が壊れてしまう。
だから絶対に駄目だ。
なんせ、やっと手に入れたんだ。
あの静かな部室で二人で本を読む、これが俺の求めていた青春だ。
それなのにそれを破壊しようとしている。
だから、絶対に駄目だ。
「別に良いんじゃない?」
窓辺に座り、いつの間にか裕也の肩を掴んでいる麻衣が言う。
「えー」
裕也は本音が漏れてしまう。
「だって、このままだと廃部になってしまうよ」
麻衣は裕也の肩を強く握る。
少しは空気を読めよと、メッセージを力とともに送る。
「たし、確かに」
なんだこの力は、リンゴを潰せそうなくらい強い力だぞ。
「じゃあ、私たちは決定ってこと?」
沙也加と彩音は目を輝かせる。
仕方ない。
くっそ、俺の普通の青春が壊れる未来が見えるぞ。
やっと手に入れたのに。
さらに絶望は続く。
そう、ドアから走ってくる明美に目を向く。
「私も入ってやろう」
落ち着いたのか、今朝の様子と比べると随分と変わっていた。
今朝の説明はまだ聞いていないが、訊かなくても想像できる。多分あってるはず。
「何にだよ」
冷たい声で裕也は言う。
その冷たさをかき消す暑さで語り始める。
「私が居ない文芸部など、文芸部じゃないぞ」
「へー」
他の3人は明美に目を向け始める、どこかワクワクしながら。
「例えば、鬼が棒を持っていなかったらどう思う? はい、そこの君」
明美は、沙也加に向かって指を指す。
沙也加は困った顔をしながら答える。
なんだよこれ、何が始まったんだ?
「鬼じゃない」
可愛い声で言う。
「そう、正解だ」
何故か明美は胸を張って言う。
いったい、何の誇りがあってそこまで自慢風に話せるんだよ。
目の前の状況に少し困惑しながら、ふと後ろを見る。
麻衣は、目をキラキラさせながら話を聞いていた。
どうして、全員興味が沸いているんだよ。俺が間違っているのか? 不思議な考えをしていると、明美は大きな声で言う。
「私と付き合うんだ!!」
明美はいつの間にか俺に手を指し伸ばしていた。
おい、まだ諦めていないのかよ。てか、この状況で告白するのは鬼だろ。
鬼、鬼まさか。
こいつ。
って、なる訳ないだろ。
「麻衣」
俺はこの状況から逃げるため麻衣に声をかける。
「?」
「顧問の先生探しに行こう」
「いいね」
そう言い、立ち上がる麻衣。
俺は歩き始める。
その後ろに麻衣はついて行く、もちろん、沙也加、彩音、明美も。
今から冒険するんか?
自分でツッコミながら歩き始める。
さて、青春の始まりだ。
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