第8話 ここから入れる青春はありますか?

「なるほどな、これが脈ありなのか」


 バスに乗り学校まで向かっている間に俺は動画を見ていた。


 ふーん。じゃあ、この状況はあれだな、ハーレムに当たるのか。


 右側に沙也加が座り。


 真ん中に俺。


 左側に昨日チョコを持ってくるよう契約してきた彼女。


 これが、ハーレムか。ってなるかよ、この状況は何なんだよ。誰か説明してくれ。


「ねぇ、チョコ持ってきた?」


 そんな悲しそうな顔で言わないでよ、なんかあげないといけないじゃん。


 俺は鞄からいい値段がするチョコを一個彼女に渡す。


「おお、これ美味しいやつじゃん」


 嬉しそうに食べ始める。


 バスって飲食ありなのか? よし、見なかったことにしよう。


 で、なんで俺の隣に座っているんだよこいつら。


「それでなんで俺の隣に座っているんですか?」


「なんとなく」


「そうねなんとなく」


 なんとなく、なんとなく、って言えば許されるのかよ。まあ、許すけど。


 俺はイヤホンを着け、再度動画を見始める。


 なんて言うのが正解か分からなかったから。


『恋は終わっている』


 おすすめの曲が流れ始める。


 どんな曲やねん。そして改めて考える、一理あるな。




「はい、これ弁当」


 前の机を俺の机にくっつける。


「本当に貰っていいのか?」


「うん、だって契約したし、それよりさ、頂戴」


 満面な笑みでチョコを求める。


 なんだよその可愛さは。チョコをあげるだけでこの笑顔が見られるなら100個あげよう。


 なんてことを考えていると。


「じゃあ、頂きます」


 手を合わせ弁当を食べ始める。


 可愛い、なんていうか、その、あれだ、駄目だ言葉がみつからない。


「俺も頂きます」


 手を合わして、一礼する。


 弁当を開ける。


 やば、この弁当。


 百点の弁当だ。


 美味しそうなハンバーグ、唐揚げ。男が好きな弁当を理解してやがる。


 これだよ、これ。こういうのが一番なんだよ。


 唐揚げを箸で取り、口に運ぶ。


 うっま。


 絶妙なサクサク感に絶妙な焼き加減。


 満点だ。


 「ねえ、名前教えてくれる?」


 弁当を机に置き、俺の目を見る。


「えーと、九条裕也」


「裕也ね、私は斎藤麻衣。よろしくね」


 俺に向かって手を伸ばす。


 俺は優しく手を握る。


 そして、弁当を食べる。


 これがずっと食べられるのかよ。これこそが俺の求めていた青春だ。


「ふーお腹いっぱい」


 言っていること違って、チョコを食べ始める。


「んんんん、うま」


 どんだけ美味いんだよ。

 体を揺らしニコニコしながら食べる。

 幸せの時間だな。


 けど、なんか違和感って言うか、なんか大切なことを忘れているんだよな。

 なんだっけ。大切な。


 あ。


 生徒会長の早見先輩のとこに行くの忘れてい....。


「まさか、私の約束を忘れていたとか言うわけないよな」


 仮面を被っているかのように顔を手で隠す。


「さあ、ここに来るんだ」


 大きく手を広げる。


 あのー、一応人沢山いますよ?


「ダーメ、今私と昼食べているの」


「いや、裕也は私と一緒に食べるんだ」


 言い合う二人。


 そうだった、俺の青春は普通じゃなかったんだ。

 俺の裾を引っ張る麻衣。


 手を広げ、まるで世界の中心に立っているかのようなポーズをする早見先輩。

 そして、何故か俺の教室に来ている姉。


 奥から走ってきている、美少女。


 俺のことを見ながらスマホを触っている沙也加。

 ここから入れる青春ってありますか?


 そうですか、ないんですね。

 じゃあ、普通じゃない青春を謳歌します。

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