第7話 強くなる為に③
その後も何軒か武器屋をハシゴしてみたが、どこも似たような量産品ばかり。
これなら最初の武器屋が一番マシだった気がする。
「仕方ない、最初の店に戻ろう」
踵を返し、俺は歩いて来た道を戻る事にした。
予算オーバーになるが、最初の店なら金さえ積めばそれなりの武器は手に入る。
それに優良店とされるあの武器屋なら、粗悪品を押し付けられる事も詐欺に遭う事もない。
「あれ、こんな所に武器屋なんてあったっけ……?」
最初の店へと戻る途中、俺は先ほど通った時には気付かなかった細道を発見した。
細道の向こう側には『武器屋』と書かれた小さな看板と水車が備え付けられているボロボロの小屋が見える。
「試しに入ってみるか」
駄目元で中に入るとその瞬間、金槌で金属を叩く音。
音は小屋の奥から聞こえて来るようだ。
近くに店主の姿は無い。
小屋の一画には木箱がいくつも置かれており、その中に武器が種類別に雑に放り込まれていた。
まるでワゴンセール、大手の武器屋のように見映えを気にする様子は全く感じられない。
「樽の中の武器が全品、銀貨三枚!?」
樽に貼られた紙に書かれた言葉に俺は驚愕の声を挙げた。
試しに樽の中に押し込まれた一振りの剣を鞘から解き放ち、照明に照らす。
光に反射し、その片手剣は眩い輝きを放っていた。
武器に詳しく無い俺でも分かる。
更に耐久値は魔剣クラス。
この片手剣が銀貨三枚なんてあまりに安すぎる。
剣を構え、その場で振ってみる。
適度な重量感、まるで自分の身体と同化しているような一体感。
華美な装飾などもなく、シンプルなデザインも実に俺好み。
「なんだ、やかましいと思ってたら珍しく人が来てやがったのか」
奥から現れたのは筋骨隆々のスキンヘッドの大男だった。
浅黒い肌、火傷だらけの手。
気付けば金槌の音は消えている。
「アンタがここの店主か? アンタに聞きたい事がある。質問させて貰っても良いか?」
「……質問?」
「ここにある武器はハッキリ言って安すぎる。何でこんなに安いんだ?」
「なんだ、そんな事か……それはな、ここにあるのが全て失敗作だからだ」
「失敗作……これが!?」
俺は驚きを隠せなかった。
ここにあるのはどの店に行っても金貨三枚は下らないレベルの武器達ばかり。
それが捨て値にも近い金額で売られているのだから、驚くのは致し方無い事である。
「あぁ、俺はずっと師匠の生み出した剣に追い付こうと必死に金槌を叩いて来た。だがな、ちっとも追い付けねぇ。だからそいつらは俺に取って失敗作なのさ」
「そう言うもん?」
「あぁ、そう言うもんだ」
「へぇ、そうなんだ。まぁいい、俺からしたら安くて高品質な武器が手に入るなら何でも。取り合えず、この片手剣とそこの片手剣も二本くれ」
手に持っている片手剣はメイン武器として、残りの二本は予備としてアイテムバッグに入れておこう。
もう二度と武器が壊れた時に困らないように。
「お、おい! 普通はこう言う時、俺の師匠の作った剣について興味を示す所なんじゃないのか!?」
「そう言われても……悪いけど、手に入らない武器に興味はないな」
目の前の店主がこの数々の素晴らしい武器達を失敗作と言ってる以上、店主の師匠が作ったと言う武器は相当な物なんだろう。
もしかしたら国宝クラスかも知れない。
だけど、そんな絶対に手に入らない業物を高望みしても仕方ない。
良い武器を買うこと、今の俺の頭の中にはそれしかない。
「はぁ、わかったよ……銀貨九枚だ」
店主に向けて指で金貨を弾くと店主はため息混じりにそれをキャッチし、つまらなそうに「毎度」と口にした。
俺は買った予備の分の二本の片手剣をアイテムバッグの中へと収納し、店主に別れを告げ、外へ出た。
「ロクアさん、今回もお願いします。これ、今回の報酬の銀貨二枚です!」
それからあっという間に再び彼女達と行動を共にする日がやってきた。
彼女達は今日も変わらず、学院の制服姿だ。
「いや、それはもう止めよう。前回の依頼で俺も君達に助けられたし、これからは依頼の報酬も均等に分けようと思う。君達もそれで良いか?」
ソードホーンウルフを皆で討伐したにも関わらず、ギルドからの追加報酬は無かった。
彼女達からの報酬を含めれば俺が銀貨四枚、彼女達は三人で銀貨一枚。
前回の依頼の時にも感じたが、あまりにも不憫である。
「やった! ロクアさん、本当に良いんですか!?」
「こ、こら……もう、フランってば!」
はしゃぐフランとそれを諫めるティア。
ルーテシアはそんな二人の様子を楽しそうに眺めている。
やがてフランは俺の前で身体を前屈みにして上目遣いを向けると、屈託の無い笑みを浮かべた。
「じゃあ、報酬の高い依頼にしません!? ほら、私達ってソードホーンウルフだって倒せる最強パーティじゃないですか! ロクアさん、どの依頼が一番いいか選んで貰っても良いですか!?」
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