第6話 強くなる為に②

 ホーネットスパイダーの生息するロッラの森へと赴き、俺は森の中心地でヤツと出くわした。

 ハチを連想させる黄色と黒の縞模様、蜘蛛のようにボテッとした体から伸びる足、背中には小刻みに震える翅。


「出たな、ホーネットスパイダー!」


 俺は目の前で滞空するホーネットスパイダーに向かって吠えた。

 ホーネットスパイダーの攻撃方法は口からの糸攻撃、尻にある毒針攻撃、噛みつき攻撃、爪による引っ掻き攻撃などが有名だ。

 さらに空を自由に飛び回る為、攻撃を当てるのも一苦労。

 おまけに毒攻撃を喰らえば最悪の場合、動けなくなってそのまま死ぬ事も珍しくない強敵である。


 剣を抜き、ホーネットスパイダーを睨み付ける。《耐久値鑑定》の結果、ホーネットスパイダーの最も耐久値の低い箇所は腹部だった。

 だが、それでも何発も攻撃をクリーンヒットさせなければ倒せない位の耐久値だった。


「果たして武器が最後まで壊れずにいてくれるか、そこが勝負の分かれ目だな」


 手持ちの剣はソードホーンウルフとの戦いで大きく損耗しており、いつ壊れても不思議ではない。

 出来る限りのメンテナンスは施してはいるが、それでも焼け石に水程度。


 予備の武器もあるにはある。

 だが、予備武器である短剣では空を自在に飛び回るホーネットスパイダーを捉えるのは不可能に近い。

 せいぜい投げナイフの代わりのように扱うのが精一杯だろう。


「キィィィィィ!」


 剣を抜いた俺をホーネットスパイダーが威嚇する。不規則な起動で俺の周りを飛び回り、時折、尻の毒針を突き立てようと突進してくる。

 何とか剣でガードするのだが、その度に金属同士がぶつかると響く甲高い金属音が起こり、剣の耐久値が減少していく。


 このままでは危険だと感じ、俺はホーネットスパイダーに向かって剣を振り回した。

 鋭く、速い斬撃。

 だが、そんな斬撃も空を自由に飛ぶ事が出来るホーネットスパイダーには掠りもしなかった。


「くそ、自分から攻撃を当てに行くのは厳しいか」


 高ランク冒険者や剣の達人なら相手の動きを先読みして攻撃を命中させる事も出来るだろうが、俺はCランク冒険者。

 いずれは彼らのようになるとしても、今はまだまだ実力不足。

 そんな俺がどうしたら格上相手であるホーネットスパイダーに勝つには、どうしたら──。


「しまっ……!?」


 戦闘中だと言うのに考え事をしていた俺。

 気が付くと目の前にホーネットスパイダーが迫って来ていた。

 手に持っている片手剣では防御が間に合わない!

 俺は咄嗟に片手剣を手放し、腰のベルトの右側に差してあった鞘から短剣を逆手で抜き、ホーネットスパイダー目掛けて払った。


 その瞬間、感じた確かな手応え。

 見ると、短剣はホーネットスパイダーの頭部を的確に捉えていた。

 そのまま凪ぐように払われた短剣はホーネットスパイダーの体を勢い良く弾き飛ばした。


 ホーネットスパイダーは勢いを相殺しきれず、体を大木へと激突させた。

 大木から葉がゆらゆらと数十枚、地面に落ちる。

 ホーネットスパイダーが大木に激突した直後、音を聞き付けた鳥達が一斉に空へと飛び立つ。


 ホーネットスパイダーは地面にそのまま倒れたが、すぐに体勢を整え、再び飛翔しながら俺へと向かって来た。


「あれだけクリーンヒットしたのに耐久値が少ししか減ってないとか化け物かよ……。でも、倒し方は今ので何となく分かった!」


 カウンターで一撃を狙いつつ、防御に徹する。これなら今の俺の技量でも何とかなる。

 何とも消極的な作戦にも見えるが、これだって立派な戦法だ。

 強くなる為に手段なんて選んでいられない。


「さぁ、来いっ!」




 ◆



「おめでとうございます、ロクアさん。今回の依頼達成でBランクに昇格しましたよ!」


 ホーネットスパイダーとの戦いを終え、満身創痍でギルドの受付に繭化したホーネットスパイダーを提出すると、受付嬢からランク昇格を告げられた。

 これで新たにBランクの依頼を受ける事が出来る。

 表情には出さなかったが、心の中で俺はガッツポーズした。


「こちらが報酬の銀貨八枚です。ご確認ください」

「あぁ」


 テーブルの上に並べられた銀貨を受け取り、ギルドを後にした。これから武器屋で壊れた片手剣に代わる武器を調達しなければならないのだ。


 俺が訪れたのは王都でも有数の武器屋だった。品揃えも素晴らしく、冒険者達からの評価も高い優良店。

 ランクも昇格したし、今回ばかりは少しばかり奮発してもバチは当たらないだろう。


「まぁでも、無難に片手剣かな」


 前世より身体能力には自信があるが、それでも両手武器のような重い物を持って戦うには筋力が足りない。

 槍や片手斧などの慣れない武器を使うのも危険だ。慣れない武器は己の致死率を高める。

 やはり速度を活かした戦いをする俺に最も最適な武器は片手剣しか無い。


「……ダメだ、しっくり来るのが見当たらない」


 柄の握り心地、剣の重量、振った時の感覚。

 店内にある片手剣を次々と試して見るが、ピンと来る剣は見当たらなかった。

 武器は己の命を預ける相棒とも言う。

 出来ることなら武器選びに妥協したくない。


「仕方ない、別の武器屋に行ってみよう」


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