第5話 強くなる為に
◆
「はぁ、はぁ」
戦いは長時間にも及んだ。
結果から言えば、何とか《耐久値鑑定》でソードホーンウルフの弱点を攻めたお陰で奴らを討伐し、無事に全員で生き残る事が出来た。
だが、思ったよりも彼女達の体力の消耗が激しい。
今は他に敵の姿は見えないが、もし今ここで他の魔物に狙われたら──。
「俺は敵が来ないかどうか通路を見張ってる。君達は回復に努めてくれ」
アイテムバッグから回復ポーションを取り出して三人に配り、身体に鞭を打ちながら、出入口に意識を集中させる。
「代わります。ロクアさんこそ一番傷だらけですし、休んでいて下さい!」
「君達が休んだら王都に戻って宿でゆっくり休むよ。俺の事を気にしてくれるなら、その分少しでも早く体力を回復させてくれ」
「……わかりました」
洞窟に入る前の俺の言葉が脳裏を過ったのだろう。
こちらからしたら今さら感が満載だが、ティアはそのまま大人しく引き下がった。
リンデア村へと戻って来て村長に依頼達成の報告をしたら話の流れで急遽、村総出で宴会を開く事になった。
主役はソードホーンウルフを倒した俺達、四人。
ちなみに宴会のメイン食材は俺がアイテムバッグに入れて持ち帰って来たソードホーンウルフの肉だと言っていた。
宴会の準備が着々と進む中、俺は村の外れで一人、地面に腰を降ろした。
「これから先、俺は一体どうすれば良い」
ソードホーンウルフとの戦いを思い出し、途方にくれて空を見上げる。
あの戦いで彼女達の魔法が無ければ俺は間違いなく死んでいた。
冒険者としての僅かにあった誇りが粉々に打ち砕かれた気分だ。
昔に何処かの誰かが言っていたが、この世界で魔法を扱えるのは三割ほどらしい。
魔法を修得していれば魔力が続く限り、何度でも魔法を使える。
攻撃、防御、回復、補助などの種類も多い。
必死に肉体を鍛えても初級の防御魔法を掛けられた素人に身体能力で負ける。
道理で世界で魔法使いが持て囃される訳だ。
「魔法、か……」
魔法が使えたら、と思った事は何度もある。
だが、俺に魔法の才能も一撃の火力も無い。
つまり、今ある力を更なる高みへと昇華しなければ俺に冒険者としての未来は無い。
パーティを組み続けたいと言ってくれた彼女達に応える為にも俺は強くなる。
心の中で固く決意し、その場に立ち上がった俺は拳を空へと突き上げた。
「絶対に強くなってやる! チート持ちや魔法使い相手にも余裕で勝てるくらいにだ!」
そして、その晩。
俺は宴会を抜け出して一人、ひたすら剣を振り続けた。
こんな事をしたって一気に強くなれる訳が無い事は分かってる。
だが、この胸のモヤモヤを晴らす為にはこうするしかない。
結局、その晩は身体が動かなくなるまで素振りを続けた。
そのまま仰向けになり、次に気が付いたのは翌日の朝。
周りには心配そうな目を俺に向けているティア達がいた。
「ロクアさん、大丈夫ですか?」
「……あぁ、いつの間にか寝てたのか。問題ないよ、そんな事より君達は良く眠れた?」
「は、はい」
「それなら三十分後に村を出て王都に戻る。速やかに仕度を整えてくれ、俺は村の入口で先に待ってる」
依頼達成をギルドに報告すれば今週の彼女達の課題は達成する。
そうすれば次回の課題まで時間的余裕が生まれる。
彼女達に心配を掛けずに強くなるなら、きっと今が好機。
まずはギルドの依頼を見直そう。
そして安定ではなく、自分の力を高める為の依頼を探してみよう。
皆で王都のギルドに戻り、昼前に外で彼女達と別れた。
学院に楽しそうに歩いて行く彼女達の姿を見送り、再びギルドの中へ。
依頼が貼ってある掲示板に直行すると、俺は掲示板を食い入るような目で見た。
「ホーネットスパイダーの討伐、推奨冒険者ランクはC+か……。素材は依頼者が引き取るようだな」
ギルドの依頼書はCランクから細分化される。
例えばCランクの場合ならC-ランクはDランク寄りの難易度、CランクはCランクの中でも平均的な難易度、C+ランクはBランク寄りの難易度と言う表記になっている。
「なるほど、そう言う事か」
ホーネットスパイダーは死んだ際に自身の糸で体を覆い、繭化する。
ホーネットスパイダーの糸は丈夫で伸縮性に優れ、人々から大変重宝される。
恐らく依頼者はその糸が目当てなのだろう。
それにホーネットスパイダーは凶暴な魔物としても知られている。
自分と比べると間違いなくホーネットスパイダーの方が格上だが、そうでなければ意味が無い。
俺は依頼書を剥がし、受付へと早足で向かった。
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