第3話 魔法剣術学院
半年後。
ロクアは王都にある《ヴィスタリア魔法剣術学院》の制服に身を包み、学院の校門の前に立っていた。
魔法剣術学院と言う名前ではあるが、必ずしも両方を扱えなければならないと言う決まりは存在しない。
クラスは《剣術クラス》と《魔法クラス》に分かれており、どちらか片方だけしか扱えなくても入学する事は出来る。
生徒の年齢は十五歳から十八歳まで。
もちろん、十八歳は最高学年の生徒達である。
ロクアが入学試験を受けられたのはセドリック騎士団長の力による所が大きい。
彼に相談していなければ、恐らくは試験を受ける事すら叶わなかっただろう。
「冒険者登録も済ませたし、今日から俺も高校──じゃなかった、学院生だ。頑張っていこう!」
転生前を含めると実に三十五年振りの学校生活に胸を高鳴らせつつ、学院の門を警備している兵士達の間を通る。
だが次の瞬間、そんな俺の制服の襟首を兵士の一人が掴んだ。
「おい、お前……新入生じゃないな?」
「いえ、新入生ですけど……」
「嘘をつくな!」
頑なにこちらの言葉を信用しない兵士達。
こちらも折れずに何とか学院に問い合わせて貰ったが、俺の入学は取消しにされていた。
制服まで用意したのに、最悪だ。
「……帰ろう」
これ以上この場所に留まっていても試験を受けられるようにしてくれた騎士団長の面子に泥を塗るだけだ。
意気消沈しながら宿に戻ると俺は学院の制服を《アイテムバッグ》に雑にしまい、慣れ親しんだラフな服装へと着替える。
ダメだった物をいつまでも未練がましく見ていても仕方ない。
そもそも俺は学院生活を送りたかった訳じゃない。強くなる為、学院に入って学びたかっただけだ。
その道が断たれた今、独学で強くなるしかない。
「ハッ! ハァァッ!」
女将さんから裏庭を使用する許可を貰った俺は宿の裏庭へと移動し、手持ちの剣で素振りを始めた。
それから更に一ヶ月が経過。
俺の冒険者ランクは一番下のEランクからCランクに上がり、冒険者としての生活にも慣れて来た頃。
いつものようにギルドへと行くと、見覚えのある制服姿の三人組の少女達と遭遇した。
彼女達には何の非もないが、出来れば近付きたくない。
彼女達の横を無表情で通り過ぎて依頼が貼ってある掲示板に向かう。
運良く掲示板で割の良いDランク向けの依頼書を発見し、それを剥がして受付へ。
「この依頼を頼む」
「ごめんなさい、今はまだその依頼を受理出来ません」
「……どういう事だ?」
「実は名指しでロクアさんに依頼が入ってるんです」
「そうか、依頼の詳細は?」
「依頼主はそこに居るヴィスタリア魔法剣術学院の制服を着た彼女達です。依頼内容は他の任務への同行と護衛。報酬は銀貨二枚です」
横を見ると彼女達がこちらに向け、軽く会釈した。悪い子達ではなさそうだし、依頼を受けてやりたい所ではある。
だが、その前に片付けるべき疑問が色々と残っている。
まずはそこを解決すべきだろう。
「どういう事か説明して貰えるか?」
少女達に話を聞くと少女達は学院に入学したばかりの新入生だった。
腰のベルトで剣を帯同している碧眼の金髪ポニーテールの少女の名は、ティア・エンドルフ。
《剣術クラス》の生徒で剣術だけではなく、初級の魔法も使える優等生らしい。
彼女の隣に居る小さな杖を持っている二人は《魔法クラス》に在籍するフラン・ゼスティノとルーテシア・グレイス。
フランはミルクベージュの長いツインテールと緑がかった瞳。ルーテシアは紫のストレート髪に深紅の瞳をしていた。
「エンドルフって何処かで聞いたような……」
「実はこの子、セドリック騎士団長の姪なんです! ロクアさん、ベルフェイムで半年くらい前にセドリック騎士団長と会ってますよね!?」
ティアの肩に手を乗せ、得意気に話し掛けて来たのはフランだった。
なるほど、確かに良くみれば彼の面影がある。
俺の事を知っていたのは、そういう事らしい。
「じゃあ、君達がギルドで依頼を出した目的は?」
「実は講師の先生から七日に一度、ギルドで依頼を達成するって言う課題が出されたんです」
冒険者の同行は任意だが、彼女達は万が一の事を考えて冒険者に同行して貰う事にしたらしい。
そこでセドリック騎士団長と面識のあるロクアに白羽の矢が立ったようだ。
「ロクアさんには出来ればこれからも私達と継続的にパーティを組んで欲しいと思ってて。あの、お願いできませんか!?」
「……その度に報酬を出して俺を雇うのか?」
一度の依頼で銀貨二枚の報酬を出すと言う事は、それを十回繰り返せば金貨二枚。
学生が出すにしては決して安くない金額だ。
「そ、それは……」
「分かりました! もし払えなくなったら身体で払います! ……ティアが!」
「ちょっと、フラン!?」
そこから目の前で彼女達のじゃれ合いが始まった。気づけばルーテシアもそのじゃれ合いに参加しており、滅多に聞く事のない華やかな少女達の声がギルド中に響いた。
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