第5話 支柱
同時刻、鷲尾 晋太郎(わしお しんたろう)は自宅のゲーミングチェアに腰掛けて右耳にイヤホンをつけたまま、左耳にスマートフォンを当てて通話をしている。紺色で薄手のロングカーディガンを羽織っており、デスクの上にはリュックサックが置かれている。 黒髪の長髪を奇麗に折りたたみ、全ての髪が頭皮部分に収まるようにヘアピンで固定されている。
「ハロハロー、1週間ぶりかな?先週話した時に依頼した件なんだけど。予定通り時間空けておいてくれてありがとね。
早速なんだけど、事前にスマートフォンに連絡しておいたから、確認取れたら折り返し連絡もらってもいいかな。3分以内に頼む。じゃ。」
鷲尾はそう言うと通話を切り、白、灰と黒の毛が生えた長毛の猫を撫でながら右耳のイヤホンから聞こえているカラオケボックスの音声へ傾聴すると、短髪のかつらを丁寧に被る。
―
「今から口を開いた者はこの拳銃の餌になってもらいます。わかったら口を閉じていてください。
そこの怯えてる君。スーツの彼からスマートフォンと財布を取り上げて、こっちに渡してもらえるかな。」
鯨井は不敵な笑みを浮かべているものの、冷たい瞳をしている。
田中は怯えながらも指示に従い、鴨野のポケットからスマートフォンと財布を取り、鯨井へ手渡す。
「じゃあ次はこれで彼の手足を縛ってください。きつくお願いします。両手は後ろで。」
鯨井はジップタイプの手錠をテーブルの上へ置いて、再び田中へ指示する。
田中が指示通り作業を終えると、鯨井は2人へ座るように促し、鴨野から取り上げた財布の中身を弄る。
「おい。何やってるんだ。」
縛りつけた鴨野が怒鳴り声をあげたその時、鯨井は拳銃を田中へ向けて躊躇うことなく発砲した。
鴨野は大きな奇声を上げて頭を抱えて蹲っている。
「あなたがその人を殺しました。黙っていることもできないんですか。まあ口はひとつあれば十分ですから。また口を開いたら次はあなたの頭ですよ。質問をするまで呼吸だけしててください。」
鯨井はけだるそうに吐き捨てると、発狂状態に陥る鴨野を横目に再び財布へ目を移す。
「では要求を開始します。とりあえず端金ですが、500万円用意してもらえますか。もしも難しそうならあなたもここに転がるヒトと同じになるだけですが。
もちろん自腹でとは言いません。詐欺で集めた金でいいんですから。承諾以外の言葉は死を意味します。どうしますか。」
鯨井は淡々と伝え、すでに無表情になっている。
「なぜ詐欺のことを…」
鴨野は体を震わせ、鯨井のほうを見ることなく俯いたまま問いかける。
「なんでもわかりますよ。大地は繋がっているんですから。それで、返事は。」
鴨野は鯨井のよく分からない答えに顔を上げて困惑しながらも恐怖のあまり小さく頷く。
「話のわかる人で良かったです。それでは部屋が若干血生臭いので場所を変えましょう。安心してください。死体は利用可能時間が残っている限りばれません。」
そう言うと、鯨井は鴨野に対して妙な動きをしたら頭を吹き飛ばすと言い、鞄からカッターナイフを取り出して足の手錠を切り、先に進ませて部屋を後にした。
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