コンビニにて、君は

ヤマノカジ

コンビニにて、君は

深夜一時、月の光が明るい頃。

どうにも寝れない。

目を瞑って視界を真っ暗にしても、頭の中を空っぽにしようとしても寝れない。瞼も重さなんかすっかり忘れてしまったようにぱっくりと開いてるし。

まぁどうせ明日休みだし、今日はオールするかぁ。


でもやることなんてない。うーん…


意味のない暇つぶしに脳みそを必死に回す。

きっとこうゆう事するからいつになっても眠れないんだろうなぁ。と思う。


そうだ、散歩がてらコンビニ行くか。

僕はパジャマから最低限外に出ても恥ずかしくないような格好に着替え、財布を持って、靴を履く。

鍵の確認して、コンビニへの一歩を進める。


11月の、短い秋が終わって冬になりかけている寒い空気に包み込まれる。

寒さで、肺が収縮する感覚がする。

もうちょっと着込んでくればこの肺が収縮する感じを味わなかったかもしれないな…


いつも歩いてる道もこう、誰も居ないと不思議な感覚になる。

いや、元々そうあまり人がいる街ではないのだが…。自由になった感覚になる。

鼻歌ぐらいだったら歌いながらいっても誰にも痛い視線を向けられないだろうと思い、俺は鼻歌で陽気に歌う。


夜道を抜けていくと、月の明かりではない、人工的な光が僕を襲う。

コンビニだ。


車か一台も止まってなく店員すらいないのでは?と思うぐらい静かである。


誰か興味あるんだ?というイベントっぽい物を宣伝する看板ぽい物を横目に自動ドアを通過する。


居ない。


店員が居ない。

頭を掻きながら今まで起こったことのない事象について頭を回す。

うーん。

まあいいか、どうせワンオペ中で今休んでるだろ。


僕はそんな、適当な考えで頭を回すのをやめた。


アイスコーナーや冷凍食品のコーナーの近くを通るとなんだか寒い気持ちになる。

いや、きっと今が夏だったらすごい手とか突っ込んでだとは思うけど。今は寒い。ただそれだけのものである。


カップラーメンとカルパス二個、それに加えおにぎり一個をレジに持って行く。


言うかぁ…


はぁ。と深く息を吸った後俺は

「すみませーん」

と声を上げる。


奥の方で小さくあ!すみませーん!と聞こえてきた気がすると、慌ただしい音がどんどんこっちに近づいてくる感覚が強くなる。

「え、山田君?」

「先輩?」


居ない店員は先輩だった。

大学の先輩。

サークルが一緒で遊びに誘ってくれたり、色々とよくしてもらってる気がする。

「ここで働いてたんすか」

「まぁバイトだけどね」

先輩が僕の胸元を見る。正確には持っている商品だろうか。

「会計でしょ?まさか万引きしようとしてた?」

少し揶揄うよに語尾が上がっている。

「会計ですよ。はぁ…」

内心、こう言う事を言ってくれる先輩が、好きだ


スムーズに先輩は商品をレジに通す。

僕もそれに呼応して、財布を取り出す。

会計を済ませるとマニュアルに書いてあるであろう、「ありがとうございました」

という言葉に追加されて言われる。

「また明日ね」

僕は何も言わずに、コク、と頭を下に下げて肯定の意を伝える。


ついでにトイレもしていこう。

僕は出口とは違う方向に足を向け進む。


飲み物を置いている場所の隣にあるトイレは少し汚い。


トイレ特有の明るさが眠気を誘ってくる。

欠伸をしながらダラダラと用は足し終わったのにスマホをいじる。


瞼が重さを思い出した頃合い、奥から荒々しい声が聞こえてくる。


モゴモゴしていてあまり聞こえないが何か問題があったのだろうか…


「きゃああ!」


金切り声がトイレまで響く。

先輩の声だった。


目が落ち着く居場所を求めてぐるぐるとする。


トイレから出たら絶対に知りたくない現実が待っている。

その事実が僕に刺さる。


トイレの臭さもなんだか血生臭く感じるようになってしまった。


ゆっくり、僕はスマホの電話画面を開いて、

110と打ち込む。

電話の相手に伝える声も震えて自分が何を言おうとしているのかわからなくなりそうになる。


何かあったかもしれないです。助けてください


そう僕は言って頭を狭いトイレで抱える。



何が起こったのかわからない。


ただ、ずっと怖い。怖い。


いや、ただの、店員と客だ。

そうだろ。それ以上でもそれ以下でもないだろ。

拳をギュッと握りしめる。


そうやって僕は嫌でも回ってしまう頭を止めようとした。

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コンビニにて、君は ヤマノカジ @yAMaDied

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