第12話 溺愛

事実婚…それが最善だと思った。


海月を再び父さんや智志に会わせたくはないし、そもそも何を言われるかわからない。

だからと言って諦めたくもないし、諦めるつもりもない。

弓月という特別な存在もいるし、何より俺がもう無理だから。海月無しでは人生に彩りがなくなる。


愛しくて、可愛くて、たまらない。


ずっと求めた女を俺は本能のままに抱いた。

しつこいくらい愛撫した。

海月が弓月を起こさないように必死に声を殺す姿が、それがまた可愛い。


幸せを噛み締めた…やっと手にいれた幸せ。



****


そして…とりあえず俺は新居を探し早急に引っ越した。家族3人が暮らせるような家へと。


先に俺が引っ越しをし、生活感を出す。そこに弓月を徐々に慣れさせた。少しずつお泊まりを増やしていく方法で。


「おうたん、あそぼー」


いつもいるオジサンを父親とは認識していない。最初にママのお兄ちゃんと言ってしまったのもあって、お父さんとお兄ちゃんが混乱し『おうたん』と呼ばれている。

寂しいけど仕方ない。


新居には俺の部屋と海月弓月の親子部屋がある。それは弓月への配慮。今まで2人だったんだ…ママとの時間は大事だろうと。


だから営みの時は、海月が俺の部屋に来る。

今のところ泊まりの時は毎回、数時間のスキンシップを重ねている。本当は一緒に寝たいんだが…我慢。




そして完全に一緒に暮らし始めた頃…海月は2人目を妊娠した。



今度は最初から一緒に過ごせる喜び。少しずつ大きくなるお腹に感動した。

もう兄とは違う、完全に父親としての実感。


「俺の子供がここにいるんだよな」

「そうだよ、弓月もそうだったんだよ」


そうだ…弓月だってこんなふうに、海月のお腹にいたんだよな。


「ママ、アカチャンがいるの?」

「そうだよ、弓月はお兄ちゃんになるんだよ!」

「…アカチャンのパパはいるの?」


弓月も3歳になって色々と認識しているらしい。保育園には片親も少なくはないからだ。


「アカチャンのパパは…おうたん?」

「…そうだよ…」

「アカチャンには…パパいるんだね…いいな…」


ショボンと視線を落とし瞳を潤ませる弓月。俺はそんな弓月を優しく抱きしめた。


「弓月のパパもここにいるよ」

「おうたんは…アカチャンのパパで、弓月のパパじゃないよ?」


瞳に涙があふれる弓月。

やっぱり父親も必要なんだろう…大半のお友達には普通にいるもんな…両親共に。


「弓月は…本当に本物の、俺の子供だよ?」


俺は弓月を抱いて鏡の前に立つ。


「見てごらん。俺たち、凄くソックリだろ?目も鼻も口もママより俺とよく似てる」


最近、本当に昔の俺に似てきた。誰に聞いたとしても俺の子だとわかるだろう。


「おうたんは、ボクのパパなの?ママのお兄ちゃんじゃないの?」

「弓月のお父さんだよ」


海月がポロポロと涙を溢す。母親としても切ないよなきっと。


「弓月のパパは…おうたん…だよ!アカチャンと同じなんだよ」

「そっか、良かった!おうたん!パパ!」


へへへと笑う弓月…凄く嬉しそうだった。

やはり小さいながらも感じるのだろうか…疎外感というものを。


いつかは話さなければならないだろうか?事実は…伏せておけない時が来るのだろうか?色々と考えてしまうが…。


(それはまた、その時が来たら考えるか…)


「パパ!パパ!ボク、パパといっしょにネンネする!」

「そうだな!一緒に寝よう!」


これが俺と弓月が親子になった瞬間の時だった。




****


月日は流れ…誕生した2人目は女の子だった。

海月によく似た女の子。

名前は…


花月かづき

「えー?ハナちゃんでしょ?」

「そうだよ、花ちゃんだ」


弓月がずっとオナカに『ハナちゃん』と声をかけてきていた。女の子と知ってからずっと。

だから『花』を付けると決めた。


「ハナちゃん、お兄ちゃんだよー!」


嬉しそうに花月に触れる弓月。それに反応したかのように笑顔をみせる花月。


「ハナちゃんの事、守ってあげてね?お兄ちゃん?」

「うん!」


幸せいっぱいの家族、絶対に守ってみせると心に誓う。俺の宝物達…壊させたりはしない。





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