第9話 海月…初恋と始まり

小野沢 海月…ママが離婚して名前が変わった。正直、名前の変更にはピンとこない年齢。


そして、ママに恋人ができ、パパみたいな人が家にいた。優しくて楽しいパパ。


そして、私に兄ができた。

優しくてカッコいい智志兄、クールでカッコいい弓弦兄。

私の自慢のお兄ちゃん達…大好きだった。


だけど、弓弦兄は近付かせてくれない。

私とママを受け入れてはくれない。


だから自然と智志兄と仲良くなった。私達は弓弦兄の居場所を奪ってしまったんだ。


家にいても部屋から出てこず、高校は寮に入る事になった弓弦兄。

誰よりも気になる存在…私のこと、嫌い?そう思えば思うほど好きになる。

私の初恋の人、11歳で芽生えた恋の意識。

兄なのに…血の繋がりはなくても兄なんだ。

これはオープンにしてはいけない罪深い恋なんだ。



12歳…中学生になって間もなく、母が他界した。交通事故だった。


最愛のひとを亡くした父は、どんどん衰弱していく。心が病んでいく。

外で頑張れば頑張るほど、家に戻ると脱け殻になり…気がつけば、お酒を浴びるように飲むようになった。


「お父さん、体によくないよ…」


見かねて初めて、酔っている父に声をかけた。


それが…始まり…。



「お父さん?」


私を見つめて瞳を潤ますと私を抱き寄せた。

その時は、寂しくて抱きしめてきたんだと…特に何も感じなかった。

それが油断だった。


「美波…」


母を思い出して涙する…私は、父を優しく抱きしめ返した。


「美波」


すると父の顔が近付き唇を塞いだ。驚きと戸惑い。顔を背けようとするけど追いかけてくる。

父の手が私の胸を掴む。

怖い…何が起きてるのか混乱した。


「いやっ!やだ、やめて!」

「何で逃げるんだ、美波」

「違う!私は海月だよ!」


叫んでも届かない声、押さえつけられる体。

逃げようとしても逃げられない程の力の差。


「約束、覚えているかい?」


問答無用に身ぐるみを剥がされ露になる裸体。


「お父さん!私はお母さんじゃない!」


どんなに叫んでも声は届かず進行する行為。

初めて貫かれる体は苦痛で叫びまくる。涙が止まらない。

こんな風に初めてを失うなんて思ってなかった。


お酒が入ると私がわからなくなる父。

遅く帰ってきて寝てる私を襲うのは、大体が接待のあと。

時々、家で飲んでる日もある。

気が付けば週に2度ぐらいは強要されていた。

大体が深夜だから…逃げだせず…苦痛に耐えた。


こんなの誰にも知られたくない。でも…その時はやってくる。


中学2年生直前に生理がはじまった。それまでなかった現象…そして恐怖。

14歳の私をどん底に突き落とす。


(生理がこない…遅れてる?)


どうしたら良いのかわからず…無意識だった。

とにかく家にいたくないもう…イヤだと、たどり着いた先は…弓弦兄のところ。


寮に住んでいた弓弦兄は高校を卒業すると1人暮らしを始めていた。唯一逃げ込める場所。


昔に比べ…母が亡くなってから弓弦兄は少し優しくなった。少なくとも突き放したりはしなくなった。だから余計に甘えてしまう。


私が訪ねると驚きながらも優しく笑いかけてくれた。

でも…私は逆に後悔する。

言えるわけない、大好きな弓弦兄に…。


結局…助けを求める事もできず、家に帰れば同じ事の繰り返し。気が付けば…心を無くしていた。

その時間は何も考えず終わるのを待つ。反応もしたくない。


事後に私は1人になりたくて部屋を出る。途中、トイレに目覚めて自分の部屋に戻る父を待ってから。


(気持ち悪い…目眩がする)


リビングでソファーに寄りかかる。


「海月…」


リビングの入口に立つ智志兄、滅多に家にいないのに。


「何で?」

(何でいるの?)

「どういう事だよ…」


私は一気に血の気が引いた。目の前が真っ暗になって意識がとぶ。




目覚めた時には病院のベッドの上だった。

病院のベッドで知らされる事実…予想は的中していた。


妊娠2ヶ月…。


智志兄の計らいで隠密に進む話…堕胎後はしばらく智志兄がソバにいてくれた。術後の安静期間を父から守ってもらうため。

そして、様子を知った智志兄の薦めでピルを服用することになった。少なくとも妊娠だけは避けれるから。



だけど…更に事態は悪化する。


いつまで続くのかわからない…諦める必要あるのかもしれない。

父は私に妊娠を求めている…母との間に子供がほしくて。だからそれまでは永遠に続くのかもしれない。


私は…父の子供を出産しなければならない…だから高校を卒業したら…ピルは終了…それが私の生きる道なんだ、きっと。

…そう思った。




15歳…高校1年生…私の体は大人のものになる。


「確かに良い体してるよな」


私を抱きながら智志兄が笑う。

智志兄に知られて、しばらくすると智志兄も私を求めるようになった。

父との行為に興奮をおぼえたとか…ストレスが溜まってるとか…荒々しく私を抱く。

そんな人ではなかったハズなのに。


「海月がエロいんだよ」

「…は…?」

「本当はイヤじゃないんだろ?簡単に受け入れて」


(酷い…)


「嫌なら逃げればいい」

「押さえつけられて逃げられるわけない!」


(身動きできないくらい押さえ込むくせに!逆らえないように縛り付けるくせに!)


全てが問答無用…ピルを服用しているのを良いことに避妊さえしない。都合の良い女。


「違うね、海月はこの状況が楽しいんだよ。嫌なら家を出れば良い。高校なんか行かず、働けば良い。1人で生きていけばいい」


私はビクッとした。それは私も考えてたこと。

だけど…社会に1人で生きていくのが怖かった。

馴れてしまった、この状況…我慢をすれば生活はできる。路頭に迷うのが怖かったんだ。


逃げ出したいなら…そうできた。でも、勇気がない。弓弦兄みたいに1人では生きていけない。



(会いたい…)


弓弦兄に勇気をわけてほしい。だから時々、会いに行くようになった。


この親子と同じ血をもつ弓弦兄…それなのに…私には同じに思えない。


優しくて厳しい…私は弓弦兄と一緒の時だけ安心する。

気のせいかも知れないけど…弓弦兄は私を大切に思ってくれている。そう感じられるから。



だからね…凄く嬉しかった。


正直、バレてしまったのはショックだった。淫らな私を知ってほしくはなかった。

でも…救いの手を差しのべてくれた事が嬉しかった。



同居生活が始まって、今まで一緒の時間をすごす事が少なかった私達だったから何だか新鮮で楽しかった。

だけど同時に苦しかった。


兄と妹…決して踏み外さない弓弦兄…当たり前なのだろうけど。

兄として紳士的に接してくれるから妹として遠慮なく甘える。バランスはとれてる。


だけど…募る恋心はどうしたら良い?

(切なくて、苦しい)



私は早く高校を卒業する事を待ち望んだ。







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