第7話 久しぶり

それから3年…28歳になった頃、智志は結婚した。会社の後継者と認定され、どこかの会社のお嬢様と婚約。曖昧な情報なのは俺には関係ないからで、相手の事はどうでもよく、知らないからだ。


血縁者であるのに、もう家族の感覚はない。

あの日以降…俺は家族に対して嫌悪していた為、会ってもいなかったし、できれば会いたくはなかった。

ただ…さすがに会社関係の結婚式に出ないわけにはいかず…渋々出席したわけだけど。


「弓弦、久しぶりだな」

「ああ…」

「たまには連絡ぐらいよこせよ」


自然とそういう会話になってしまう。当たり前か。


「奥さん、若いな」


確か23歳だっけか?大学を卒業してからの結婚だって話だったから。海月と同じくらいだ。


「だろ?彼女の友人達はまだフリーの、いるぜ?」

「別に興味ない…」


別に結婚式で出会いなんて求めない。


「恋人いないんだろ?」

「ほしくない」


愛せる女以外は必要ない。28だから余計に時間の無駄だと思う。



***


挙式が終わり、披露宴に入る。

立食式で自由に動き回れる為、俺は壁に寄りかかり身を潜めた。この場から去っても気付かれないかと思いつつ様子をうかがう。


「あの…」


女子グループの1人が声をかけてきた。奥さんの友人だ…。


何かずっと話しかけられていたが内容は覚えていない。興味ないから曖昧に返事していた。


そして披露宴も半ば、スライドショーが始まる。新郎新婦2人の幼少期の写真。当然ながら俺も写っている。さすがに海月は出てこないけど…。


「これって弓弦さんの子供時代でもありますよね?」

「まぁ…そうですね」


オマケだけど。


「凄く驚きです!ビックリ!」

「何が?」

「あ、私…保育園の先生やってまして、うちの園児に可愛らしい男の子がいるんですけど…凄く、弓弦さんにソックリです!この小さい頃が特に」

「へー…似てるんだ?」


何となく興味が引かれ、その話題を続けた。


「そのこ…何歳?」

「2歳ですよ。母子家庭の子なんで生後半年から預かってるんです。だからちょっと、自分の子供感覚なんですよね!弓弦さんと、私の子…なーんて?」


後半は無視スルー

だけど、2歳という年齢が気になってしまった。一瞬あの日の事が頭を過ったからだ。


(2歳…いや、まさかな…)


名前も知らない、海月に似た彼女を思い出す。

可能性はあるが、そもそも妊娠したとしても出産するだろうか?一夜の男の子供を。


確認しなくてはならない案件だった。仮に彼女だったら無責任になるワケにはいかないし、何よりずっと気になっていたんだ。


「見てみたいな…そんなに似てるんだ?」


その確認も、この女性ひとに協力してもらわないとならない。


「あ、じゃあ…私とデートしませんか?お母さんはだいたい、私が帰宅する頃にお迎えなんですよね!保育園の横の公園で待ち合わせしませんか?きっと会えますよ?」


ちゃっかりデートの要求されたが、呆れつつも承諾した。その方が話しは早い。

どうしても確認したい…彼女なのかどうかを。


「いいよ、じゃあ月曜日…いきなり大丈夫?」

「もちろんです!」


申し訳ないが確認したら、食事だけ付き合ってその後はサヨナラになる。

少しだけ申し訳なさを抱いた。


「楽しみにしてます!」



****


そして月曜日。

俺は定時に仕事を終わらせ待ち合わせ場所を目指す。


保育園を横目に公園に向かいチラリと中をうかがいながら歩いていた。前を向かずに歩いていたものだから、横を通り過ぎる人に気付かなかった。


俺を抜いて保育園に入っていく女性は仕事から直帰だろうか?スーツ姿だった。

俺はその後ろ姿に何故か懐かしさを感じた。

(まさか…)


「あ、小野沢さんお帰りなさい」


保育園の中から声がする。


(小野沢…さん?)

弓月ゆづき君、ママきたよー」


俺はマジマジと声のする方を見た。緊張で動悸がする。

そして、建物から出てきた親子に思わず反射的に行動をしていた。


「海月!」


(間違いない!正常な意識で間違えるハズない)


俺の声に反応する母親。キョロキョロして俺の声がした場所を探す。


「海月!」


再び俺は彼女を呼んだ。そして彼女は俺に気付く。


「弓弦…兄?」


驚きと戸惑いを隠せずオロオロしている。

中に入れない俺は彼女達が園から出てくるのを待った。


「小野沢さん」


オロオロしている海月を心配そうに見る先生。多分、俺は今不審者だと思われているのだろう。


「あ、大丈夫です。知り合いなので」


我に返りそう伝えると、海月は俺に近付いてきた。


「海月…」

「…久しぶり…だね。どうしてココに?」


確かに戸惑うよな。普通なら俺がココにいるわけない。


「知り合いと…待ち合わせ」

「そうなんだ」

「オマエ…たまには連絡よこせよ…心配するだろ…」

「……」


縁が切れているのに連絡を要求するのも違うような気もするが…。

俺はチラリと海月の横を見た。多分、間違いなく、あの人が話してた子供だろう。


「その…子は?」

「……私の…息子」

「小野沢って…前の姓だよな…美波さんの」


コクりと頷く。

いや、元々、海月は小野沢のままだったんだが。


「もしかして…シングルマザー?」

「う…ん」

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